12:迎撃
「大丈夫ですかッ!?」
アルシエルと一緒に重心を落とした上でバリアを発動。
そうして爆発と衝撃をしのいだ僕は、アルシエルはもちろん、外の人たちに向けての安否確認を。
『ZA……ZAZA……こちら、ガラティア・オーランド。こっちは平気! 全員無事よ!』
「そうですか。良かった」
通信機を通したノイズ交じりのラティさんの返事に、僕は胸をなでおろす。
『ZA……当ててない自信はあったが、ZA! ケガしてないみたいで安心したぜ』
「はい。痛い目は見てますけど、そっちは別件ですから」
軽い調子のピッコロさんの言葉に、僕は苦笑しながら返事をする。……言葉にするとまた股間の痛みがぶり返してくる気がする。
『ZA、ZAZA、痛い目って、大丈夫なの?ZAZA……』
「あ……その、LBで言うところのコックピットをぶつけた、といった感じで」
『……Oh……聞いただけでZAZA……たいなZAZA……ってかノイズ多いZAZAZA!』
耳を引っ掻くようなノイズに僕は思わず顔をしかめる。
言われてみればさっきから確かに多い。多すぎる。
妨害電波のまっただ中であるならともかく、味方の大型輸送車の内部でこれは異常だ。
『ZAZA、ZA! ……りこめ! LBに乗るんだ! 早く!』
そう僕が考えたところで、隊長からのノイズ混じりの声が届く。
でも待った。ラティさん用のLBはこの車に載ってない!
「アル、ハッチそのまま! 腰を下ろして受け入れ体制!」
アルシエルに指示を出したその瞬間、大きな衝撃がまた輸送車を揺さぶる。
「ラティさん! ここです! ラティさんッ!」
爆音とノイズに掻き消されて届かないかもしれない。だけど僕はアルシエルと一緒に踏ん張りながら、逃げ道はここだと叫び続ける。
「ラティさん、こっちへ! アルシエルにですよッ!!」
するとパイロットスーツ姿の女性が一人、開けっ放しの装甲を踏み切ってコックピットに飛び込んでくる。
彼女はその勢いのまま、シートの僕へまっすぐに。そしてメットのフェイスカバー同士がガツリと衝突。だけどおかげで、その向こうにあった顔がはっきりとラティさんのだって分かった。
「むぐ!?」
それに遅れて体がぶつかってきて、僕とラティさんは正面から抱き合う形になる。
キスしちゃいそうな位置と距離。だけれどさっきの勢いだと、実際にはおでこのぶつけ合いか、歯で唇が切れるのどっちかだったろう。
「ご、ごめんなさい!」
「い、いえ! 大丈夫です! アル、ハッチ閉じて!」
余計なことを考えてるのがバレるかも。
そんなギクリとした感覚に突き動かされて、僕は首を傾げてラティさんの正面から顔を逃がす。
そうして僕はラティさんを抱き止めたまま、アルシエルにハッチを閉じて貰って、その目が見ている景色を正面モニターに回してもらう。
「ごめんね。逃げ込む勢いでつい……」
「いいんですよ。それより、バックシートに回ってもらえますか?」
そう言うと、了解の返事に続いてラティさんの体が離れる。
非常時でのことでスーツを挟んでだけど、何度か受け止めてきた彼女の体が離れるのはちょっと名残惜しい。できれば今度は、お互いにインナースーツだけの時にゆっくりとがいいな。
視界を流れるまろやかな曲線を描いたスーツのお尻なんてのがあると、ついそんなことを思ってしまう。まあ、他人からは幼く見られがちだけど、僕だって年ごろのヒトのオスだし。仕方ない、仕方ない。
そんな言い訳をスイッチに、頭を切り替える。
揺れ続けるハンガースペース。
また一つ大きな衝撃があって、屋根部分に近い壁が外から破られる。
開いた穴からは、空気と一緒に色々なものが吐き出されていく。
「この攻撃、敵に追いつかれたってことでしょうか?」
「そうね。またあの所属不明機だとしたら、しつこい連中だわ」
『シツコイ、シツコイ!』
そこでふと爆発によるものとは違う、かすかな振動がアルシエルに。
そちらをみれば、隊長さんの分厚いストームクラウドと目があった。
