80話「戦国時代④-萱津(かやづ)の戦い」
「槍隊、構え!」
ザッ
ザッ
ザッ
俺の命令で槍を持った足軽達が槍を構える。
数組のグループ毎で訓練を行っているが、俺の配下となった者達全員を集めた合同訓練という事で城の一角にある鍛錬所を借りて行っている。
30名の足軽達は足軽小頭と呼ばれる者が纏めている。
その足軽小頭達を纏めるのが足軽大将である俺となる。
俺の命令を直接聞くのは5人の足軽小頭であり、その配下である150名近くの足軽達は俺の声は殆ど届いていない。
「足軽小頭達は集合だ。他の者達は休憩だ」
俺の召集命令で足軽小頭達が集まり、足軽たちはその場で座り始める。
「大作の班が少し遅れたな」
「申し訳ねぇで!」
大作というのは俺達と同期の奴で今回の戦で足軽小頭に昇進した男だ。
俺程では無いが、図体が他のものより大きく、声が周囲に届くほどデカイ男だ。
「しかし、アオイ殿の声が遠くなれば聞き取りづれぇて」
俺を中心に布陣を敷いていると端にいる大作のいる所は命令が届きにくい。
「それは最もだが、戦になれば声なんぞ殆ど聞こえないだろうな」
「むむぅ」
『では、戦の場合どのようにアオイ殿の命令を聞けばいいだか?』
『んだんだ、いくら足軽大将の命令でも聞こえなければ戦にならねぇべ?』
『どうすんだべ?』
他の足軽小頭たちから意見が飛び交う。
普通は下の者から意見が出る事は殆ど無いらしい。
俺が南蛮人で、話しやすいという事で良く意見が出てくる。
「音が聞こえなければ色で判断してもらおうと考えている」
『『『『『「色?」』』』』』
前持って各色の旗を作らせて準備していた。
「ハルヒコ」
「準備していますよ」
ハルヒコが大きく目立つ5色の旗を持ってきた。
「この5色で陣形・構え・突撃等の命令とする」
『『『『『「はぁ?」』』』』』
いまいち、ピンと来ていないな。
「たとえば、この赤は『魚鱗陣』として、青は『鶴翼の陣』とすれば」
「なるほど、色でどの陣形にするのか色で分かるでねぇか」
『ふむふむ』
『じゃぁ、他の色は何を意味するんで?』
「黄色は構え、緑は突撃、紫は後退と割り振るか」
「とりあえず、やってみるべ」
『『『『『おうよ!』』』』』
話し合いが決まり、足軽小頭達は持ち場に戻って行き足軽達の休憩が終了となった。
「鶴翼」
ババッ
ハルヒコが青の旗を上げる。
「鶴翼の陣形じゃぁ!」
『鶴翼になれぇ!』
『鶴翼じゃぁあ』
小頭達から即座に鶴翼の陣形に成るように命令が伝達されていく。
150名からなる鶴翼の陣形は普通に声で命令するより早く伝わった。
戦の時と比べて人数も少なくて陣形は速やかに組みあがる。
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「じぃよ、アレは何をしておるんだ?」
訓練場が見える屋敷から織田信長が足軽達の訓練を見て後ろに控えている者に問いかける。
『本日、足軽部隊の訓練ですじゃ』
信長の教育係である平手政秀が答える。
「それは見れば分かるわい。あの旗はなんだと聞いておるのだ」
「どれ・・・たしか、アレは訓練に必要だと言われて作ったものですな」
「足軽達の為に作ったのか?」
「戦場では声は届きにくいという課題を解決する方法だと説明を受けて作らせたものじゃ」
「ふむ」
しばらく、信長は訓練の様子を伺っていた。
「なるほど、旗の色で命令をしていると言う訳だな・・・アレは鶴翼と魚鱗・構えと突撃に後退を5色の旗で区別しておるのか・・・たしかに戦場では音ではなく色で指示を出したほうが早いやもしれんの」
「さすが、信長様じゃ。この短い時間で見抜くとは」
「じぃよ、早急にあの足軽大将に詳しい内容を聞き出し、他の部隊様にも旗作りをするように伝えろ」
「はぁ・・・あの運用方法を他にもお使いになるのですか?」
「無論、大規模で使えぬものであれば其れまでの事よ」
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信長の命令で各足軽部隊には旗による陣形形成と攻撃・後退命令の訓練が施されていった。
徐々に織田信長の勢力が拡大していき、兵士の人数も1,000人近くになった頃、那古屋城の近くで全体合同演習が開かれる事となった。
「魚鱗」
ババッ
織田信長の近くで控えていた者が魚鱗の旗を上げて、各武将へ伝わり、俺達足軽大将に最終的に伝わって陣形の形成が始まる。
