82話「戦国時代⑥-桶狭間の戦い」
村作りから7年の月日が経ち、広大な田園畑が村を中心に西へと広がっていた。
ザァアアアア
黄金色の稲穂が大地を覆い尽くしている。
「今年も大豊作だべ」
「あぁ」
田吾作と共に目の前の光景を見る。
この7年で信光の紹介で13世帯35名の農民を受け入れた。
当初から居る俺達を中心に村の規模は爆発的に大きくなり、巷では豊穣の村として名がしれている。
人数に比例して田園の広さが圧倒的に大きいが、効率を落とさないのはこの村にのみ存在している道具達がある為である。
・押すだけでセットされた苗代を等間隔に植えていく手押し車。
・押すだけで雑草などの育成を阻害する物を除外し攪拌する手押し車。
・押すだけで稲を刈り取る手押し車。
・水車の力を利用した、脱穀・籾すり・仕分けする自動化。
これらを7年間で試行錯誤し作り出し、稲作農業が効率化するまで発展した。
「納税も余裕だべな」
1年分の全世帯分の米以外は納税している。
その為、米倉も数棟建てている。
その分、野党たちが襲いかかってくる頻度も多いいが俺達の村に来たが最後仏になってもらう。
農作物だけではなく、林業や焼き物にも力を入れている。
どうしても冬は暖を取るために薪が必要で山の植林で再生を促している。
農業の合間にやる気のある奴を集めて焼き物職人達を育て上げた。
かくして、この村は安泰と共に良い成果をたたき出している。
・・・
「信長様からの呼び出し?」
『10日後にて清洲城にて待つとのこと。では!』
数年振りに信長から連絡を寄越したと思ったら呼び出しだった。
バサッ
「アナタ、行ってらっしゃい」
「お父・・・父上、行ってらっしゃいませ」
「父上~」
久しぶりに足軽大将装備に身を包み旅支度を整える。
リンは20歳になり。成人をしたが婿を取る気はないようだ。
ツヨシも11歳になったが甘え癖が抜けていない。
「ツヨシ! いつも言ってるけど父上に甘える年じゃないの」
「姉上~、でもぉ」
「父上からもハッキリ言ってください。この村を継ぐのはお前だと」
どうやら、ツヨシをしっかり育てようと強く思ってしまったらしい。弟離れを早くして欲しいものだ。
20歳と言えば婚期を逃してしまっている娘という事なんだがな・・・
村にいた子供たちも成人して結婚し始めている。
ハルヒコの娘ソラやアキヒサの娘のランも婿を貰っている。
ロイドの息子は成人前だから今後に期待だな。
一つ懸念としてランの子孫がどうなるかが怖い所だな。
「直ぐに帰ってくる。お前もそろそろ自立心を持て」
グワシグワシッ
ツヨシの頭を乱暴に撫でて家を出る。
「お早うございます」
「あぁ」
ハルヒコが向かいの家から出てきて顔を合わせる。
同じく武装をしている。
「行くか」
「はい」
織田信長の住まう清洲城まで徒歩5日掛かる所、ゆっくりめに歩いて3日で到着し謁見を求める。
『アオイ殿ならびアマギ殿入れ』
ザザッ
両開きの襖が開き、座敷に通される。
「ほぅ」
7年前の10代だった頃の若さが消え、立派に変貌を遂げた男が奥で座って待っている。
左右には見知った顔ぶれがチラホラと居るが知らない顔が多い。
ザッ
ある程度進み、正座をして頭を下げる。
「面を上げよ」
スッ
「よく来てくれた。ようやく、この尾張がワシの手で一つとなったわけだ。7年前の約束を忘れてはいまいな?」
「俺を徒大将にするという話」
「うむ」
ザワッ
『お待ちくだされ!』
家臣団の中から声が上がる。
『この者は南蛮の者ではないか』
『南蛮人に徒大将にするのですか?』
事情を知らない若い家臣達が騒ぎ立てる。
ダンっ
「黙れ!」
シィン
「今の発言は不問にするが、ワシの決定を覆させぬ。これは7年前から決めていた事だ」
信長の一喝で静まり返る。
『殿。7年前といえば・・・清洲の英雄、斬馬のアオイ殿でござるか?』
「猿、覚えていたか」
「ぇえ。私も清洲の英雄に憧れましたからな。私以外にも平民からのし上がろうとした御仁が居ると当時は噂されてましたからな」
猿という事はあの秀吉の事か?
