13:方針
『また失敗しただと!? ミハイル大尉、損失を出すために貴様らを食わせているわけでは無いのだぞ!』
「申し訳ございませんモウ大佐」
好き放題言ってくれるぜまったく。
通信越しだろうとなかろうと、ここは頭を下げるしかない。だがそれでもせめて、同じ空気を吸わないでいい分は通信で助かったってモンだな。
『いくら高性能とはいえ、相手はたった一機のLBだぞ!? その捕獲すらできないとは情けない! 貴様らの育成と運用に、国がどれだけの費用をかけていると思っているのか!』
モニターの向こう、秘匿回線のテレビ電話で好き放題に抜かしてるのは、モウ・マンタイ大佐。俺たちの部隊に命令をよこす直接の上司だ。
陽動で護衛機と引きはがして黒イナゴを捕獲する作戦の失敗。からの撤退、合流。
そうして無事に逃げおおせた俺ことミハイル・リウは、仲間に備品の修理を任せて、気の滅入る報告作業中ってわけだ。これも隊長って身分のつらいところやね。
「しかし報告したはずですが、大佐が奪取せよと仰せの機体は、ただの新鋭機ではありません。端的に申し上げて化物、怪物の類いです」
『言い訳はいい! 性能面で差が開いているなど今さらだろうが! LBはLB、一機は一機! そうだろうが!』
「では機体そのものに拘らず、設計データを盗み出すだけでよいのでは……?」
『黙れ! 怪物と評したのは貴様だろうが! 報告にあった現象を実現するだけのエネルギー。これがどれだけ祖国に恵みをもたらすか、分からんわけではあるまいにが!』
これだよ。
機体を奪うよりも成功の目がありそうだ、って俺の出した意見は蹴っ飛ばしといて、俺らの報告を根拠に盗み出せという。
まったく、ふざけてやがる。
「潜入して奪い取ろうとしたものたちの報告では、まるで外部操作を受け付けなかったということですが……」
『だからどうしたというのだ!? 強引に牽引するなりなんなりしてしまえば無問題だろうに?』
それができるなら苦労してねえんだっつうのにがぁあッ!!
「……それも、二機がかりで綱引きして一方的に負けてるんですよ……」
ああ良かった。どうにか怒鳴り返すのは自制できたよ。
でもマジでもう少し真面目に俺らの話聞いてくれねえかな? さっきのでついホルスターの銃に手がいっちまってるからよ。
「どうしてもあの黒イナゴそのものを奪ってこいとおっしゃるのなら、もう我々の部隊だけではどうにもなりません」
これまでの戦闘でLBは三機が損傷。パイロットも一人喪った。
どうにかごまかしごまかしで二機は稼働状態を維持できてる。だが今回つぶれた一機はパーツ取りに使うか、無理矢理にハリボテ頭をのっけたカカシとして立たせるのがせいぜいだ。
外部操作を受け付けず、二対一でも牽引できなかった意味不明な怪物。そいつを巣穴から引っ張り出してさらうのは、これじゃ逆立ちしたって無理ってもんだ。
『大尉。人手不足だからできませんというのは、怠け者の言い訳だと思うがね』
「残念ながら、これが現実であります。我らの無駄死にがお望みならば、ご命令ください」
もし本気で「やれ」とほざきやがったら白旗上げて向こうの基地に突っ込んで、後ろ暗い話を知ってる限り洗いざらいぶちまけてやる。
その先でどう転ぼうが、犬死して来いとほざく上司に使われるよりはずっとマシだろうさ。
『……まあ、いいだろう。そちらには近くに潜ませたのを補給と増援としてよこそう』
そんな俺の考えを知ってか知らずか、大佐の決断は増員してでの作戦続行だった。
「よろしいので?」
『くどいぞ。数が足りないと渋るから応じたまでだ。無問題だ。無問題』
「ありがとうございます」
チッ! これじゃ手と一緒に目も増えるから、やるしかなくなったって事じゃないか。
まあ今はまだ、逃げ時だとケツに火のついた風に勘は騒いじゃなかったし、その時じゃなかったってこったな。
「では我々も作戦の準備がありますので」
『吉報を期待しているぞ、大尉』
内心舌打ちしている俺に気づかず、大佐は向こうから回線を切る。
「あーヤダヤダ! 数揃えなきゃ絶対無理だけど、味方増えたところで捕まえられるとも思えねえもんッ!」
それで上司の目がなくなったところで、俺は頭を掻きむしりながら、腹に抱えてたモノをゲロみたいにぶちまける!