1,000人規模の陣形形成は人数が少ない時と比べて、距離も多く時間がかかる。
数分を要して陣形が形成される頃合を見計らって、次の陣形命令が下されて足軽達が移動を開始する。
発信するだけならば簡単だが、後ろから発信された命令を受け取りながら足軽達に命令を下すのは難しく命令元も見ては行けなくなってしまった。
声での命令との差は後ろを気にしていなければならないという事だった。
時間が経つにつれて、命令の伝達が遅れ始めていった。
「うむ。やはり、大規模ではあまり声と変わらぬか」
「信長様、これでは命令に気づかぬ部隊も出てしまいますな」
「声が届かない問題を解決したはいいが、見ていなかったら意味がないのぉ」
この日はすぐに解散して色旗による命令伝達訓練は終了となった。
聞こえ辛くても命令は伝令によるものか距離が近ければ声にて行うこととなった。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
「戦じゃ」
評定の決議によって再び戦が始まろうとした。
相手となるのは清洲織田家の当主である織田信友であった。
信長が赤塚で戦いをしている間に信友が信長方の松葉城と深田城を襲撃し、松葉城主:織田伊賀守と深田城主:織田信次(信秀の弟で信長の叔父)を人質とした為である。
戦支度は早急に整えられ那古屋城に幾ばくかの兵士を残して出陣をする。
途中、織田信長に味方する織田信光の兵と合流を果たして清洲城を三方向(松葉城・深田城・清洲城)に分けて先端が開かれた。
織田信長と信光は深田城、松葉城へと進軍していった。
清洲城攻めは有名な武将は特におらず清洲城から出陣させない為に足止めする命令が下された。
「アオイ殿は緊張されていないな」
俺の隣には新しく入った「犬千代」と言う少年だ。
信長直々に俺の配下として加わえられた、元信長付きの小姓であった。
本人は槍に自身があるらしく、体には似合わない長槍を携えている。
本来ならば足軽頭である俺と対等には話せない身分なんだが、信長直々の配属で文句なんかは言えないでいた。
「戦前に震えてどうする?」
「さすが、赤塚の英雄だな」
「英雄?」
「城ではもっぱらの噂だぜ。巨剣のアオイと双刀のハルヒコの2人が左翼を支えたから勝てたって親方様も褒めていたんだぜ」
「僕もですか?」
「あぁ!親方様の目にも止まるなんてな!それを聞かされたら俺達も一目置くってもんよ」
まだ成人(15)していない少年が俺達を上から目線から見るのは仕方がない。
小姓とは足軽よりも身分が上なのだからな・・・
「早く、俺の槍さばきを見せたいもんだぜ」
犬千代は自前の槍を手に持ち空を突く。
「戦じゃない時には武器を振るうな」
「ちぇっ、お堅いな」
「戦前に兵士を怪我なんかさせたら信長様が怒るぞ」
「別に足軽なんて代えは幾らでもいるだろ?」
ゴンッ!
「ってぇえ!!」
「いいか、軽々しく代えが効くなんて言うな。ここにいるのは身分関係なく代わりなんか居ないんだ。いいな?」
犬千代の頭に拳を落として説教をする。
『さすが、アオイさんだ』
『ってか、兜越しになのに痛みを与えたのか?』
『生意気な小僧にはいい薬だ』
周囲で聞いていた足軽達からそんな話がされる。
「なぐる事はねぇだろぉ!」
「悪いと思ってないならもう一回やるぞ?」
「まぁまぁ、犬千代君も悪気があって言ったわけじゃないでしょうしね」
「くそっ、今に見てろ。首級でもとって見返してやる」
「はぁ・・・」
犬千代というヤンチャ者を少年をお守りにしながら戦に出向くのは嫌だが、後の前田利家であるなら面倒を見ざるを得ないな。
・・・・
清洲城前に到着して手勢数百しか居ない俺達は陣を敷く。
『信長様からの命令は、清洲城から松葉城・深田城へは増援を出させなるなという事だ。皆の者、心して掛かれ!!』
ォオオオオオオオオ
たった数百の軍が声を上げて清洲城前に陣取って声を張り上げる。
あくまでも清洲城を攻めるのではなく増援阻止の為だけの軍勢であった、もちろん本気で叩きに来たら俺達は討ち死に確実である。
一応は馬防柵を設置して騎馬突撃をさせないようにしているが、いつまで持つか・・・
『敵兵確認!』
当然、俺たちを蹴散らそうと城から同数程の兵士が出てきた。
『長蛇の陣、急げ』
数がそこまで無い為に陣形も限られてくる。
今回は左翼や右翼なんかは無く、足軽大将を中心とした軍を横一列にした長蛇の陣を敷く。
△ △ △ △(足軽大将)
