表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
168/520

エリック

 エリック王子の話をしよう。

 彼は幼少期、非常に体が弱かった。

 頻繁に寝込み、二度ほど生死の境をさまよった。

 そんな経緯もあり、王子としての立場も相まって、エリックはこれでもかと言うほど過保護に育てられた。そのことが、エリックの人格形成に大きな影響を与え、些細なことでも、思い通りにならないとすぐに癇癪を起す我儘な性格になってしまった。

 そんなエリックに転機が訪れたのは五歳の時。

 父であるアーゼル王が突然、平民から側室を取ったのだ。

 アーゼル王自らが連れてきたその女性の名はリリーナ。リセリアの母親である。

 その時、既に彼女は身籠っていた。

 平民から側室を取るなどエルベキア王族の中では前代未聞であり、驚天動地の大事件であった。

 後で聞いた話だが、アーゼル王は若い時分は非常に奔放な性格で、城下に度々、お忍びで遊びに行っていたらしい。その時知り合ったのがリリーナだという。

 アーゼル王はリリーナを本気で愛していたが、当時、王子という立場もあり、平民のリリーナを妻に迎えることができなかったのだ。

 政略結婚で、有力な貴族の女性(エリックの母、名をエリザンナという)を正室に迎え、自身の周りの基盤を固めたのち、ようやくリリーナを側室という形で迎えることができたのである。

 つまり、アーゼル王が本当に愛したのは後にも先にもリリーナただ一人だということになる。

 王宮内ではその噂でもちきりになった。

 その後生まれた子供達がすべて、リリーナとの間に生まれたことが更に噂の信憑性に説得力を持たせた。

 当然、この事が面白くなかったのが、正室であるエリザンナである。

 何故、貴族の出である自分が、平民よりも日陰の存在にならなければならないのか。彼女の憎しみはリリーナと平民全てに向けられた。

 溺愛していたエリックに自分達がどれだけ高位の存在であるのか、平民がどれほど下賤卑しい存在であるかを毎夜、繰り返し繰り返り、エリックに語って聞かせた。

 何度も聞かされたその教えは、エリックの魂にまで刷り込まれ、エリックの中で『当たり前の常識』となっていった。

 エリックにとっての第二の転機は十二歳の時。

 心労が祟り、体を壊した母、エリザンナが帰らぬ人となったのだ。

 エリックは原因となったリリーナを憎んだ。殺してやりたいほどに。

 平民嫌いにも更なる拍車がかかった。

 しかし、暫くするとエリックにとって不思議なことが起こった。

 リリーナが流行り病でぽっくりと亡くなってしまったのだ。

 多くの者がリリーナの死を悼む中、エリックは違った。

 憎むべき相手が死んで、恨みが晴れたという訳ではない。納得したのだ。

 母が言っていたではないか。自分は神に選ばれた唯一無二の存在だと。

 その自分の意に添わぬ者は自然に排除される。

 エリックにとってそれは絶対不変の摂理に思えた。

 エリックが成長し、政治に口を出すようになると、ようやくアーゼル王はエリックの異常な価値観に気が付いた。

 名君として知られるアーゼル王最大の失態と言えるだろう。

 アーゼル王はエリックが問題を起こす度に、エリックを正そうと試みたが、既に固く構築されていた歪んだ価値観を変えることはできなかった。

 彼は信じている。

 経過はどうあれ、自分の望むことは最終的には必ず成されるのだと。

 故に確信している。

 自分に恥をかかせたあの憎むべき平民は、必ず自分の前に跪くことになると。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