8:再起
「ちっきしょうッ! なんだってんだありゃあよお!?」
俺ことミハイル・リウは揺れるコックピットの中、真っ暗になったモニターに囲まれて、腹のムカつきを声に出して吐き出す。
「黒イナゴがバリアコミコミで装甲もパワーもダンチだってのは分かってたけど、あそこまでか!? あんなにかッ!? なんてえ化け物を作ってくれやがったんだよ!」
見るのとやるのとじゃワケが違う。実際にぶつかってみて、あの黒イナゴのヤバさが身に染みた。
動き自体は連携もロクに取れてない素人も素人。だってのに俺ばっかりか、ウチ一番の腕のナイナを相手にギリギリに食い下がってきやがった。
パワーだけでも厄介なのに、乗り手がヘボでも補ってあまりあるだけの反応速度まで。マジで洒落になってない。
んでパワーも、映像データから試算した情報に上乗せして報告したが、あれでもまだ足りなかったかもしれん。それくらいにぶつかった実感ってのは違った。
『もしもし兄上?』
「おお、ナイナか。お前はどう思った? 実際当たってみて」
『急場しのぎなのか乗り手と、本体以外の武装は大したことはありませんでした。厄介な相手ではありますが、先の手応えならコックピットを潰してもよければなんとか仕留められます』
「なるほどねえ。俺は止められちまったが、お前ならやれるかもしれんな。だが刺し違えてなら、なんて言わないよな?」
『今回のが全力ならそこまでは。ただ……』
「なに? なんか不安?」
『兄上の一撃を止めた隠し腕。あんな隠し玉があるかもしれない。そう考えると、私でも一対一では捨て身でかからなければならないか、と』
「縁起でもねえなあ、おいよぉ」
だがナイナの言うことはもっともだ。
胸の一部に偽装して隠してたもう二つの腕。武器の持ち替えに使うようなサブアームでなく、戦闘に耐えうる四本腕とかなんて冗談だよ。しかもそれが最後の切り札だとも思えないってのが余計にたちが悪い!
しかもこれでさえ最悪じゃあない。
「最悪なのは、これだけの情報を報告したところで、まず俺たちのやることは今まで通り何も変わらないってことだ」
『……撤退は、させてもらえませんか?』
「まず間違いなくな。黒イナゴの戦力がちゃんと理解されたとして、せいぜいが応援部隊の派遣。でも多分、補充人員もなしの作戦継続って線が一番濃厚だろうよ」
そう。奴がどれだけの性能を持ってようが、もうぶつからないでいいならそれはそれでいい。
だが上の連中が、たかが汚れ仕事用の捨て駒暗部の意見なんざ聞き入れるわけがない。
仮に聞き入れたとしても、黒イナゴの価値の部分だけ。手に入れるのにどれだけ犠牲が出るかなんてこと気にも留めないだろ。
俺はかろうじて生きているレーダー画面に目をやって、俺のインレアンを中心に固まった3つの点を見る。
カメラを潰された俺とナイナの。それと動けなくなったシードル機を、フェイのインレアンが引っ張っているからこんな密集形になる。
今回のアタックでもこれだけのダメージを受けちまった。シードルにいたっては、危うく死ぬところを首の皮一枚でつないだようなもんだ。
また黒イナゴとその護衛に仕掛ければ、また4人で逃げられる保証はない。誰かが欠けてしまうことになるだろう。
「も、マジでやってらんないわあ。俺らは上の奴隷じゃねえっつうの!」
『兄上。実際のところは財産、家財道具扱いになっていた奴隷の方がまだマシかと』
「……言ってくれるなよソイツをよお」
確かに使い捨ての俺らの扱いは、奴隷は奴隷でもツルハシ同然の鉱山奴隷の方だわな。いや、上の連中にしてみりゃケツを拭く紙程度か?
なんにせよ、命令だからって捨て身になってまで働く義理なんざない。
だがだからといって、逆らうにも脱走するにも準備不足で時期じゃない。
「さて、どうしたもんかね」
どうにか仲間に犠牲を出さず、でもやる気も能も無しと見切られないように。
あと出来れば、亡命するかもしれない先にキツく恨まれないようにしたい。
そんな都合のいい未来を手にするにはどうしたもんかと、俺は狭いコックピットの中でうなる。
『接触してもしもーし。兄貴、無線通信機動いてない?』
「LBのキャリアーでぶん殴られて、ただいま接触回線にしか出られまへん」
『こちらも聞いていない。頭を潰されてメインカメラと通信系がやられてる』
最後に黒イナゴから食らったホームランで、俺のインレアンは中身がグチャグチャだ。特にセンサー系がね、いまダメなんだよ。
エアバッグやらなんやらの対ショックの仕掛けのおかげで、俺は大したこと無かった。だが正直よく死なずにすんだってもんだ。
言ってみりゃ、ベッドをバット代わりにぶん殴られたようなもんだからな。改めて黒イナゴのパワーにはゾッとするわい。
「で、フェイ。無線通信がどうしたって?」
首を横に振って、耳を襲う寒気を振り払って、俺は弟分に本題を促す。
『うい。潜入班から暗号通信が届いてるよ』
なるほど。潜入を任せた別動隊からか。念のためにって動かしたわけだが、こっちが陽動にしかならなかったなら、もう潜入班を頼るしかないな。
「そっちの報告かい。で、内容は?」
『潜入の成功連絡。あとはあの黒イナゴが補充用の都市防衛部隊が到着次第、入れ替わりに元の基地に戻ることになりそうだって』
『出発の時間は分かってるの?』
『ん。ダイジョブダイジョブ。今日の夕方に防衛部隊と輸送車が到着予定、だとさ』
『新兵器の扱いにしては対応が遅いな』
「だぁが俺たちからすればあんま時間はないな。行動を起こすならのんびり一休みとはいかんぞこりゃあ」
さてどうしたもんか。
ナイナの言うとおり、奴らの動きが遅いおかげでまだ仕掛けようはありそうだ。だがもたもたしてはいられるほどの間もない。
これでもうすぐにでも到着と出発ってなってくれたなら、こっちも修理して態勢を整えるのに集中ってなるんだが。どうにも中途半端な時間だ。
「よし。潜入班には足止めをしてもらおう。こっちはLBの修理を急いで、一機でも多く動かせる状態に持ってくぞ!」
だがしかし、強奪しろって司令が出てることに変わりはない。
勤勉に過ぎるくらいに動かなきゃ、上は怠け者としか見ないだろう。仕掛けることのできる間を逃がすわけにはいかないんだよな。これが。
『この状況で修理ってことは、ニコイチ?』
『だあね。補給は受けらんないから部品にも人手にも限りはあるしね。乗ってる俺たち自身でニコイチ。ほかにやり様はないっしょ』
「ナイナのはシードル機と頭を取り換えれば大丈夫だろ。他にもガタガタの俺のからだったら、使える部品はいくら引っこ抜いてもかまわん。とにかく一機でも多く動かせるようにするんだ!」
とにかく。潜入班の報告のおかげでやることは決まった。動くべき方向さえ決まったならば後は動くだけだ。
「限りがあるのは人手と物資ばっかりじゃないぞ。準備時間もそんなにないからな。トレーラーと合流次第に作業開始、急ぐぞ!」
『了解です兄上』
『あいあいさーってな』
黙ってやられっぱなしってのも面白くないからな。さて忙しくなるぞ。
仲間に引きずられた今の状態じゃ格好がつかないけどな。
今回で本当に書き溜めが尽きました。次回からは不定期更新です。
今度は本当なんです! 信じてください!