△(武将数名)
俺達は前列真ん中の右の位置に居る。
ザザザザッ
清須側もまた同数で同じ陣で対抗してくる。
『使者を出せ』
パッカラパッカラパッカラ
こういった場合は攻める側が何の理由で攻めてきたのかを告げてから開戦される。
前回の赤塚の戦いは行軍中に互いの軍がぶつかってしまったので無かったにも等しい。
パッカラパッカラパッカラ
使者の口上が終わって戻ってくる。
この時、使者を殺すのは御法度で殺してしまった方は卑怯極まりないと罵られることがある。
これで戦の準備が整う。
一応は織田信長の命令で清洲城を責めに来た旨を伝えているが、時間稼ぎの軍である俺達は動かない。
ザッザッザッ
であれば、向こう側が近づかなければ戦も始まらない訳だ。
「うぉおお! 戦だ!!本物の戦だ!!」
隣に居る犬千代は大はしゃぎだ・・・
戦の意味を分かっていないからな・・・後で地獄でも観るだろう。
「一番槍はこの犬千代が貰った!!」
自前の槍を構えて突撃しようと腰を落とす。
ガァンン
バタァン
即座に持っていた槍を犬千代の頭に振り下ろした。
拳以上の衝撃を頭に受けた犬千代は地面にのたうち回る事となった。
「馬鹿が!命令も無いのに突撃するな!!」
「いてぇええ!」
「お前はそこで見ていろ。ハルヒコ、コイツを頼む」
「はいはい」
ハルヒコはのたうち回っている犬千代を肩に担ぎ一歩下がる。
『ひゃぁあ、アレは痛いぜ』
『アオイさんのアレは誰も耐えられねぇべ』
『2か月前に食らってオラ3日間は寝込んじまったべな』
「気ぃ、引き締めろ!」
ビシッ
俺の声に部下達の姿勢が一気に戦用に切り替わる。
「離せ!」
「ダメですよ」
犬千代はハルヒコの拘束から逃れようと騒いでいるが簡単に逃げられる訳無いだろう。
『弓構え!!』
「弓構え!!」
後方から命令が飛んできて、俺達足軽大将から命令が伝播していく。
足軽にも数種類の役割があり、主に長柄足軽と弓足軽の2つに別れる。
近年鉄砲足軽というのも増えたが、鉄砲不足と火薬不足の為、この軍には居ない。
近づいてきた清洲軍が弓の範囲に入ってきた為に弓矢合戦が始まるのだ。
当然、アチラも弓を構えている。
『てぇえええええ!!』
「放てぇえええ!!」
ヒュンヒュンヒュンッ
同時に100人からなる矢が放物線を描いて両陣営に矢の雨が降り注ぐ。
『ぎゃぁああああ』
『ぐあぁああああ』
アチラコチラから矢に射られた足軽たちが続出する。
十分も経っていないにも関わらず数十名の死傷者が双方に出てしまう。
「なんで、動かないんだよ!!」
後ろからその様子を見ていた犬千代が叫ぶ。
「軍対軍というのはこう言うもんだ。矢ごときで文句言うな」
「まだ、なにもやってねぇじゃねぇか」
「被害は出している。こっちも出てるがな」
「なんだよ! 親方様の話じゃ楽勝って言ってたぞ」
「被害が無い戦なんぞない。いま、それが起こっているんだ。良く見ろ」
「あまり、騒がないで下さないでね。命令が聞き取りづらいので」
「むぐ」
ハルヒコが空いている手で犬千代の口を塞ぐ。
『長柄、構え』
「長柄、構えぇえええ」
ザッ
一糸乱れぬ動きで、部下達が槍を構える。
他の部隊も一瞬遅れて槍が構えられる。
お互いに槍の間合いに入ってきた。
戦での槍の長さは6.5メートル程の長い槍で互いにぶつけ合う。
「振り上げぇ! 振り下ろせ!!」
『『『セイッ!セイッ!!』』』
俺の命令が長柄足軽達に伝わり、一糸乱れない振り上げと振り下ろしが前で行われる。
ここからは俺達足軽大将がその場での判断で命令を下してよくなる。
一々、後ろで控えている武将達の命令を聞くにも限度があるってやつだ。
他の足軽大将達も殆ど同調する形で長柄足軽達に命令を出し始めている。
ここまで来ると弓足軽達の出番は終わり、4メートル程の槍を携えて後ろに控えている。
もし、前線が崩れたら弓足軽達が第二の防衛ラインとなって壁になるか、逆に相手の前線を崩し突撃する時に一緒に飛び出すためだ。
ガシャッガシャッ
互いの長柄槍が交差し木のぶつかる音が戦場に響く。
「振り上げぇ! 振り下ろせ!!」
『『『セイッ!ハァ、セイッ!!』』』
十数分も振り上げと振り下ろしだけ続けて息が絶えてきた足軽達が見え始める。
訓練しても個体差がでるのは仕方がない。
それは向こうも同じだ。
『『後退!!』』
互いが一旦距離を置くために同時に後退の命令が下されて、離れていく。
「負傷者の回収を急げ!!」
