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20:強奪

「よし! 包囲と分断は成功だな。このまま潰すぞ!」

『了解です、兄上』

 狭いサブカメラの映像の中で、四本腕を振り回してる黒イナゴ。

 取り囲んだ俺らを近づけまいと牽制しているつもりらしい。

 接触回線からのナイナの返事を聞きながら、俺、ミハイルはほくそ笑む。

 確かにヤツの持つ武器は、ひとつひとつが致命傷になりかねないおっそろしいモノだ。

 だが、俺たちの作る網にかかった今となっては、虫かごの中で威嚇するカマキリじみてる。

 ヘッドショットを食らって俺の機体はメインカメラをやられたが、その甲斐はあったってもんだわな。

 しかし包囲したって言っても、逃がさないだけじゃなく入れない方にも気をつけなきゃならんから、それほど固くもできてないんだが。

 しかもここは敵基地のど真ん中。じっくり攻めるって手は使えない。

 攻め手は都合、俺と仲間たちの四人。

 だが短期決戦かますには連携しやすくて逆に丁度いいわな。

 シードルのライフルが火を吹いて行動開始の合図を出す。

 射撃に意識が向いた黒イナゴへ、ナイナとフェイのが前後から挟むように切りかかる。

 対するイナゴは、隠し腕のブレードで受け止めてから鈍器を振り回す。が、狙いが読めているのに当たるナイナとフェイじゃない。

 上半身狙いの打撃をするりとかわして、ナイナ機はすかさず返す刀でコックピットを狙う。

 フェイのはその一方で立ち位置をスライドし、背後から切りかかっていく。

 だがイナゴLBも相変わらずの化け物だ。

 ナイナ機のブレードを右で受けたらば、そのまま振り向いて左でフェイ機を相手取る。

 しかも一回こっきりのまぐれじゃない。二度、三度と繰り返して立ち位置を変えながらの斬撃に対応してチャンバラして見せてやがる。

 まるで右と左とで別々の人間が操縦を担当してるみたいにだ。それも呼吸を完全に合わせて。

 そしてダンスのように切り結ぶ三機へ向けて、シードル機がライフルを援護に撃つ。

 その瞬間、俺の耳をおぞ気が走る。

「まずいぞ!」

 もうタイミングを計ってる場合じゃねえ!

 俺も自分の機体にブレードを展開して走らせる。

 そんな俺の前で、援護射撃に対応するためにナイナ機たちはわずかに散開する。

 その隙に黒イナゴがブレードを広げながらジャンプ。

 弾丸と、ナイナ、フェイの機体を追いはらう。

 同時にイナゴの手から斧が離れて、シードル機に深々と突き刺さる。

「シードルッ!!」

 落ちてく仲間を守るため、俺と俺のLBが踏み込む。

 かかるGに体がシートに沈み、黒いイナゴの姿がデカくなる。

「くたばれぇえッ!」

 ブレードの出力を全開に、突っ込む勢いに任せて切りかかる。

 躊躇なし、ただしついでに工夫もなにもなしの一直線。

 そんなのでまともに通用するわけもなく、空を切る。

 だが、それでいい。

 イナゴの赤い目がシードルでなく俺に向いた。それで十分!

 大上段からのブレードの反撃が迫るが、コックピットの俺を避けたものなど恐ろしくもなんともない。

 ひょいと逃げて着地した俺を追いかけて、イナゴが切りかかってはくる。だがわざと剣の向かう先にコックピットを持っていけばそれも鈍る。

 そうなればブレードで受けるだけ。簡単なことだ。

 縦横斜め、どこから何度来ようが同じこと。

「そんなおっかなびっくりに振り回した剣なんかでなぁあッ!?」

 俺は踏ん切りのつかないまんまのブレードを受け流して懐へ。その勢いを緩めずに肩からぶちかます。

 この体当たりでイナゴが建物に突っ込む。

 このチャンスにナイナとフェイの機体が飛びかかる。

 対して瓦礫の中からは三本の光の剣が突き出してくる。

 ダメ押しにと思ってところでの思わぬ反撃だ。が、そこは俺の頼りになる身内たち。すんでのところで機体を横へそらして、装甲が削れる程度に収める。

 そして切っ先がナイナたちを追いかけ始めたところで、時間差で俺も踏み込む。

 狭い視界の中、真正面に確かに収めた股間のコックピットと、そこへ迫る切っ先。

 鋭く伸びる光の刃はしかし、くるりと翻ってきたブレードにぶつかり止まる。

 俺の物よりもより細く鋭い刃はもちろん黒イナゴの使うもの。

「クッソがぁあ!」

 あの野郎! 片手の鈍器を手放して四本目を抜きやがった!

 黒イナゴは俺の突きを止めた上で、頭のエネルギーバルカンを発射。

 弾丸の雨あられにさらされて、俺の機体のそこかしこが弾けて風穴があいていく。

「なめるなあッ!!」

 だがそんなもんで止まる俺じゃあない。

 ブレードの出力は維持したまま、展開範囲を限定!

 引っ込むナイフの要領で間に入った刃を短くしつつまた懐へ。

 しかしブレードを持つ腕は至近距離のバルカンに耐えきれずに方から弾けてもげる。

「その股座をぉおおッ!!」

 だが俺は機体ごとぶち当たる勢いを緩めるどころかさらに押し込み、金的へ膝!

 その衝撃で黒イナゴの機体が浮き上がり、装甲ハッチが開く。

「逃すかッ!!」

 千載一遇のこのチャンス!

 俺は半分しか残っていない機体の上半身を黒イナゴに絡めて、こちらからもハッチを開く。

 そしてイナゴのコックピットに飛び移るや、開いていたシャッターの内側へ飛び込む。

 シートに座っている白と緑のスーツを着たチビは、飛び込んできた俺の姿を見るや否や、体のあちらこちらに手をやり始める。

 まるきり素人のその動きには、ナイナとフェイをあしらって見せたあの鮮やかさはまるでない。

 その一方でデカい虫みたいなロボが飛びついてくるが、それは殴り飛ばして外へ放る。

 それを見た敵パイロットの動きは思いがけないものだった。

 あのど素人、俺の放り出した虫ロボを追っかけて外へ飛び出していきやがった。

 あんまりにもあんまりなその動きに、俺は一瞬あっけにとられちまった。

 だが過程はどうあれ、がら空きのコックピットが手に入ったことに変わりはない。

 というわけで、俺は標的である目の前のシートに腰を掛けた。

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