『接触、聞こえてるな?』
「はい、隊長!」
『これから俺とピッコロ少尉で敵の追撃隊を叩く。オーランド少尉はイチカ君と共にアルシエルを基地へ移動させろ』
「了解しました!」
接触通信によるノイズの入らない明瞭な指示。それにラティさんが画面向こうのハンス隊長に敬礼を返す。
『イチカ君、危険にさらしてしまってすまない。だがやってもらえるか?』
「任せてください! こういう時のために着いてきたんですから。無事にアルシエルを連れていきますよ」
『ありがとう。君の協力に感謝する。民間人を戦闘に立たせ続けているのは情けない限りだが、オーランド少尉の指示に従って、くれぐれも無茶はしないように』
「はい。アルシエルと一緒に無事に基地に着くこと。それが第一ですね」
『すまない。では我々が飛び出した後に、キャリアーの向いている方角へ向かってくれ』
僕の返事に、隊長さんは角張って厳めしい顔を少しだけ和らげて、通信を切る。
それからいまだに煽るような爆発が続く中、出入口を前に、隊長機、ピッコロ機、アルシエルの順に僕らは縦一列に並ぶ。
そして隊長機が振り返って複眼じみた目をチカチカ。
この合図に続いて、隊長のストームクラウドが大振りの盾を前に扉へ突進。固く閉ざされたそれを破って外へ飛び出す。
追加装甲とその重みに負けないパワーによる突進。それに続いてピッコロ機がライフルを軽くフリフリ、軽快なステップを踏んで外へ。
月面へ出るや否やスラスターを全開に走る隊長さんたち。
「僕たちも行くよ、アルシエル!」
その光を見つめながら、僕たちも駆け出す。
ハンガースペースの出入口を跳ぶような一歩で飛び出すアルシエル。
だけれどボディそのものは空中で捻って反転。後ろから地面を踏む。
白い地面を踏んで深くたわむバッタ足。
「いっけえッ!!」
僕の叫びをトリガーに、膝関節にチャージした力が開放。アルシエルの黒い巨体が、輸送車を脚力だけで軽々と飛び越える。
そうして高々と飛び上がった勢いのままにスラスターを全開。
これは遠目にみれば、ほぼ完璧にバッタの飛翔そのものだっただろう。
「このまま道なりに、まっすぐに進めば私たちの基地に着くわ。隊長たちを助けると思って急ぎましょう!」
「はい!」
ラティさんが基地に戻れば、救援を出してもらうこともできる。
ラティさんが言う通り、二人を助けるためにも急がなくちゃ!
そうして下に敷かれた道路を道しるべに急いでいると、やがて正面に基地らしい建物の群れが見える。
『警告! 警告!』
けれど目的地が見えたことに胸を撫で下ろす間もなく、アルシエルとルカからの警鐘が僕の耳を叩く。
すでに見つけているアルシエルに任せて、警戒すべきものを回避。
「ミサイル!?」
ガスの残滓を尾にしてモニターをよぎったそれは、LB用のミサイルだ。
こういう実体弾に対して、シールドバリアは効果が薄い。
もちろんバリアを抜けたところで、EL浸透装甲まで貫き破れる可能性は薄い。
けれど直撃の衝撃に揺さぶられては、どうしても動きは鈍ってしまう。
それが対LBに実体弾に求められる効果だ。後に続く致命打を確実にするための布石としての。
だからミサイルで装甲が焦げて欠けるだけだったとしても、できる限り避けるべきなんだ。
避けた一発の後に続くモノたちへ、エネルギーガンをバルカンモードで迎撃。
エネルギー弾を受けて火花と散るミサイル。
だけど広がる光を貫いて、バルカンを逃れたものが迫る。
「ブレードを!」
重なる僕とラティさんの声。するとアルシエルは右腕を一閃。ホルダーに収まったままに放ったエネルギーブレードが正面に迫ったミサイルを薙ぎ払う。
居合い抜きじみた一刀での一掃。
『左、左!』
だけれどまだミサイルの警報は鳴り止まない。
でもアルシエルは右の抜き打ちと合わせて、すでに左手にブレードグリップを握っている。
左手側から近付くミサイルに、アルシエルはブレードを握る手首を高速回転させる。
そうして生み出されるのは光の刃を持つ回転ノコだ!