あの黒イナゴを相手に考えると、どうにも成功の確信が湧かない。こういうときの作戦はだいたい上手くいかない。
それは味方が増えると聞いた今でも同じだ。
行けるんじゃねえか。って思いはするが、どうしてもこれなら行ける、やれるって感じに決まらない。
こんな状態でも、仲間を戦いに行かせなきゃならんのはマジでキツい。
「いつまでもグジグジやってても仕方ないかあ」
言葉に出して頭を切り替えた俺は、仲間たちのいる格納庫へ向かって歩きだす。
「よぉっす。順調かぁ?」
「お疲れ様、兄上」
「おつかれちゃんよっと」
「大尉、増援の話は? どうなりましたか?」
ドアを開けた俺が声をかければ、ナイナをはじめとしたパイロット組が、整備中のインレアンから離れてふわりと降りてくる。
「ほいよっと。増援と補給は、この近くにいるのを集めるって形でどうにか約束をつけてきたぜ」
言いながら俺はこれ見よがしにかったるい話だったと腕を肩からぐりぐりと回す。
「そうでしたか。よかった」
でもそんな軽くおふざけを挟んでみたのに、シードル君はこれを華麗にスルー。ミハイルさみしい。
また無茶な捕獲作戦をやらないといかんって思うと、おふざけ挟まないとやってらんないような気分だ。だが、現実逃避も程々にしておかんとな。
現実を受け流すのも潰れないためには大事だが、目をそらしてちゃ死ぬしかないからな。
「……だが、補給で機体を丸ごと持ってきてもらわなきゃ、俺たちは二機しか出せんか」
今現在ハンガーで修理と整備を受けているのはナイナ機とフェイ機の二つだけ。
その奥にある三機目、シードル機は目も当てられないような惨状だった。
いまはもう使えるパーツやらエネルギー源のスライムを確保するためにバラされてはいるが、そこじゃない。
解体のためにすら見向きもされてない頭回り。派手にぶち割られた頭部パーツだ。
「前に粗悪品のヘルメットがバット一発でカチ割られてる映像なんてのを見たことあるが、それよかひでえな」
脳天のバカでかい穴から豪快に両断された外装。
当然前面を大きく占めたフェイスバイザーも派手に割れてて、その奥にあったアイカメラとかも割れたり部品が脱落したりとかでそれはもう惨いことになってる。
これが機械だったからまだいいけども、人の頭が同じことになってたとしたらとんでもないグロ映像だぜ。
いやもうこっわいわぁ。何に乗るにしてもメットや安全装置はちゃんとしたトコのをちゃんと整備して使うようにすとこ。
「で、アンだけ派手にLBの頭ぶち割って、中に残ってたのがアレ?」
「はい。素材も作りも大したことのない、ただの金属の塊です」
俺が指さした先にはシードル機の頭を無残にもぶち砕いて見せた凶器……の先端部分が放り出されてある。
ゴツゴツした歪に丸っこいそれは、シードル機の胸部辺りに埋まってたのを取り出したものだ。
記録映像と合わせてみるに、元は鋭いトゲを生やした鈍器だったんだろう。今はトゲのほとんどがへし折れてて見る影もないが。
「これ、マジで大したことないの? 浸透チタンの装甲をぶち割っといて?」
「はい。解析したところ素材は民間で流通している一般的な金属です。そこから都市外壁に用いる芯材の廃材や端材を高温で溶かし合わせて、鈍器として仕立てた程度のものと思われます」
「えぇえ……マジでぇ……現地調達のジャンク品? 見せかけた新兵器とかそういうのでなくて?」
「でなくて、ですね。まあある意味では新兵器とも言えなくもないですが……」
威力からしたら立派な対LB用の実体武装だってのに、それがまさかの素人さんお手製のオモチャみたいなモンだとはね。
て、ことはつまりだ。シードルのインレアンの頭をぶち割って見せたのは、単純に黒イナゴの腕力一つってことか?
言ってみりゃ、木槌で中身の詰まった鉄兜をスイカ割りにしたようなモンだぞ!?
「折れてるのも、イナゴのパワーに耐えられなかったからか」
「はい。その前にシールドを破壊する打撃がありましたが、都合二回でこのように。素材と結果の割にはよく持ったと言えるのではないかと」
「いや、この鈍器の耐久力はまあいいんだよ。それよか問題はあの黒イナゴのパワーだ」
輸送車を持ち上げたことから分かっちゃいたが、オモチャでLBを潰せるとは。こりゃ素手にして頭の銃を使わせなくしたって、こっちのLBを引き裂いてきかねないぞ。
ヤツの性能を知れば知るほど、戦いをやる気が無くなってくるな。
バリアはガッチガチで、腕は四つと手数は文字通りの二倍。オマケにバワーも俺らの機体と綱引きに勝った上で振り回してくるレベルだ。
ならばとコックピットを乗っ取ろうにも、外部操作は受け付けやしない。
化物過ぎるだろうがよ!
なんだこの、何!? 体一つだけで熊を生け捕りにしろって言われてるようなモンだろ!?
こりゃ悠長に報告なんざしてないで、さっさと逃げるべきだったな。
逃げ時を間違えるとは、俺も勘が鈍ったかもしれん。
だがいくら後悔したところでもう遅い。先には出てこないし知りようも無いから後悔って言うわけだしな。
待ち受ける状況に対して、どう動くかを考える方が建設的ってモンだ。
「しかし、具体的なとこはどれくらい集まるのか分からんことにはやりようもないか」
「確かに、今の段階ではこっちがどんな手札を切れるかの判断もつきませんね」
「言ってみりゃ、カードを配られてる真っ最中だもんな」
ナイナとフェイの言う通りだ。手札の内容も見ずにできるのは、「このままでいい」と、ハッタリをかます事くらいだ。で、俺たちの場合は、それをやったら間違いなく死ぬってのも分かりきってる。
「とりあえず、今すぐに決められるのは一つだけだな。黒イナゴのコックピットは諦める。それだけだ」
機体を無事に持っていくのはもう無理だ。コックピットとその中身を潰して、動かなくなったのを運んで行くしかない。
パイロットは殺す。
どれだけの戦力が集まろうが、この前提でこれからは動く。
俺のこの考えに、仲間たちは揃って頷いて賛成してくれた。




