7:虎口
「だから4本、腕部装備のエネルギーブレード4つってこういうわけでッ!?」
初めて明かされたアルシエルの構造と機能。それに僕は頭を抱えたくなるのを、声を上げることで逃がす。
一方でアルシエルは今まで隠していた二対目の腕、虫でいう中脚に当たる腕を振るう。
その細腕の一振りは、強盗隊長を軽々と押し返して吹き飛ばす。いや、アルシエルが跳ね除けようとする力に乗っかって、強盗隊長から跳んで逃げたのかもしれない。
敵に離脱されて、隠し腕の斬撃は相手の装甲を浅く切り裂くに終わった。
アルシエルは振り抜いたそのままブレードを霧散。隠し腕を半ばまで折りたたんでグリップを前へ向ける。そうしてエネルギーガン、ライフルと合わせて連射して追いかける。
コックピットを、僕らを狙われたのがよほど頭にきたのか、アルシエルは逃げる強盗隊長ただ一体だけを睨んで追いかけている。
その盲目ぶりは、迎撃と牽制に放たれたエネルギー弾をバリアに任せて避けようとすらしていないほどだ。
けれどそんな追跡の中で、僕はモニターの隅に飛び込んでくる機影を見つけた。
「まずい! 下がれッ!」
躍りかかる機影に、僕は声を張り上げてレバーを引き、追跡に夢中なアルシエルを止めにかかる。
怒り猛っていたアルシエルだけれど、僕の意思を受けて敵影を認識。次の一歩を踏み出しかけていた脚を止めて大きくバックジャンプ。
その直後、アルシエルが進んでいただろう場所を光の刃が縦一文字に切り裂く。
アルシエルは大きく跳び退きながら、追撃の邪魔をしたモノへ向けて、ブレードガンも駆り出してエネルギー弾を乱射する。
連なり弾けるエネルギー弾。その輝きを後に置いて飛び出す暗い色の機体。
その動きを追いかけてアルシエルは銃撃を放ち続ける。
「速いッ!?」
だけれど隊長の危機に割って入っただけあって、この強盗風味は素人目にもわかるほど動きがいい。
性能云々がどうとかじゃなくて、まるで怖いものを知らないみたいに思い切った切り返しで僕らを翻弄してくる。
今またこちらの降らす弾丸の雨を、ブレードで引き裂き突っ切る。
エネルギー弾をブレードで切り裂くような技量の持ち主。そんなのが足元をうろついてるような状況で着陸を選ぶことなんてできるはずもなく、ホバリングしたまま旋回して弾丸で追いかけるしかない。
弾幕を広げて逃げ場を潰し、一気に収束! たまらず逃げたところをこっちからも距離を詰める!
「これならッ!?」
だけれどこの強盗風味は、僕らの攻勢を待ってましたとばかりに切り返して弾幕と、アルシエルの真下を抜ける。
「後ろに!?」
「まずいッ!?」
背後を取られた形の僕らは逆時計に急旋回。合わせてアルシエルの左ブレードグリップを手に握らせて振る。
案の定、後ろから切りかかってきていた強盗風味を、左のブレードが迎え撃つ。
横一文字と縦一文字。エネルギーブレード同士が真っ向から十字に交差し、二つの刃の間で電光が弾ける。
針のように細く頼りなく見えるアルシエルのブレード。だけれどそれは逆にがっちりと収束させているからこそ。無駄に拡散していない分、むしろ切れ味はこちらのほうが上!
「このまま持ち手をブレードごとにッ!!」
アルシエルの出力と性能を頼って、僕は力押しに押しきろうと前のめりになる。
するとつばぜり合いをしていた強盗風味が前面のバーニアを噴射。
「んなぁッ!?」
押し合っていたところで急に引かれて、ぶつけどころを外された勢いが暴れて空回る。
強盗風味はそんな僕らをくるりとかわして回し蹴りを一発。
右手側からの一撃はシールドでは受けることもできず、アルシエルの肩を直撃する。
「うああッ!?」
『アワ、アワワ』
機体を揺さぶられてラティさんとルカがたまらず声を上げる。
「うぅ……ッ! でもッ!」
僕も声が漏れそうになるけれど、それをどうにかかみ殺して、アルシエルの体制を整えて着地させる。
着地からすぐさまレーダーの示す方向にライフルを向けて牽制する。
「う!?」
けど僕は引き金を引けなかった。
よりにもよってこの強盗風味、コイツ僕らが銃を向けた先に自分のコックピットを持って行ったんだ!
