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三十一話、王都


 王都の目前まで来ると、あたりはすっかり暗くなっていた。けど細い三日月の淡い光で真っ暗闇ではない。悪いことをしてるわけじゃないけど、街道沿いの大きな木の陰に三人で隠れ様子をうかがう。


「松明を持って歩いてるのが親衛隊さんかしら?」

「間違いないだろうな」

「沢山いるね」


 小さな炎、松明を持つ白いローブ姿の親衛隊たちは数十人はいそうだ。全員が腰のベルトに宝石の付いた杖を身につけている。


「モリス爺の言ったとおり魔術師に間違いなさそうだな」

「王都に入れてもらえるかな?」

「どうだろうな? 厳戒態勢というわけではなさそうだから大丈夫だとは思うが……」

「行ってみましょう。もしもの時はピネお姉さまのお名前を出してみようと思っているわ」

「なるほど。身内が住んでいるなら王都に入ることができるかもしれないな」


 ファディスの言葉にサアヤはうなずいてから、ボクの手を握って歩きだす。ファディスは警戒しながらボクたちの後ろを歩く。


「止まりなさい」

「このような時間に王都に何用だ?」


 思ったとおり、もう少しで王都に入るというところで、二人の親衛隊がボクたちの前にやってきた。


「王都に住む、お姉さまに会いに来たのですが、途中で迷ってしまい到着が遅れてしまったのです」

 

 サアヤがボクたちの前に出て説明をすると、親衛隊の二人はボクたちを上から下まで観察するように、じっくり見てうなずきあう。


「身分の分かるものは持っているか?」

「はい」


 腕輪をサアヤが見せたので、ボクとファディスも同じように腕輪を見せる。


「……ラスディ家、もしや姉君のお名前はピネ様ではありませんか?」

「はい。姉をご存知なのですか?」


 腕輪を確認した、二人の親衛隊は警戒を解き表情をやわらげお辞儀をした。


「えぇ。知ってますし、妹君が王都に訪れたならご案内するようにとおおせつかっております」

「どうか我らと王城へいらしてください」


 いきなりのお城への招待に、さすがのサアヤも驚きが隠せないのか目をまんまるにして後ずさりしてしまう。


「お城って、どういうことですか? ピネお姉さまに何かあったのですか?」


 深呼吸をしてから、サアヤはボクの手を握りしめ恐る恐るといった感じに尋ねた。


「驚かせてしまい申し訳ありません」

「何か問題があったわけではありません。ただ少し事情があるのです」

「どのような事情ですか?」

「それは我らの口からは申せません」

「すみません」


 親衛隊の二人はペコリと頭をさげる。あまりにも丁寧な対応に、サアヤはビクリッと肩を振るわす。


「あ! あの! 頭をあげてください。ピネお姉さまに会うことができるのでしたら、あなたがたと一緒に行きます」


 あたふたとサアヤが両手をパタパタさせながら答えると、親衛隊の二人はにっこりと微笑んだ。


「ありがとうございます」

「では早速、我らとともに行きましょう。そちらのお二人もご一緒に来ていただけませんか?」


 ファディスが、ボクとサアヤの背中をポンッと軽く叩き「行こう」と、耳元で小さな声でささやいた。


「うん。ボクも行くよ」

「もちろんオレも行く」

「ではついてきてください」

「王城は街の中央に位置しておりますので少し歩きます」


 くるりとボクたちに背を向けて親衛隊の二人は歩きだした。その後ろについていく。城下町って言うのかな? 沢山の背の高い四角い形をしたレンガ作りの建物が道にそって、とても綺麗に並んでる。石畳みの道の幅は広く、二頭立ての大きな馬車もボクたちを追い越し難なく走っていく。だけど建物と建物の隙間は、猫スケルトンに変幻したボクが通るのがやっとなくらい、ぴったり隣同士くっついてる。


「夜だからかしら? 人が少ないわね」

「王都というからには、もっと賑やかだと思っていたんだが?」


 あたりをキョロキョロ見回す。サアヤとファディスの言うとおり人の気配は少ない。


「事情がありまして夜は外出を控えていただいているのです」

「用事がある者達以外は出歩いてはいないと思います」


 サアヤたちの疑問に、親衛隊の二人は首だけで振り返って答えてくれた。事情は城に行くまで教えてくれない気がするけどね。


「うわぁ! 目の前までくると大きいねー」

「えぇ。白くてとても美しいお城だわ」

「全体的に丸みのある建物は珍しいな。内部がどうなってるのか興味深い」


 たしかに不思議な形の建物だ。枝と葉っぱは無いけど、見上げるほどの高さがあるからまるで白い巨木のようだ。間近で見ると細かな薔薇の彫刻が壁一面に散りばめられてる。


「面白いでしょう。女王様ご自慢の円柱形のお城なのですよ」

「さぁ。到着いたしました。硝子の薔薇のアーチをくぐった先が城内でございます」


 月明かりに淡く輝きを放つ硝子の薔薇のアーチは、サアヤと見た雪みたいにキラキラして綺麗だ。サアヤもファディスも煌めきに目を奪われている。


 キィィィィー……。


 少しきしんだ音を立てながら、大扉を親衛隊の二人が開いた。扉の先は玄関じゃなく白壁だった。踊り場のような小さなスペースと階段があるだけで何もない。


「このまま螺旋階段を最上階まで登っていただいて扉を開いた先で女王様がお待ちしております」

「我らには任務がございますので失礼します」


 二人の親衛隊はお辞儀をしてから、大扉を閉めて城から出ていってしまった。また王都周辺の見回りに戻ったんだと思う。


「かなりの高さがありそうだがサアヤは大丈夫か?」

「疲れたらボクの背に乗ってよ」

「ふふふ! 平気よ。これでも私、体力には自信があるわ」


 ニコッ微笑み壁沿いに伸びる螺旋階段を軽い足どりで楽しそうに歩きはじめた。そういえばサアヤは、今まで崖や急な坂道も平気そうに登ったりしてたよね。


「それにしても不思議な建物ね」

「あぁ。階層というより踊り場ごとに扉があるんだな」

「この扉の中はどうなってるんだろ?」

「円形の広い部屋があるのかしら?」

「どうかな? 女王に聞いてみるといいかもな」


 カツカツコツコツ、靴音を響かせ階段を登る。内側に一定間隔に踊り場と扉、外側にポツポツと丸い窓があって月明かりが入ってくる。もしかして空から見たらドーナツ形かな? でも部屋があるからやっぱり円形かもしれない。なんて思いながら進む。それにしても魔法石の小さな光も灯ってるから、階段はかなり明るい。


「ここが最上階かしら?」

「そのようだな」


 今までと同じで小さな踊り場があって扉があるだけのスペースなんだけど、これ以上登れる階段はない。違いがあるとすれば扉には、うすい色合いの青薔薇を散りばめた彫刻が施されてることくらいだ。


「入ってみよ」


 ボクが扉を押し開けようと手を伸ばすよりも早く、扉が勢いよく開かれた。


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