「ワシがこの清洲城に住むことが出来たのはこやつの尽力あっての事だ。異論があるならば分かっておるな・・・改めてアオイを徒大将とする」
パチパチパチ
信長自信が拍手をし家臣達もおずおずと拍手を行った。
「徒大将拝命する」
「して、お主の村はどのような発展をしておる? ワシには殆ど話が入ってこないからの」
俺達の上司であった信光は1556年に変死を遂げて、信光の持っていた領土も信長が引きついでいた。
清洲城と俺達の村は遠く離れており、おいそれと様子を見に来れない位置にあった。
武田領と近く、信長が訪れるだけで軍事行動と見なされかれない為だ。
俺達の村がどういう理由で大豊作に見舞われているのか詳しく知らないようだ。
尾張一の田園畑を持っているのは俺の村で軍備強化の手助けになっている。
「後で詳しく話を聞くとしよう・・・以上じゃ。今夜は宴をするぞ」
信長が宴を宣言すると場の空気が和む。
城の宴は豪華らしいからな・・・
信長からは稲作の効率化について聞かれ、石臼と水車の組み合わせで籾すりが楽になった事を伝えておいた。
水の力を借りた自動化に信長は大変興味を持ちハルヒコが詳しく図面におこして説明し評判がよかった。
近いうちに水辺のある村で実験をするとの事だ。
宴の際にある程度の有名武将と挨拶を交わす。
俺達は信光家臣として引き続き豊穣の村での軍備強化の継続を命ぜられた。
南蛮人に行き過ぎた位を上げるのは信長の家臣達の心証が悪くコレで打ち止めにするとの事だ。
清洲城の城下町で村人全員分の土産を購入して帰宅する。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
田植えに精を出していると、織田信長から早馬がやって来た。
『駿河国の今川軍・三河国の松平軍が尾張に攻めてきました。現在松平軍が丸根砦、鷲津砦に攻撃を開始。至急、南下し今川軍の同行を探りに向かうようにとの事。分かり次第熱田神宮に趣き信長様に報告せよ』
「ついに来たか」
今川と松平軍の尾張侵攻は歴史上でも有名な桶狭間の戦いであった。
俺とハルヒコは身支度を整えて豊穣の村を南に向かった。
松平軍は既に西にある両砦に攻撃を仕掛けているのであれば次に来る本隊今川軍がどこに進軍するかがポイントになるのであろう。
バサバサバサバサバサッ
ドッ
林の中を進み、時折木の頂上から周囲を確認し大軍の位置を割り出す。
「居ました」
武装した軍勢が北上している姿を見つけたのは2時間後の事だった。
俺達は軍の動向を見続け、松平軍に合流する動きだと確信を得る。
「本隊はどこだ?」
「もっと後ろでしょう」
今川義元の居る本隊が何処に向かうのかを見届けてから戻ることにした。
「ここに本陣を張ったか」
「史実通りですね」
今川義元の本陣は鳴海城の東南の位置にある桶狭間に設置していった。
急いで熱田神宮へ向かう。
ザザザザザッ
バサバサバサッ
藪だろうが林だろうが丘だろうがお構いなしに真っ直ぐに進む。
『何者だ!?』
熱田神宮へ到着すると俺の顔を知らない見張りの兵士が槍を向けてきた。
「今川本隊の位置の情報を持ってきた」
『なに!?』
『怪しい奴め!』
ここで南蛮人という事が仇になってしまったようだ。
情報伝達を装った暗殺も考えられるし、日本人ではないのが怪しまれる要因だろう。
「斬馬のアオイ殿、よくぞ参った。こっちじゃ」