「まさかさっき僕がためらったのを見ててッ!?」
だから撃てない。隙が生まれる。そう踏んでの行動なのかもしれない。
でもありえない! 言わせてもらえば頭がおかしい、狂気の発想そのものだ!
僕が躊躇いを持っている。それは事実だけれど、それを確信をもって見切るにしても早すぎる。
躊躇があっても距離次第であるとかヤケとか錯乱とか、引き金が動く要素はいくらでもある。絶対に撃たれないとは限らないんだぞ!?
まさか自分が絶対に死なないなんて思ってるのだろうか?
そうであってもそうでなくても。どちらにせよ相手の持つ銃に心臓部をさらすなんて狂気の沙汰以外の何物でもない。
時間にしてはごくわずかな。けれど思考に意識を奪われていたその間は相手によっては致命的ものになる。そして目の前の相手は確実に致命傷にする側だ。
僕が銃口をコックピットから逸らすよりも早く強盗風味はブースト。
「しまっ……!」
左手に回ったそれを追いかけて、僕らは振り返る。けれどもう一度視界に収めた時、強盗風味はもう目の前にまで迫っていた。
ほぼ直角、跳ねるように突っ込んできての体当たり。
どうにか正面に迎えたそれに、僕は盾で受けようと左腕を前に。
「ぐっわぁあッ!?」
ギリギリ挟み込めた盾越しの衝撃。
シールドの装甲をひしゃげさせるほどのそれに、アルシエルの機体も浮かばされる。
出力はともかく質量に大差はなし。おまけに重心の定まっていないこちらに対して、向こうは十分な勢いがついてる。いくらアルシエルでも受け止めきれるものじゃない。
「……ッグ! このまま好きにはッ!」
尻もちの衝撃に揺さぶられながらも、僕は引き金を引いて頭部エネルギーガンを発射。敵の接近を牽制する。
それで体当たりをしてきた強盗風味の足は止まった。体当たりをしてきたの「は」。
僕らが三連エネルギーガンで正面を足止めする一方で、右手に装備していたライフルが切られてしまった。
「なんとぉおッ!?」
その手応えに右を見れば、そこにはエネルギーブレードを振り抜いた色違いの強盗隊長の姿がある。
「やられた……ッ!」
ラティさんの悔しげな声が響く。
装備を潰されて、手練れと隊長での2対1。腕の数は4対4だけれど、それは向こうにも知られてる。意表を突く隠し玉として、これ以上は無い隠し腕だけれど、バレていては効果は薄い。
ライフルを破壊してくれた強盗隊長は、その刃を僕らのいるコックピットにすでに突きつけている。
動くな。
そう言いたいのだろうか。
いや、彼らにとってすればアルシエルが手に入ればそれで構わないはず。できるだけ無傷で押さえたいだろうけれど、コックピットの中身については必要な犠牲と考えてるかもしれない。
だからこのまま突き刺すつもり、っていうのもあり得る。
実際のところ、僕らが生きてるからアルシエルは大人しくしているわけで、そこまでやってしまっては、逆に縛る枷を切ることにもなる。
けれど強盗風味たちにしてみれば、LBが自我を持って自在に動いてるだなんて夢にも思わないことなんだろう。
そしてそれを仮に接触回線で伝えた、伝わったところで、命乞いの言い訳としか取られないのだろう。向こうが嘘でなかったと後悔するのは、実際にコックピットを潰した後にしかないだろうから。
とにかく、いま全員で無事生き延びるためにできることは、迂闊な抵抗をせずに機を待つこと。それしかない。
僕は後ろのラティさんと目配せしてそんな結論を出すと、アルシエルに左手のブレードグリップを手放させる。
「……早まらないでよ?」
剣を突きつけてくる敵にか、それともアルシエルにか、どちらに向けての言葉なのか。
