四十話、遊びに行こう! (後)
「オススメ、オススメ。うーん……そうねー。アクセサリーがいいかも! 王都は小物作りが盛んで女の子用の可愛いものが多いの」
「とても気になるけど、なくしてしまいそうで旅には持っていけないわ」
シュンッと肩を落とすサアヤの肩をポンッと叩きピネはニッコリ微笑む。
「ただのアクセサリーじゃないの。呪い師が願いを込めて作るんだけど旅の無事を祈るアクセサリーもあるのよ」
「お母さまがくれたリュックサックの刺繍みたいなものかしら?」
「それと似たような感じね。ほら、今って魔物騒ぎもあるから身に付けてる人はかなり多いと思うよ」
「そうなのね。じゃあ、私とニャーさんとファディスさんの分も欲しいわ」
「決まりね。じゃあ、アタシのお気に入りの雑貨屋さんに行きましょう!」
ピネがサアヤの手を引いて歩きだす。サアヤはボクの手をギュッと握る。三人で大通りの真ん中を歩く。
「もうすぐ夕暮れだから少し急ぎましょう」
「分かったわ」
「うん」
どおりで道ゆく人々が少ないって思った。だいぶ太陽が傾き、道の真ん中にいても馬車の邪魔になったりしないし、人にぶつかってしまうこともなさそう。路地にいたっては、もうほとんど真っ暗と言ってもいいくらいだ。
「この道の突き当たりにあるの」
小走りで大通りを抜け、パン屋があった路地の反対側の路地に入ると、そんなに時間もかからずに店に到着した。
「お店の外にまで色々な物が置かれてるのね」
「面白いでしょ。このキツネの置物なんか、まるでお店を守ってるみたいに、ずっとここにあるのよね」
ピネがクスクス笑いながら店のドア横に置かれた木製キツネの頭を撫でる。
「頭がツヤツヤだね」
「たぶんアタシだけじゃなくてお店にくるお客さん、みんなに撫でられてるからだと思うよ」
「かなり古いけど大切にされているのね。飴色になってるわ」
ボクとサアヤもキツネの頭を撫でる。見た目どおりツヤツヤだった。耳が片方たれて目がクリンとして、なんだか可愛い。
キィー……。
蝶番を軋ませドアを開け入る。店内は品物がよく見えるようになんだと思うけど、オレンジ色の魔法石の光で照らされ明るい。
「こんばんは」
「こんばんは。あら! ピネちゃんお久しぶりねぇ」
「ユタおばさん久しぶり。今日は妹たちを連れてきたの」
「あらあら、まぁまぁ! 可愛いらしいお客さんだこと。あたしゃ、作業が残ってるから奥にいるよ。決まったら呼んどくれ」
「分かったわ」
にこにこ顔の、ふくよかな体格の眼鏡をかけた白髪混じりの女の人は忙しそうに奥へ消えていった。もしかしたら奥には自分の部屋があって、そこで小物造りをしてるのかもだよね。
「ペンダントなら無くしたりしないと思うのよね……。どこだったかな?」
ぶつぶつつぶやきながらピネは真剣な表情で、店内をぐるぐるうろうろし始めた。
「ニャーさん、見て! 猫さんよ」
「わぁ! ボクの仲間だね」
黒猫のブローチをサアヤは手にとって微笑む。
「あそこにも猫さん!」
「あっちはふわふわだね」
天井の張り紙には毛先まで細かく描かれた白い猫がいる。金色の目が鋭くかっこいい。
広いわけではないからか、机の上に置くだけじゃなく壁や天井からも色々なモノがぶら下がってる。オレンジ色の光が小物たちに反射して、部屋中をキラキラ照らす。初めて見るものばかりでボクとサアヤは飽きることなく見入ってしまう。
「あった! コレよ! サアヤ、ニャーさん来て!」
呼ばれてピネを、視線で探すと出入り口の近くに座りこんでるのが見えた。ボクとサアヤは品物を引っかけて落としたりしないように、ゆっくり向かいピネの隣にしゃがんだ。