たまたま通り掛かったのか木下藤吉郎が俺たちを中へ通す。
「殿の使命を果たしたのですな?」
「あぁ」
熱田神宮に信長を中心とした武将達が集まっていた。
「報告だ」
机に雑に作られた尾張とその周辺の地図が置かれていた。
「今川義元本陣はここに布陣。松平軍の後ろにて2万5千人の軍勢が待機中」
「本陣の位置が分かれば僥倖である」
ポツポツポツ
「殿、雨が」
「天はワシに味方をしてくれたようだ。出陣せよ」
ザァアアアアアア
尾張の国に希にみる大雨が全域に振り始めた。
雨音はかなり大きく出て馬のかける音をかき消し、数千しか引き連れていない織田信長率いる本隊は松平軍・今川軍の監視の目をすり抜けていった。
ザザッ
今川義元の居る本陣を見渡せる高い位置に織田軍本陣が奇襲という形でたどり着いた。
「ワシに続けい!」
織田信長自らが先導し馬を操り駆け下りていく。
ぉおおおおおおおおおおお!
一拍おいて兵士達が今川本陣に雪崩込んでいった。
「総大将が突出してどうする」
織田信長が討たれれば織田軍は潰走する未来しか見えない。
「ハルヒコ」
「分かりました」
ザッ
俺達は一番両端から今川本陣へと攻める事とした。
最初に騎兵が武器を持ってすらいない雨音で織田軍の接近に気付かなかった今川本陣へと突き刺さる。
その後に槍を構えた足軽達が今川軍へ傷口を広げるように攻撃を仕掛けていく。
もちろん奇襲に気づいた今川軍は武器を取り織田軍に対抗するよう動き始めていた。
初撃で雑兵を大量に倒していったが今川軍本陣には5,000~6,000の兵が詰めており時間が経つにつれて乱戦が拡大していった。
ザバンッ
『ぎゃぁあああ』
俺の斬馬刀が敵兵の上半身と下半身を分断し臓物をまき散らしながら吹き飛んでいく。
「斬馬のアオイが相手する! 死にたい奴から来い!!」
『うりゃぁああ』
ブゥン
ドズゥ
雨音で俺の声が聞こえないのか、槍のリーチを活かして突っ込んでくる敵兵を兜ごと縦に引き裂く。
「くそ」
信長が奥へと突っ込み周囲には有名武将達で守っているようだ。
俺が向かうにも目の前の敵兵が邪魔で進めない。
「味方、巻き込まれるんじゃねぇぞ」
後ろに振り返り大声で忠告を飛ばす。
シュルルルッ
ギュッ
オリハルコン製の糸を取り出して斬馬刀の持ち手に結ぶ。
グルゥン
糸で結んだ斬馬刀を空中で回し始める。
グォオオングォオオン
一周するたびに雨を弾き飛ばし空気を震わせる。
後ろで槍を構えている味方足軽達が巻き込まれないように後退を始める。
目の前の敵足軽達も後ろに下がろうとする。
「ふんっ!」
あるタイミングで体全体を使い、斬馬刀をハンマー投げの要領で振り回す。
『『『『『『ぎゃぁあああああ』』』』』』』
操り手の居ない斬馬刀だけが空中を駆け抜けて敵足軽達を薙ぎ払った。
一撃で十数名の命を刈り取っていく。
グンッ
振り切っても回転は止めずに足の位置を前へと進み、空中を掛ける斬馬刀が敵兵に向かう。
『ぎぃやぁああああ』
『ガボォオオ』
『ごはぁあ』
一回転する度に十数名の命を刈り取っていく。
『弓兵、アイツを狙えェエエ』
奥の方で馬に跨った武将らしき人物を捉える。
グンッ
パッ
斬馬刀の軌道を変えて、空高く打ち上げる。
ブンッ
ピンと引っ張られたオリハルコン糸を下に思いっきり引っ張る。
斬馬刀は武将らしき人物の真上から襲いかかる。
ザッ
『あがっ!?』