自分でもあやふやな呟きとともに、僕は今は抵抗する気が無いと、アルシエルに武装解除をさせていく。
右手は切れたライフルを手放して、手首のグリップデバイスも射出。二本の隠し腕もまた握っていたブレードグリップを手放す。
これでアルシエルの武装は頭のエネルギーガンだけ。さすがにこれは取り外しができないので、解除のしようがない。噛みついて抵抗できるから歯を抜けって言われるようなものだ。……これも、業界によってはあり得そう。というかむしろ、序の口かもしれないのが恐ろしいけれど。
さておき、ほぼ武装解除したアルシエルに、強盗隊長は突きつけた刃はそのまま、右腕を掴まえる。
ひとまずこれ以上は壊さずに捕縛するつもりになったらしい。
アルシエルを回収するために、手練れの強盗風味が左手側に回ろうと歩いてくる。
そうして左腕も捕まえようと、強盗風味の手が伸びてくる。
けれど次の瞬間、強盗隊長機のブレードを持つ手が爆発。また同時に僕らの左手側にいた強盗風味の頭が火花を上げる。
そしてヘッドショットに揺らいだ強盗風味を、分厚い装甲を重ねたストームクラウドがぶちかまして押しのける。
「ハンス隊長ッ!」
増加装甲と大盾の重みでもって手練れの敵を押しのけるのは、ラティさんの言うとおりハンスさんの隊長機だ。
また少し離れたところでは、ピッコロさんのストームクラウドが、強盗風味の攻撃をかわしつつ、ライフルを左右に振っている。
「今だッ!」
ピッコロさんの狙撃と隊長さんの体当たり。これでこじ開けてもらえたチャンスに、僕はアルシエルの腕をあるものに伸ばす。
それは落としたブレードグリップ。じゃない。LB牽引用車両の大型クレーンだ。
ブレードは強力だけれども、そのせいで思いきり振るには事故が怖い。でもここでためらってしまってはダメだから、もっと遠慮なく振り回せるものがあればいい!
「くっらえぇえええッ!!」
クレーンを掴んだアルシエルは、僕の操作する勢いそのままにスイング。掴んだクレーン部ばかりか、LBのストレッチャーになりうる車体ごと持ち上げてのそれは、離脱しようとしていた色違いの強盗隊長を直撃。まるでホームランボールのように打ち上げる。
宇宙そのままの色をした月の空。そこへ高々と舞い上がった強盗隊長が光をチカチカとさせる。
光信号だ。
相手方固有の暗号パターンなんだろう、アルシエルのモニターではめちゃくちゃな翻訳になるそれを受けて、強盗風味たちは一斉に爆発する。
「眩しいッ!!」
でもそれは自爆したわけじゃなかった。閃光弾の爆発で僕らの目を塞ぐためのものだったんだ。
光が収まった時には、強盗風味の一味はもう随分と遠くにまで逃げていた。
「撤退、してくれた?」
小さくなって離れていく敵の姿を見送って、僕はシートにもたれ掛かる。
戦いの終わりを確認して、生き延びれた実感したのをきっかけに、体に張りつめて支えていたものが抜けてしまったようだ。
背中に当たる汗に濡れたインナースーツが冷たい。それとは別に、なんだか股のところに違和感を感じる。具体的にいうと、水気を含んだ何かが膨らんで挟まっている感じだ。
うん……やってしまった。多分、死ぬと思ったあの時にだ。
初陣でやらかすのはよくいるらしくて、通過儀礼みたいなものだって話は聞いたことがある。けどなんかもう、生き延びて嬉しいとかそういうのが全部ふっ飛んでしまった。
とにかく今はただ恥ずかしいやら情けないやらで、涙まで出てきた。
今回で連日更新は終了となります。次回からは不定期更新です。