ここまで負傷者は放置しての戦いだった為、弓足軽達が息のある長柄足軽達を後方へと運び込む。
バキィッ
矢を抜けば出血多量で死ぬ事が分かっている為、柄の部分を折って運びやすい様にする処置を施させる。
後は生き延びるか死ぬかは本人達次第だ。
『前進!!』
休憩にもならない時間を空けて、再び両軍が接近を始める。
ヒュンヒュンヒュンッ
再び、矢の雨が互いに降り注ぎ死傷者を量産させる。
「こんなのが戦なのかよ」
大人しくなった犬千代が呆然とする。
ヒュンッ
「ヒッ」
流れ矢が犬千代に向かってきて、悲鳴を上げる。
バキンッ
「危なかったですね」
傍らにいたハルヒコが銀の剣で飛来してきた矢を叩きおる。
「いつ、矢が降ってくるか分かりませんよ。頭上にも注意をしてくださいね」
コクコク
「アレが指揮官か?」
長柄槍の交差が始まり、命令を下しながら相手の指揮官を探していた。
「騎馬に乗っていますし、どこかしらの武将か同程度の方でしょう」
「そうか。そのまま戦線を維持しろ!!」
俺の命令で足軽小頭達が頷いて持続して命令を出し続ける。
「お前の槍を貸せ」
『へ、へぇ』
弓足軽から4mの槍を手に取り肩に担ぐように構える。
「風向きはどうだ?」
チュパッ
「ん~、南西から北東という所ですね」
唾を付けた人差し指を上に向けて風を感じたハルヒコから風向きの報告を受ける。
「少し左に修正だな」
「まさか、投げるつもりか!? あそこまで有に一町(100m)位離れているぞ!!」
「まぁ、見てろ」
ヒュォオオオオ
周囲の光景を意識外に追いやり、意識を相手の武将に集中させる。
「ふ、んっ!」
ブォオン
全身の筋肉を使い、4mの槍を敵武将目掛けて投擲する。
ブォン
前線の頭上を通過し、槍は敵武将目掛けて飛来する。
ズドォン
ヒヒィン
槍は僅かに逸れて敵武将横の地面に突き刺さった。
その武将の乗る馬が前足を上げて驚いている。
「嘘だろ!?」
「惜しかったですね」
「ちっ」
慌てて相手武将が共を連れて後退していった。
もちろん、その様子を見ていた敵軍の統率力に乱れが生じ始めた。
『突撃用意!!』
後ろから新たな命令が下されて槍を突撃の構えに切り替わった。
それを見た敵軍の長柄足軽達は恐れて更なる統率が疎かになる。
『突撃!!!』
ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
今までの恨みを晴らさんばかりに数百の突撃が始まった。
反撃にあうも軽微の損害を出したが敵軍の殆どがこの突撃で死傷者の多数出して散り散りとなって清洲城へと逃げていった。
『我々の勝利だ!!』
ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!
こうして、第一回清洲攻防戦が幕を閉じた。
・・・
・・・・・・
『馬鹿者!誰があのような命令を下した!!』
今は、清洲城から離れた場所で負傷者の手当てをしつつ部隊の再編成を行っている所だ。
そんな中、俺はまとめあげている武将に叱りを受けていた。
足軽大将の責務は武将の命令を即座に部下である足軽達に伝える中間的存在であり。
みだりに場を乱しては行けない存在であった。
「だが、アオイ殿のお陰で勝機が出たんだろ?」
まさかの犬千代から俺を擁護する発言が上がった。
『だまれ、小僧。信長様の小姓だったとしてもこの場での発言は許されぬぞ』
いくら信長の小姓でも会議中に口を挟むことは出来ない。あくまでも初陣を体験させるという事で俺に預けられたまでに過ぎない。
「ふんっ」
誰に対しても噛み付くな・・・
「自分勝手な行動をした事は済まないと思う。我々の目的を鑑みて早期決着が有効だと判断した為、あのような行動をとったまで」
『その判断はワシの役目だ。次の戦で勝手な真似をしたら信長様に報告して然るべき処罰を与える。分かったか?』
「あぁ」
『だが、あの槍投げの腕前は一目置く。もし、必要な時が来た場合はワシから命令をだす。替えの槍は戦場から沢山拾ってあるからな』
敵軍が置いていった矢や槍等はコチラの軍の維持のために回収し使いまわしている。
壊れた長槍のまま戦いは続けられないのである。
パッカラパッカラ
俺たちの遥か後方から早馬が近づいてきた。
『織田軍、本隊から伝令!!松葉城陥落、織田信長様の手に戻り申した!!』
僅か数時間で、敵方に占領されていた1つの城が戻ってきた報せがやって来た。
ぉおおおおおおお!