向こう側の透けて見える円形の光の幕のようなそれは、しかし触れたモノを端から微塵に切り裂いていく強力な刃物だ。
その証拠に、突っ込んできたミサイルは瞬く間に細切れとなって、爆発さえも回る刃に巻かれて散る。
「すごい……まさかこんな使い方が……」
「ウォーカービークルの手首使い、そのちょっとした応用ですよ」
回転ブレードによる即席シールド効果に、ラティさんは驚いた様子を見せる。
けど僕としてはこれで驚かれる方が意外だった。
家業の手伝いでLBの手首構造ならできると分かっていたので、てっきり基本的な技術として教本にもあるものと思ってた。
けれど、職業柄案外見つけられないものなのかもしれない。
究極的に武器というものは標的を破壊、殺傷できればいい道具だ。
銃ならちゃんと狙ったところを貫けること。刃物ならよく切れて、その切れ味が簡単には落ちないこと。それこそが肝心要で、その点が十分なら後はコストくらいしか問題にされない道具だ。
そして後は効率的な扱いを追求するだけ。
武器、兵器としては奇をてらった扱いは邪道。遊びにも通じるとして好まれるものではないのかもしれない。
だからブレードは振り、突くのみ。実体兵器を薙ぎ払いはしても、回してシールドとして扱うなんて発想自体が生まれないんだろうか。
ともあれ、ブレードホイールで迫るミサイルを残らず切り払ったアルシエルは、辺りを取り囲む輝きから抜け出すようにさらに高くへ飛ぶ。
すると上昇する僕らを追いかけて上がってくるものの姿がモニターに映る。
「強盗風味!? しかも二機もッ!?」
追いかけてきたそれは、撃ち尽くして空になったミサイルポッドをパージしたフルフェイスメット頭のLB達だ。
「ハンスさんたちの足止めを抜けて来たって言うのかッ!?」
「いえ! あっちは多分陽動だったの! こいつらはきっと私たちの動きに対応できるように潜んでたのよ!」
「だからのジャミング! レーダーのレンジと基地に助けを求めさせないためのッ!」
してやられた!
まんまと敵の計画の中に取り込まれたことに僕はラティさんと一緒に苦い悔しさを言葉に吐き出す。
合わせてアルシエルには左手首の回転を止めさせ、右手にアルシエル手製のトゲメイスを握らせる。
ライフルもシールドも持ち出せなかったアルシエルには、内蔵した武器と、このモーニングスターだけしかない。
見るからに手製のこれを侮ってか、強盗風味の片方がライフルのエネルギー弾を放ちながら加速してくる。
「もう一方にも注意して」
「はい! こっちがフェイントのつもりかも、ってことですね!」
アルシエルは上がってきたのを、エネルギーガンのバルカンモードで牽制しながら迫る弾丸を回避する。
そちらはアルシエル自身が相手をしてくれているのでまるっと任せて、僕自身はもう一方の、踏み込んできていない側の強盗風味を目で追う。
それはまだ上昇せずに、足元からアルシエルの左手側を塞ぐようにチャージライフルを発射する。
迫る光の塊に対して、僕はアルシエルに警告を出す。
上昇してくた方は、僕らのバルカンを避けて右手側へ跳ね出てる。
左右を挟み込む形に対して、アルシエルが選んだのはあえての右!
メイスを突き出しての体当たりに、敵はライフルを発射。
だけどそれは、アルシエルのモニターの一部を眩しく塗りつぶしただけ。
対してメイスヘッドは、敵LBがとっさに構えたシールドを打つ。
アルシエル本体の重みの乗った突きで、メイスはトゲを折り飛ばしながらもシールドの甲板を砕く。
このまま押し込みたいところ。だけどもう一機を無視してたら足元をすくわれちゃう。
「アル! 敵を蹴って跳んで!」
僕の操作に答えて、アルシエルは突き入れたメイスをそのまま腰を振り上げ、深く折りたたんでいたバッタ脚を突き出す。
後ろに一つ、前に二つ。三又に分かれた足が強盗風味を蹴る。
この蹴りとそれに合わせてアルシエルはスラスター全開。この勢いで突き入れたメイスを引き抜きつつ、ほぼ垂直に上昇する。
それに遅れて、急上昇してきたもう一機の斬撃が、アルシエルのいた空間を切り裂いた。
強盗風味二機を真下に見下ろして、アルシエルは左ブレードと頭とでエネルギーガンを連射。
だけど強盗風味は奇襲に切りかかってきた方がシールドバリアでもってメイスを受けた方を庇うと、再び二手に分散、上昇してくる。
「どっちから!?」
今度はあからさまに片方が前に出て陽動役をやるでなく、双方ともに距離を詰めながらライフルを放ってくる。
「まともに相手をする必要はないわ! 私たちの目的は!」
「救援要請! でしたッ!」
そうだ、ラティさんが言う通り、まともに戦い続ける必要はない。僕らは基地にまで無事たどり着ければそれで勝ち。誠心誠意に付き合う必要はどこにもない!