ンッ
ダァアアアン
馬もろとも一刀両断し斬馬刀の猛威は止まった。
「突撃しろぉ!」
俺の合図で後ろに控えていた足軽達が一斉に突撃する。
なんとか左側の戦線が押し上げられて信長達の居る部隊に横槍を入れられる事は減った。
「無駄だっ」
ビギィン
日本刀で挑んでくる足軽の刃を斬馬刀で叩き折り、その命を刈り取っていく。
ヒュンヒュンヒュンヒュッ
敵弓足軽から数十の矢が飛んでくる。
キィン
斬馬を盾に防ぐ。
『ぎゃぁああ』
『がぁあああ』
後ろにいた味方長柄足軽達が負傷していく。
ガッ
ブゥンッ
近くに転がっている槍を拾い上げて、遠くで構えていた弓足軽に向けて投槍を放ち鎧ごと貫通させる。
戦いは苛烈を極め敵味方の犠牲が増えていった。
『今川義元、討ち取ったり~』
乱戦が始まって数時間後に戦場に今川義元が討ち取られた声が響く。
敵味方関係なくその波紋は戦場に広がり戦いに終止符が打たれた。
「ハルヒコ」
グッ
「今ですか」
「これ以上、俺が表に出るのは良くないからな」
斬馬刀で討ち取った武将の首と斬馬刀をハルヒコに渡す。
前々から俺はとある計画を立てており異世界組のメンバーには伝えていた。
それが今のタイミングだと思った。
斬馬のアオイは戦死した事でこれ以上歴史に介入しないようにする為だ。
・・・
・・・・・・
ハルヒコにその後の事を頼み先に豊穣の村へと帰り、村人たちに見られる事なく日本に降り立った時に隠れ住んでいた洞穴へとやって来た。
《マスター、あの計画を始動させるのですね?》
「あぁ」
3年前に月の裏側で沈黙していた方舟からハイパースリープカプセルを乗せた補給船を地球に下ろし、あの洞穴の奥へと隠した。
《一度眠りに入った場合、指定された日付まで絶対に眠りから覚めないのです。考え直せないのですか?》
「これは、昔から考えていた事だ」
あの惑星から宇宙空間へ飛び出した時、地球に戻ってこれた場合・・・可能であれば俺がなぜ転生したのかが知りたかった。
「父上!」
「お父~」
ダキッ
リンとツヨシが背後から俺を抱きつく。
「あなた」
リリィが微笑んで後ろに佇んでいた。
「急に居なくなるなんて嫌だよ」
「お前も立派な大人だワガママを言うな」
「眠っちゃやだぁ」
「ツヨシ、お前はあの村の村長として繋いでくれ。この洞穴の防人としてな」
「アナタ達、お父さんを困らせるんじゃありませんよ」
リリィが2人を抱き止め引き離す。
「いいか、お前たちの中には俺とリリィの血が流れている。だが、絶対に守ってほしい事はその力を発揮しては行けない事だ」
「千里眼の事は絶対に言わないよ」
「僕も・・・この力を絶対に言わない!」
「お母さんの事を頼んだぞ」
ザッ
ウィイイン
この時代に似つかわしくない鉄の扉が自動的に開く。
内装はサッパリしており一人分のカプセルしか置いていない。
他の連中にも聞いてみたが未来に生きるより今を生きたいという事で俺専用となってしまった。
ブシュッ
《ハイパースリープを開始します。次に目覚めるのは2050年に設定いたします》
「あぁ」
《マスター良い夢を》
「490年後にな」
《それまでに私が壊れていなければ良いのですが》
「ガンジの作品であるお前達だ」
《《《《《おやすみなさい。マイマスター》》》》》
プシュウウウウウウ
催眠ガスがカプセル内に満ちて、俺は深い眠りへと落ちていった。