その報告は周囲の足軽達に伝播して士気を高めた。
『ワシ等も踏ん張りどきじゃ、恐らく清洲からも援軍をだしたいのじゃからな』
俺たちの陣地からみて西側の街道を松葉城で敗走した兵達が清洲城へ流れ込んでいるのが分かった。
『再編成を急げ!』
少ない被害とはいえ少なくなった俺達の軍は先刻よりも貧弱になったのは変わりないのだ。
『再び、清洲城から敵軍が出てきました』
清洲城を見張っていた者から報告が上がってくる。
『兵数はなんぼじゃ?』
『およそ800!』
『なんじゃとぉ・・・』
倍以上の戦力差かよ・・・清洲城も本気で俺達を叩きに来たか。
『至急、陣の再構築じゃ!!!』
ザザザザッ
少なくなった足軽達に命令を下して陣を敷く。
ザワザワザワ
遮蔽物のない、広い場所で互いに陣を敷けば兵力差を知らされてなくても嫌でも分かってしまう。
一時的に上がった士気が落ちていくのが手に取るように分かった。
ザザザザッ
今度の相手側は武将が討ち取られない様に距離をかなり開けている。
命令の伝達に2人位挟んでいる程の徹底振りだ。
「おいおい、大丈夫なのかよ」
「これで大丈夫って答えられる奴は大馬鹿か大物のどっちかだ」
「アオイ殿でもダメって言うのかい」
「戦は数だ。倍以上の戦力差は士気にも関わる・・・本隊の合流が早くきて貰いたいものだ」
「こんなんでも戦うってのかよ!?」
「これが戦だ。捕虜になることも許されん・・・あの方はそういう方だ」
「くそ、俺もここまでって事かよ!」
「絶望の中でもその元気があればいい。俺の命令はそばから離れるなだ。分かったか?」
「うん」
「ハルヒコ、分かっているな?」
「何が何でも生き残る、ですね? 分かっていますよ」
『弓、構え!!』
双方から弓の射程範囲に入り構えの命令が下される。
『放て!!』
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ
先ほどの矢の雨とは段違いの量が我が軍に降り注いだ。
「うひゃぁあああ!!」
「ハルヒコ」
「ぇえ」
ヒュンヒュンヒュンヒュンッ
ハルヒコが俺の前に出て金銀の双剣で降り注ぐ矢の雨を切り裂いて落としていく。
ビィイイン
逸れた矢は地面に突き刺ささって振動する。
『ぎゃあぁああああ』
『いてぇえええええ』
先の戦いより多くの死傷者が一瞬で量産された、変わって向こうの被害はこちらより軽微であった。
全体の1割の兵が持って行かれてしまった。
『退却だ!! 誰か殿を任せる!!!』
後ろで控えていた味方武将がそう告げると一目散に逃げていった。
「嘘だろ!? 俺達を置いて逃げて行きやがった」
「そりゃ、己の命が大事だからな」
「なんで、そんな冷静なんだよ!!」
「さぁな。ハルヒコ、いよいよもってだ」
「分かりました」
「早く、俺たちも逃げようぜ」
「俺は足軽大将だ。勝手に逃げられん」
「んな!?」
「退却の命令が下された! 逃げたい奴は逃げろ!!」
俺の大声で前方に居た足軽達が浮き足立つ。
『うわぁああああ』
『逃げろ!逃げろぉおお』
俺の部下ではない足軽達が一斉に退却し始める。
「お前らも逃げろって」
だが、俺の部下達は新参者を除いて誰も逃げ出さなかった。
『へへっ、アオイの旦那は赤塚の英雄なんだぜ』
『大将が逃げないのに俺達が逃げられる訳ねぇぜ』
100人未満となってしまった俺達の隊だけがポツンと残ってしまう。
相手側は殺気立って追撃戦を開始し始めている。
「馬鹿共が、命を捨てやがって・・・逃げる時間ももぅねぇぞ」
ドドドドドドッ
長槍を構えて突撃してきている敵兵は20mも離れていない・・・今から逃げても間に合わない。
『大将、命令を』
『命令をくだせぇ』
「ちっ・・・テメェ等の命は俺に預けろ!! 一矢報いてやろう」
『『『おぅ!!』』』
「ハハッ、親方様がもう一人いたぞ・・・大うつけがココにもだ」
「犬千代君、今なら逃げても間に合いますよ。我々が敵軍を引きつけている内ならね」
「馬鹿言え!! 俺はアオイ殿の傍に居るんだ!! この命令は逆えん・・・俺だって親方様の役に立つんだ!!」
犬千代は全身を震えさせて自前の槍を掲げる。
「分かりました。僕からは何も言いません・・・」
「魚鱗の陣を敷けぇ!!」
俺の命令で小さな魚鱗が成される。
『馬鹿が、今更陣なんか無意味』
『一番槍は俺が頂くぜ』
『俺が一番槍の誉れを貰う!!』
理性を抑えられない敵兵達が槍を構えて俺達に殺到する。
『大将、次は何をするんでぇ』
「俺はもう大将ではない、一足軽だ」
『へ?』
「俺も好きにさせて貰う」
ザシュッ
ドッ
足に力を入れて地面を蹴り、十数人の頭を超えて最前列へと着地する。
「織田信長が配下、斬馬のアオイが受けて立つ」
ブゥン
身長ほどの斬馬刀を掲げて敵兵に声で伝える。
『一番槍はワシのものじゃァ』
俺の目の前に6mの槍を構えた敵足軽が迫る。
もちろん、左右に居た足軽も穂先を俺に合わせている。