アルシエルにはスラスターを小刻みに噴かして、空中で跳ねるようにして迫るライフル弾を回避してもらう。
そして見えている基地へ向けて、大きくスラスターを使って加速する。
「アルシエルのスペックなら振り切れるわ!」
「はい!」
追いかけてくるライフルを置き去りにして飛ぶアルシエル。
そのコックピットで、僕は正面モニターに背面を映す小窓を呼び出す。
逃げる僕らの背中めがけて、背面下方からエネルギー弾が迫る。
それを僕は小さなウィンドウの中で確認。やってくるはしから、アルシエルと一緒に体を左右に揺らして避ける。
避けるまでも無いものは背面のバリアに当たるに任せる。
「ラティさん、通信は!?」
「まだノイズばっかりで繋がらないわ! 圏内にはとっくに入ってるのに!」
ということは、奴ら自身がジャミングの出どころで。
だったら基地の方で気づいてもらうのが早いか、僕らがこのまま引き連れて突っ込むのが早いかの違いしか無いんだろうか?
そう思った瞬間、僕らをガクンッと縦方向の衝撃が襲う!
「んなッ!?」
『ウギャァアッ!?』
「クゥッ! 何がッ!?」
いきなりシートが引っ張られたように沈んで、僕らの体が浮かぶ。ギリギリと体に食い込んだベルトが、強引に離れた体をシートに戻してくれる。
僕がそんな衝撃に目を白黒させていると、アルシエルは発生した異常の原因をモニターに映してくれる。
「アンカー!?」
大写しになったアルシエルの右足首。そこには爪を立ててしがみつくワイヤーアンカーの先端がある。
それをたどれば案の定。敵である強盗風味のLBの一機に繋がってる。
「そんな、いつの間に!?」
いつアンカーランチャーの有効距離までに詰められたのか。それは分からないけれど、そんな事より振りほどかなくちゃ!
ワイヤーを切るため、僕らは左腕のブレードを向ける。
けれど刃を伸ばそうというところで、視界をカメラ直前で弾けた光に埋め尽くされる。
そんな目くらましに僕らが揃って怯んでしまったために、視界が戻った時には左腕にまでアンカーが絡みついていた。
僕が致命的な失敗を悟って声を上げる間もなく、体を時計回りのGが襲う。
『ウッギャァアアアアアアッ!? マワル、マワル! 酔ウ、吐クッ!?』
そんなわけがあるか! とも言い切れないんだよね、ルカの場合!
ルカへの突っ込みが正確かどうかはともかく、LB二機がかりで駒回しにされてるこの状況、これを何とかしなくちゃあッ!
「アルシエル、フルパワーだぁああッ!!」
僕は気合の叫びを上げて、フットペダルを踏み込んで掴んだレバーを体ごと左へ倒す。
アルシエル全力全開のスラスターでの反転は、二機がかりでの時計回りに拮抗。制止する。
するとさっきとは逆にワイヤーの先につながった強盗風味のほうが制御を失って回っている。
彼らが自分自身のスラスターで暴走している間に、アルシエルは左手首を回転。ナイフモードのブレードで強盗風味とのつながりを断ち切る。
続いて右足からつながったのも切断。自由を取り戻す。
暴走する勢いのまま離れていく、強盗風味のライムブラッド二機。
その片割れ。白い月の地面に跳ねた方へ僕とアルシエルは照準をセット。スラスターを噴かす。
「これでぇッ!」
僕らは標的を真正面にまっ逆さま。
その勢いのまま、大きく振りかぶったメイスを脳天に一発。フルフェイスメット風の頭を打ち砕く!
安全基準を満たしていない安物めいた脆さで割れて、首辺りにまで達する。
けれど同時に、叩きこんだメイスもまた半ばから折れてしまう。
「撤退してくださいよおッ!!」
でも僕らはかまわず、折れて頭のなくなったメイスを横殴りにダメ押し。空中に向けて打ち上げる。
その飛ばした先では、もう一機のLBが空中で態勢を整えていた。
割れた頭からエレックライムをまき散らした仲間が飛んできたのをかろうじて受け止めたそこへ、僕らはバッタ脚のバネとスラスターを合わせての急上昇。
「ここで退く気にならないならぁああッ!!」
左手と、胸部二節の隠し腕のエネルギーブレード三本を同時起動させて切りかかる。
通信が開いてないのだから声が通じるはずはない。
けれど強盗風味は僕の叫びを聞いたかのように、仲間を抱えて刃の届かないところに逃げる。
ここでもう威圧半分に攻撃を仕掛ける必要は消えた。
アルシエルの剣から逃げた敵は、傷ついた仲間を抱えて完全に撤退に入ったからだ。
「なんとか、なったあ……」
離れていく機体に油断なく剣を向けるアルシエルの中で、僕は何とか敵を追い払うことができたことにホッと息をつくのだった。