「サアヤにはピンクの花モチーフ、ニャーさんはブルー猫モチーフ、ファディスさんはパープル剣モチーフのペンダントを選んでみたの。どうかな?」
手のひらを出すとピネが乗せてくれた。小さな黒猫の両目は綺麗なブルーで尻尾がクルンと丸まって可愛い。
「ボク、コレ気に入ったよ」
「私もピンクのお花、気に入ったわ。小さくてとっても可愛いらしいわ」
「気に入ってもらって良かったぁ! 絶対に二人に似合うって思って選んだのよね。あとはファディスさんのなんだけど……」
ピネの手のひらには、銀色の剣の刀身に小さなパープルの宝石が三つ並んだものが、乗っていた。
「ファディスにピッタリだと思うよ」
「えぇ。かっこいいファディスさんにとても似合うと思うわ」
「二人が言うなら大丈夫そうだね。じゃ! 買ってくるから待ってて! ユタおばさんは作業に集中してる時は呼んでも気がつかないから、自分から行った方が早いのよ」
ごちゃごちゃモノが置かれて通りにくいはずの部屋を、ピネは紙袋を抱えながらでも慣れた風にスイスイ歩いて奥へ向かっていく。なんか凄い。ボクは何か絶対に落としてしまいそう。
ピネを待つ間もボクとサアヤは様々な品物を手にとって見たりして楽しんだ。
「お待たせ! 外はもう真っ暗みたいだから走って帰るよ!」
しばらくすると紙袋を持ったピネが戻ってきた。店から出るとボクとサアヤの手を握って走りだす。
「行くよぉ!」
「分かったわ」
「うん」
外は夜の闇が広がっていた。路地を抜け大通りをピネについて走る。民家の窓からは仄かな灯りがもれ、夕食の準備なんだろう香ばしい匂いも鼻をかすめる。昨日の夜も見かけた親衛隊ともすれ違った。
「ハァハァハァ……。とーちゃーく……。も、門、空いてるし、なんとか間に合った気がするぅー……」
「門限があるのね」
「魔物が出るようになってからだけどね」
門の前いた親衛隊に、お辞儀をしてから城の中に戻ってきた。ピネからすれば家に帰ってきたような感覚かもしれない。
「そういえば男の人は住み込みではないのかしら? お城の中で見かけるのは女性ばかりのようだけど」
「詳しく聞いたことはないんだけど男性は通いの者ばかりだそうよ」
「そうだったのね」
サアヤとピネの話を聞きながら階段を上がっていく。魔法石の光で明るいし、窓の外には大きな月とルフトラーガが見える。
「わぁ! 空に近いからかな? いつもより月が大きいね」
「本当ね。それに空の星と、地上の家々の光で全体が輝いてとても美しいわ」
「アタシも、ここからの眺め大好きなのよね」
居住区の前の踊り場に立ち止まって、窓の外の光景に見入ってしまう。だってこんなにも高い所から、街を見下ろすなんて初めてだからね。
「二人共、明日は早いんでしょ! もう寝てしまいましょう」
「そうね。まだ見ていたい気がするけど明日、起きられなかったら困るわね」
「うん。明日は船に乗るんだよね」
「えぇ。モリスさんとファディスさんが港町ルゥーイで待ってるはずよ」
明日ボクたちは、サラに会うために船でフィーネって島に行くことになっている。だから日が昇る前に王都を出ないといけないみたいなんだよね。
「アタシは、ヴェルチマーさまにパンを届けてくるから先に寝ててね」
「分かったわ」
ふわっとピネは微笑み、鍵と紙袋をサアヤに渡す。
「あ! あとこれ船で食べて。朝バタバタしてしまうと渡せないから今、渡しとくね。じゃ! おやすみ!」
「ありがとう。おやすみなさい」
「おやすみ」
パタパタと軽い足音を立てながらピネは、女王の元へ走っていってしまった。