ガキッ
斬馬を盾にして俺に迫っていた数本の槍の軌道を上方に逸らして屈めた身体を槍の間合いより内側に潜り込ませる。
「どっ、せいっ!」
ブワンッ
体ごと回転させた斬馬は敵兵のガラ空きとなった脇腹を捉える。
バキィツ
胴鎧が斬馬に切り裂かれて上半身と下半身に分けて周囲へと飛び散る。
近くに居た、敵兵がその光景に唖然となる。
「戦場での思考停止は死だと知れ」
ブゥン
俺が斬馬を振り回す毎に突撃していた敵足軽を吹き飛ばす。
「魚鱗の状態で突っ込んでこい!!」
『『『うぉおおおお!』』』
『大将につづけぇええええ』
『オラ達の命は大将と共にぃい』
後ろで見ていた部下達が槍を構えて突撃を開始する。
「おらぁあああ、足止めてんじゃねぇぞ!!!」
ワザと粗暴な口調で怒鳴りながら斬馬を振るう。
グシャァアア
ひと振りで数名の人間が空中に吹き飛んで血潮を敵兵に降り注がせて士気を落としていく。
『ぉおおおおおお』
俺に注目していた敵足軽の横腹に部下達の槍が突き刺さっていく。
「間合いがなんだってんだ! テメェらの持ってるのは棒きれにしかならねぇんだよ!!」
ガンッ
構えていた槍を斬馬で上に跳ね除けて、間合いに入り敵足軽達を一刀両断していく。
鼓膜が破れそうな俺の怒声と味方が真っ二つになりながら宙を舞う様をみた敵足軽達に恐怖が伝播する。
ブシャァアアア
ボタボタボタボタ
血潮が雨のように降り注ぎ、臓物が地面に飛び散る。
俺の来ていた着物は真っ赤に染まりあげる。
「死にたい奴から掛かってこい!」
ヒュォ
ドゴォオオオン
斬馬を地面に叩きつけて音で恐怖心を煽る。
『死にたくねぇべ』
『こんな戦やめるべ』
『捕虜になるべ、命だけは助けてけろ』
1番近くにいた敵足軽達が恐怖に負けて戦意を喪失していく。
ダダダダダダッ
俺の後ろから追いかけてきた部下の足軽達が槍を構えて敵足軽へと槍を突き立てていく。
「殿の俺達に命乞いは無駄だ」
100人にも満たない殿部隊の俺達が800人の軍隊に食いついている。
「お疲れ様です」
「あぁ」
「また、噂されちゃいますね。これだけ派手に暴れたら」
「構わん」
「犬千代くん?」
「あ、え、うん?」
「怖いか?」
「今は怖かねぇ!」
「そうか・・・離れるなよ」
「おう!」
俺達は勢いのまま、ただ真っ直ぐに進む。
一人、また一人と倒されても進む速度は変わらない。
バッ
残り30名程となった頃で抜け出した。
見えるのは騎馬に乗った武将らしき人物と数十名の弓足軽達。
『うぉおおおお』
『大将に道を!!』
『作るんじゃぁああ』
30名が折れた槍を構えたまま肉壁となり突き進む。
『放て!』
ヒュンッヒュンヒュン
数十の矢が俺達目掛けて射られる。
幾人かが倒れても、気力があるもの、矢が刺さってもなお走り続けた。
『くっ』
「逃げるじゃねぇ!」
ブゥン
ブシュゥウウ
ヒヒィン
折れた槍を投げて馬を殺し敵武将を引き摺り下ろす。
『大将、今じゃぁあ』
『ワシ等の無念を晴らしてくれェエエ』
「皆、よくやってくれた」
ズシャッ
部下達の頭上を飛び越えて、武将を切り殺そうと斬馬を振り上げる。
ズドォン
「ぐふっ」
思いもがけない衝撃が胸に走り、轟音と共に俺は後ろになぎ倒された。
『ひ、ははっ!!』
薄れゆく意識に種子島を構えた敵武将の姿が映った。
「おのれぇ!」
ビュォッ
グズッ
『がばっ』
武将の鎧を貫通した槍が胸から生えて、口から血糊を吐き出す。
『ばが・・・な』
ヒュオッ
ブシュッ
ハルヒコが敵武将の首を双剣で切断する所で意識が遠のいた。
・・・
・・・・・・
・・・・・・・・・
ガバッ
「っつ!」
「あぁ、起きちゃダメですよ」
意識を取り戻した俺の横にはハルヒコが座っていた。
「どのくらい気を失っていた?」
「ほんの1時間位ですかね・・・」
俺の胸には包帯が巻かれていた。
「動いちゃダメですよ。犬千代くんが起きちゃいますから」
「あ?」
ズシッ
俺の太ももに重みを感じて視線をずらせば眠りこけている犬千代の姿が映った。
その手にはあの時の敵武将の首が握られている。
寝起きにコレは少し驚いた。
「今は信長様達の本隊が深田城を陥落させて清洲城攻略をしている真っ最中です」
奥へと視線を移せば、信長と信光の軍が清洲城へと押し入っている所だった。
「陥落は時間の問題でしょうね・・・あと、信長様から言伝を頼まれました」
「なんだ?」
「此度の働きは天晴れである。お主らは後方に下がっておれ・・・との事です。僕達の役目は終わりましたね」
「あぁ」
「戦後処理が終われば、また呼ばれそうですね」
「だろうな」
ドサッ
上半身を地面に横たわらせて空を見上げる。
「そこそこの活躍する予定が、どうしてこうなったんだろうな?」
「殿なのに突撃なんかするからです」
「アレばっかりは仕方がないだろ。俺が出ないと士気ダダ下がりの殿なんて努まらん」
