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エリックの策

 ゴーゼンの折れた剛剣が宙に舞い、ざくっと地面に突き刺さった。

 振り上げた時に剛剣と一緒にゴーゼンの額も軽く切れた。

 命に別状はないだろうが、パクっと切れた個所から鮮血がこぼれる。


「なんだ。血は赤いじゃないか」


 ゴーゼンの言った『青き血』とはしばしば貴族至上主義の人間が使う言葉だ。要は、自分達は平民などよりも、優れた高貴の人間ということらしい。

 零れ落ちる鮮血と同時に、ゴーゼンも膝を折る。


「そんな・・・剣が・・・私の、誇りが・・・」


 その瞳には先ほどまでの力強い光はない。

 どこか虚ろで焦点が定まっていない。

 ブツブツと独り言を呟き続けている。


「アドルフだったら、剣が折れても戦ったぜ」


 スティーグは数少ない男の友人を褒め称えた。

 ゴーゼンはアドルフの師匠を気取っているようだが、スティーグに敗北して以来、アドルフが陰で努力を積み重ねてきたことをスティーグは知っている。

 若い頃、手ほどきした事など全く問題にならない。

 現在では間違いなくアドルフの方が実力は上だった。

 そんなスティーグの言葉も、今のゴーゼンにはまるで届いていないようだった。

 剣と共に心も折れてしまったようである。

 そして、心が折れたのはゴーゼンだけではなかった。


「そんな」

「まさか」

「隊長が、負けた?」


 見守っていた部下の騎士達も、変わり果てたゴーゼンの姿にショックを受けていた。

 まだ、無傷の騎士は数十人残っているが、戦意は完全に喪失していた。

 もはやここからの挽回は不可能だろう。

 勝敗は決したのだ。

 そんな中、ただ一人、動揺することなく、平然と佇む人物がいた。

 誰あろう、エリック王子その人である。

 さすがのエリックも現状から勝利することが難しいのは理解していた。

 だが、それでもエリックは自分の勝利を疑わない。

 何故なら自分は天に選ばれた存在なのだから。

 だから自分が勝利を望めば、必ずそれは達成される。

 それこそがこの世界の摂理なのである。

 それにエリックにはこの状況を打開する策があった。

 そして、その策を実行に移せるのは、自分以外にいないのだ。




 エリックは悠然と歩を進め、スティーグに歩み寄った。

 不敵な笑みを浮かべて、スティーグを称える。


「平民としては見事だ。まぐれとはいえ、ゴーゼンを下すとは、な」


 多分、褒めているのだろう。まったくそんな気はしないが。


「その力量に免じ、今回のことは不問としてやろう。感謝するがいい」

「・・・?」


 スティーグにはちょっと意味がわからなかった。

 今の言葉を頭の中で反芻し、ゆっくりと意訳する。

 つまり、『敵わないから、ここで戦いをやめとこう』ということなのだろう。

 しばらく、エリックを見つめた後、スティーグはようやく言葉を口にした。


「・・・バカか?」

「な、なんだと!?」

「もう一度言うぞ。バカか!」

「見逃してやろうというのだ! ありがたく思え!!」


 どうあっても負けを認めるつもりはないらしい。

 その上エリックはこんなことを言い出した。


「その剣」

「・・・やらねぇぞ」


 スティーグの剣を見つめるエリックは、構わずに手を伸ばす。


「そう言うな。すでに戦いは終わったのだ。見逃してやった代わりに、手に触るくらい構わんだろう」


 一方的に仕掛けておいて、勝手に終わりと決定してしまったらしい。

 その上、どこまでも上から目線を崩さない。

 こんな要求を飲む必要は一mgも存在しない。

 なのだが、スティーグは素直に剣を差し出した。

 エリックはそれが当然であるかのように、差し出された剣を受け取った。


「良い剣だ。切れ味だけでなく、よく見れば美しいではないか。平民などが持っているのは惜しい。この私が持つに相応しい」


 すっかり自分の物にしてしまった気でいる。

 月明かりにかざして、適当に振ってみたりする。


「・・・そろそろ返せよ。お前なんぞが、気安く持っていい剣じゃねーんだよ」


 スティーグの無礼な言葉も、今は寛大に応じた。

 エリックはニヤリと下卑た笑みを浮かべた。

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