異世界ふたたび
--異世界ふたたび
「キュアアアアアアアアアアアアアア」
目の前にいる角ウサギは甲高い泣き声でこちらを威嚇している。
「いきなりかよ!」
大きい角ウサギはこちらを威嚇しながら後ろ足で地面を蹴り上げている。
そしてその後ろには普通サイズのウサギが数匹隠れているのが見えた。
あー…そりゃ警戒もするわな。
「ごめんて」
ウサギの前に胡坐をかいて座り込み、攻撃意思がないことを示すが角ウサギの警戒は解いてもらえない。
うーむ。どうしたものか。
「キュッ?」
後ろで隠れていた小さいほうのウサギが一匹とことこと歩いてきて俺の目の前で座る。
先ほどから威嚇していた大きいほうは慌てて連れ戻そうとするが、こっちを警戒して近くに寄れずにいる。
小さいほうが俺の様子を伺いながら少しづつ近づいてきて最後には胡坐をかいている足の間にすっぽりとはまり込む。
おう、どういうことだ、これ。
大きいほうも戸惑っているだろう。
「キュッキュー」とか言いながら足の間でもぞもぞ動いて収まりのいい体制を見つけると、大きいほうに向かって「キュッ!」と一声鳴く。
大きいほうがあからさまにわかるため息をついて警戒を解くと同時に他の小さいほうがいっせいに近寄り、俺によじ登る。
頭の上、背中、足の間にそれぞれ一匹づつ。計3匹。
俺のことはアトラクションですか、そうですか。
大きいほうはその光景を怪訝そうな目で見ていて「なんかしたらゆるさへんで」といった雰囲気を醸し出しながら目の前で座る。
なんもせんて。
しばらく体によじ登ったり頭の上から雄叫びを上げてみたり滑り落ちたり、と一通り遊んだら満足したのか小さいのはみんな固まって眠り始めてしまった。
大きいのにアイコンタクトで「これどうするの」と聞くと「そのままどこかいけ」と言われた気がしたので、起こさないように立ち上がり大きいのの後ろに向かって歩き出す。
すれ違う時に「キュ」と鳴かれたが。
その目は「変なこと考えるなよ?」といったものだったのか、はたまた「世話になった」なのかはわからないけどとりあえず後ろから攻撃されることはなさそうだ。
----
ウサギの群れから離れ、しばらく歩き森の中の開けたところに出る。
そこでやっと一息つく。
「さて…と」
念願の異世界出戻りに伴う諸々の確認をしておかないとな。
「まずは…魔力展開」
ゆっくりと体の中に眠っていた魔力に火が灯るように体が熱くなり、周囲の空気が揺らぎ始める。
体からあふれ出る魔力で視界がゆがみ始めた所で漏れ出た魔力を体の内に押さえ込む。
そしてその魔力を血管にそって流れるようにイメージをする。
前回の異世界での経験と変わらない方法で魔力が使えたことに安堵しつつ、体の中を暴れまわっている魔力が落ち着くのをじっと座って待つ。
「魔力はこれでよし、と。次は…広範囲探知」
目の前に中華テーブルくらいの大きさの円形で出来た空間投影っぽい地図が現れる。
この魔法は前回来た時に作り上げた広範囲の地図を出す魔法。
円形状の地図と半球状の空間探知が出来るものでこういったときには存外役に立つ。
なお地図の大きさや縮尺は自由に変えられる。
サテライトといいつつも別に衛星を使っていたりするわけではないのだが、高度視点からの地図だし某有名検索エンジンの地図より詳細だからなんとなくこの名前にしている。
地図を見ると自分がいる場所が白く光っていて、森のほぼ中心部なのがわかる。
森から北には横に広がるような大きめの山脈があり、その先は平野。そしてまた山脈。
南は海洋っぽく海のようなものが広がっている。
東と西はしばらく森が続いているがそこから先は東が平野、そしてその先は砂漠っぽくなっており、西は結構険しめの山脈になっている。
過去の記憶を探り現在地の大まかな場所にあたりをつける。
「あー、原初の森か、ここ」
-原初の森-
世界が創造されたときから存在しているとされている森。
決して広がらず小さくならず。
記録に残っている時代からずっと同じ形を保ち続ける魔法の森。
結構広範囲の木材を切り倒しても次の日には何もなかったかのように木は生えてくるし、森の中にある湧き水なんかも使った分だけ湧き出るし、採取した植物も次の日には元に戻る。
-森の中のものは朽ちることなく存在しつづけ、また同じ形をあり続けようとする-
恵みと安息を与える森。それがこの森。原初の森。
といった風にメリットは豊かなのだが、やはりそれなりのデメリットもある。
世界創造からあると言われているからかはわからないが、この森にはいまだ誰にも踏破されていない迷宮がある。
古代迷宮とも言えるその迷宮には古代竜だったり侯爵級悪魔だったりが巣食っている…らしい。
まぁ俺行った事ないし行く気もないんだけどね。
「いまが原初の森ってことは、王都は北か。…帰ってきたって連絡しなきゃいかんかな、やっぱり」
ふと頭には前回の旅で出会ったさまざまな人が思い浮かぶ。
世界樹に住んでるエルフの姫さまや山脈の頂上に住んでいる竜の一族の長。
山脈の街の領主やロリコンの鍛冶屋、王都の王様とかあいさつ回りするだけで1~2年はかかりそうだな。
まぁ挨拶周りはぼちぼちやっていきますか。
「そうなると次は…装備か」
今の装備…というか服装は向こうから来るときに着ていた服。
黒の軍パンにサイズ大きめの灰色のYシャツ。
前回こっちに来たときに後悔していたんだが、本当なら刀を使うのならやはり和装が似合う。
当然持ってきている荷物の中に和装一式は入れてある。
冠婚葬祭で使うような本格的なやつじゃなくて、街を歩くレベルの和装。
どっちかって言うと明治時代とかの文豪達が着ていたようなものがイメージのほうが近いかな。
住んでいたところのそばの和服屋で普段使いできる和装一式として買ったものだ。
正直詳しいことはよくわからない。
ちゃんと着れるかどうかもわからないので後で宿屋にでもついたら着替えることにしよう。
…こっちの防具は和装に合わせて出来てないから正直出番は少なそうだけども。
あとは武器。
前回来た時に使っていた武器は二本の刀。
帰還前にとある洞窟に隠してある。
正直魔改造しすぎて誰かに渡すには過ぎたものになってしまっていたためなんだが…
戻ってこれたからには誰かに渡すとかしなくてよかったと思う。
その刀を取りに行くにもちょっと遠いから後回しかな。
当面は素手と魔法だけでいけるかな。街についたらとりあえずの武器でも買うか。
「そうなると…だ。まずは冒険者証か。その前にまず先立つものの調達だな。」
街に入るのに金はかからなかった記憶があるが武器を買ったり宿に泊まったりするのにも金は必要だろう。
「原初の森にも拠点作っておけばよかったなー。」
世界中を回っているときに各地で作った拠点を思い出す。
だいたいが森の中や洞窟っぽいところに作っていたが、原初の森は踏み入れただけで攻略を考えてたわけじゃなかったから素通りだったもんなぁ。
「まぁないものはしょうがない。途中で魔物でも狩るか」
足元に置いていた荷物を担ぎ上げ、とりあえずの古巣。北のタタールト王国に向かって。
焦らず急がず。ゆっくりと。
再びこの世界に戻ってこれたことに感謝して。
時間制限がない今回の旅をゆっくり楽しもう。