「それもそうなんですがね・・・軍を率いるなんて難しい事ですね」
「将の器じゃないからな・・・」
「昔から一人で戦っていましたからね」
「その方が楽だからな」
「その気持ちは分かりますが、アオイさんにも守るべき人がいるんですから無茶しちゃダメですよ。たとえ死なないと分かっていてもです」
「分かったから、そんな顔するな」
「僕も結構死線を潜ってきたつもりですが、仲間の死というのは辛いんですからね」
「涙を拭け、男の涙は見るに耐えん」
「冗談じゃないんですよ。あと一歩間違えたら死ぬところだったのですよ」
「あぁ、自重はする」
「約束ですからね」
「あぁ、分かった」
こうして、清洲織田家の織田信友を打ち破った織田信長と信光の連合軍は勝利で戦を収めることに成功したのであった。
清洲城を大改修した信長は本城を清洲城に移転し、那古屋城を叔父にあたる織田信光に明け渡していた。
戦後処理等が落ち着いた頃に此度の戦について評定が開かれた。
まずは、織田信長配下の武将達の名が上がり活躍した功績などを読み上げて湛えた。
『続いて、足軽大将アオイよ、ここに』
「はっ」
まさか、足軽大将が呼ばれるなんて思わなかったであろう柴田勝家を始めとした武将達がザワめき立てる。
「此度の戦、清洲側の軍において主は足軽大将とは思えぬ功績を果たした。幾ばくか命令外行動もあったと聞いておるがワシ等が到着する前に100人にも満たぬ殿戦で見事800人になる清洲軍を押し留めてくれたな」
ザワザワザワ
「そして、なにより。ワシの小姓であった犬千代に首級をくれてやったと聞き及んでいる」
「恐れながら」
「なんじゃ?」
「俺は最後の最後で敵将の不意打ちをくらい、気絶寸前まで追い込まれた所だった。首級は犬千代の手柄」
「くくっ、そうしておこう。あの殿戦で生き残ったのはたったの10名程・・・数的不利にも関わらず勇猛果敢に戦ったのはお主の手柄じゃ。よって、主を徒大将とする」
徒大将とは実質的指揮官の事を示し、殿様に一目置かれ認められたという証である。
ザワザワザワザワ
更にザワめきが大きくなる。
「恐れながら」
「ん?」
「辞退する」
「なにぃ?」
織田信長が急に不機嫌な顔となり周囲のザワめきが大きくなるばかり。
「静かにせい!」
ドォンッ
信長の怒声と床を叩く音でザワめきがピタッと収まる。
「理由を申せ。下らぬ理由ならば分かっておるな?」
「大きな理由として、織田家統一がなされていない以上、俺の昇格は待ったほうがいい」
「話せ」
「現状、織田家は幾つかの派閥で分かれており何時でも敵対される事がある。今回の織田信友のように・・・」
「うむ」
「俺は南蛮人で所詮はこの国とは縁遠い存在である。武功も上げて評価され昇格に至る事は俺も嬉しく思う。人種関係なく評価してくれる人は本当にひと握りだからな」
「で?」
「正直な話、これ以上周りを刺激するような行動を控えるようにした方が良いという事だ」
ザワッ
「主であるワシに意義を申し立てると言うのか?」
若干19歳にしては威厳・威圧で俺を屈服させようとする。
「守るべき主だからこその進言と受け取って貰いたい。このままでは周囲だけではなく内部から敵が出てくる事だってありえる」
『貴様!我等の忠義を疑うと申すか!!』
『なんたる言い草じゃ。これじゃから南蛮人をあれほど』
近くで聞いていた武将の一人が怒号を上げる。
「聞いての通り、俺を雇った事自体を批判する忠臣もいるようだが?」
ギロリッ
『ひっ、信長様、平にご容赦をぉ』
信長に睨まれた武将は平伏する。
「信長様の父君の時代から仕えている者達からしてみれば俺という存在はうつけと言わしめる一つの材料になり得ているのが現状」
「ワシをうつけ呼ばわりするか?」
「いや。雇い主である信長様自信が己を窮地に陥れるような行動は控えていただきたいと進言しているだけに過ぎない」
「であるか」
「ただし、うつけと呼ばれる行動を自発的にし道化を演じることで近場の敵をおびき出すには良い手かと思う」
「ふっ!・・・ガハハハハっ!」
信長は満足行くまで笑う。
チンッ
抜刀しかけていた物を納刀する。
「お前の考えは分かった。徒大将の件は保留とし別の報奨を与える。望みはあるか?」
これを待っていた。
俺から望みを言った所で切り捨てられるし、ここまで引っ張りだすのは苦労したがな。
「廃村を頂きたい」
「・・・・なんと言った?」
「俺の望みは廃村が欲しい」
「・・・・それが望みか?」
「あぁ」
「ガハハハハハッ、褒美に廃村が欲しいという奴は聞いたことがないぞ!」
「真面目に答えている」
「その真意を聞いておくぞ・・・なぜ廃村が欲しいと言う?」
「既に知っていると思うが、俺と後ろに控えているアマギには妻子がいる」
「うむ、どこぞに住んでいるらしいな」
「更に、知人を含めて10名以上も家なし状態で暮らしている。人の住める土地が欲しい」
「ほぅ・・・どこの場所だ?」
「清洲から東・・・武田領との境目、山脈手前に放置された廃村だ」
「あそこか・・・あそこは叔父の信光が収めている地だな・・・はて、そこの付近には山賊が住み着いておるという事で廃村になったと聞いた覚えがあるな?」
「その山賊を俺達の手で壊滅させて、今はその根城に隠れ住まわせている」
「・・・ガハハハハッ!たったの10人程度で50人を超える山賊を蹴散らしたというのだな? ワシを謀るならば命はないと思え」
「謀ってはいない。統率の取れていない山賊程度では俺達は倒せないだけだ」
「ふむ・・・この件は叔父にも話して、本当の事だったら許可しよう。しかし、嘘だったら・・・分かっているな?」
「あぁ。俺達の嫌疑が晴れるまで、屋根裏にいる連中はつけていてくれても構わない」
ハッ
信長が始めてハッとする表情をした。
「知っていたのか?」
「この1年間ずっと監視していた事程にはな。赤塚と先の戦でも俺たちの近くに身を潜めていた事も含め」
「ガハハッ!下がれ、沙汰は追ってだす」
「「ハッ!」」
信長から許可を得て退城となった。
「緊張しましたよ。途中でヒヤヒヤしました」
「気難しい相手の交渉は苦手だ」
「アオイさんでも苦手な物があるんですね」
「俺は腹芸は得意ではないんだ・・・ここ最近はマザーの中にいるペンドラゴンが主だったからな」
「なるほど・・・マザーにセリフだけ回してもらえばどうですか?」
「それだとすぐにバレるだろう。声色・表情なんか見てる相手だ、感情のこもっていない言葉なんかもっての他だ」
「なるほど・・・まぁ、廃村を貰えるといいですね」
「あぁ」
1ヶ月後、信長と信光との謁見の為に呼ばれた。
同じ頃にリリィ達から連絡があり、織田信長の使者を通じて登城命令が下り護衛の数名と共に清洲城へと向かっている連絡を受けていた。
「アオイとアマギ、参った」
「入れ」
俺とハルヒコが襖を開き中へと入る。
「なっ!」
俺の後に入ってきたハルヒコが絶句する。
奥には信長と信光の姿、それに布で口を塞がれ、捕縛されているリリィ達全員の姿があった。
ブワッ
背後で殺気をだすハルヒコだ。
武器は登城する際に預けているため素手で殴り掛かりそうな勢いだ。
バッ
俺が腕を上げてハルヒコが飛び出す前に抑える。
「なにを!?」
「落ち着け・・・お前らも久しぶりだからってなんの真似だ?」
スルッ
「御免なさい、アナタ達を試したことは謝るわ」
リリィは口元の布を外し、縄はスルリと外れた。
「私達の事は話のだけれど、アナタ達との繋がりが本物なのか試して欲しいと言われたのよ」
ニィイイ
信長は大層機嫌が良い顔つきで笑っていた。隣に座っている信光はハルヒコの殺気に当てられて顔面蒼白になっている。
「がははは。叔父上、決まりで良いか?」
「う、うむ。これほどの殺気にあったのは久方ぶりじゃな」
「皆の者、構えを解け」
ザッ
天井裏や襖の奥から姿勢を戻す音が聞こえてくる。
俺達が信長達を害するならば仕留める為に控えていた連中だ。
「ごほん、これより其方は私の領民として迎え入れようとおもう。場所は主等が指定した廃村である。しかし、なにも無い所に住むのか?」
「元々住んでいた洞穴を拠点に徐々に家を造っていく」
「たしかにあの洞穴なら住みやすい環境であったな」
信光はどうやら直接見に行ったらしい。
「しかし、大工の一人も居ないのであれば家を建てるのは困難な筈。それとも南蛮の家を建てるつもりかの?」
「いや、コチラの様式の家を建てる。景観をそこねるのは面倒だ」
日本に居るなら日本風の家を建てるべきだ。
「幾人かを見繕う」
「感謝する」
「あの地は長らく放置されていた場所だ。自ら住んでくれるのなら願っても見ない。腕も甥の信長のお墨付きじゃからな」
「うむ。ワシが保証しよう」
「あと足りない物があれば私の所にくるとよい。手配しよう」
「あぁ」
こうして、俺達は信光の領民として全員が尾張領と武田領の間にある廃村へと移住する事が決まった。
・・・
「なにも無い所っすね」
廃村故の建物らしき廃墟が幾つかと頼りない柵が幾つかしか残っていない程度の土地を見てアキヒサが呟く。
「これから、私達の村にするんだから元気だしなよ。ねっ、ラン」
「うん!」
「これからはお父さんと一緒に暮らすの?」
「そうですよ」
「ウミも寂しがって居たわ」
「これからは一緒に住めるんですからね」
ハルヒコ一家とアキヒサ一家がコレからのことを話す。
「お父さん、やっと住める場所が手に入ったのね?」
「あぁ、お前達がおとなしく待っていてくれたからな」
「これから何をするの?」
「村を作るんだ。俺達だけの村をな」
「おと~」
「お前はもう少し大きくなってからな」
「さっさと動きましょ」
「ですな」
『あの~、ワシ等はどうすれば?』
ここで信光が派遣してくれた大工連中から聞かれる。
「あぁ・・・そうだな」
これから俺達は村作りに尽力を注ぐ事となる。
お疲れ様でした




