11:痛打
輸送車を襲った衝撃。
一瞬一撃限りの、明らかに爆発によるそれ。
その余波に煽られての車体の揺らぎが収まったところで、僕らはアルシエルたちのいる格納庫に向かって走り出していた。
この状態で僕らが攻撃を受ける理由は一つ。アルシエルだけだ!
アウタースーツに袖を通して、ファスナーを上げる。
慌てたせいで指を挟んだけれど、痛がってる場合じゃない。メットも被ってどこにでも出られるように整える。
「アルシエル!」
格納庫に駆け込んだ僕は、真っ先に自我を持つLBに呼びかける。
するとその応答として、奥からアルシエルの放つ低い振動が伝わってくる。
反応があったことでとりあえずは無事だと安心した。けど同時に、その振動の内容はとても安心できるものじゃなかった。
「助けてって? 何!? 何がどうしたのッ!?」
「イ、イチカくん? 助けてって何を言ってるの?」
「え? あ、なんとなくだけれど分かるんですよ。とにかくアルシエルが助けを求めてるんです!」
振動波の調子で、僕はアルシエルが言わんとしてるところが大体分かるのだけれど、これは完全に感覚の話だ。なのでこれ以上の説明はできない。それよりも早く行かなくちゃ!
「アル!? アルシエル、どうしたの!? 大丈夫ッ!?」
困り果てた調子の振動波へ向けて僕は走る。
片膝立ちにハンガーに納まった隊長さんとピッコロさんのストームクラウド。その前を走り抜けて僕はアルシエルの前に。
でも別に折れた柱に潰されたり、挟まれたりしてるわけではない。
どこに助けを求めるようなところがあるんだろうか。僕は首をひねりながら、アルシエルの顔から第一、第二胸部と順を追って下に目線を移していく。
そして股間部。後脚とつながった虫でいう胸部第三節にあたる部位に当たったところで、ようやく違和感に見当たる。
それはアルシエルのコックピット前。
ハッチと装甲でもってガッチリと閉ざされたそこ張り付いて、周辺をいじくりまわしている人影がある。
あり得ない。
この輸送車に乗り込んでるスタッフは、アルシエルが今のところ僕しか受けつけないこと、無理にコックピットに乗り込もうと触れば暴れかねないことを説明している。
あの人影たちがいじり回しているのはまさにそのあたり。今や機能していない、付いているだけの外部コンソールだ。
たとえ僕らの説明を疑わしいと思ってたとしても、わざわざさわるような者はいないはず。無駄な危険を冒す理由の持ち主でなければあり得ない。
「アナタたち! それはお互いのためにならないと言ったはずでしょう!」
アルシエルの股間をいじる人たちに、警告の意味も込めて叫ぶ。
だけどそれが良くなかった。
彼らは僕の言葉を受けて、いきなりに銃を撃ってきた。
「危ないッ!」
だけどそうなると分かっていたかのように、彼らの持つ銃が光ると同時に、僕は後ろから押し倒されていた。
「無用心が過ぎるわよ!」
「す、すみません」
頭突きをするような勢いでメットが叩きつけられて、お叱りの言葉がそのすぐ後に。
我ながらあんまりにもお粗末で、警戒心に欠けた行動だった。あのままだったら確実に死んでいた。本当に、本当に危ないところだった。
僕がそうしてラティさんの下で反省している一方、当の怪しい人影たちは僕らへのとどめもコンソール操作も投げ出してアルシエルの陰に回る。それでも、その腕か肩の辺りが弾けて飛沫が上がる。どちらかにこだわっていたら、間違いなく隊長さんとピッコロさんの銃が当たっていたのは心臓か頭だっただろう。
血を流しながら怪しい人影たちが身を隠している間に、僕もラティさんに助けられて立ち上がって物陰に走る。
そうして急いで影に飛び込んだ僕の後ろで、甲高い音と光が弾ける。
向こうも影に隠れたといったって、こちらが一方的に撃ち、追い立てられるわけじゃない。
当たれば大ケガか、死にかねないようなものが飛び交うのに、何かを盾に身を隠さなくちゃ危なくていられない。
僕と同じ物影に隠れたラティさんは、拳銃でアルシエルの近くに潜った敵らしい人たちを牽制している。 だけれど、ただいつまでも弾丸の応酬が続くわけじゃない。物影だからと安心していると、埒を開けようと何かが投じられるのは映画とかでもつきものだ。
「アルシエル! 固定具を振り払っていいから立ち上がって!」
爆弾やらをココに投げ込まれちゃたまらない。だから先手を打ってアルシエルに動いてもらう。
僕の声を受けたアルシエルは体を軽く広げてハンガーとの固定を力技に解除。折り畳んだ脚を伸ばして立ち上がる。
「んなあッ!?」
「バカなッ!? 中に誰かいたとでもいうのかッ!?」
その影にいた人たちは、急なアルシエルの動きにたまらずに声を上げて、その足元から転がり出てくる。
アルシエルはそれを見下ろして唸るような低い振動を放つ。
「バルカンはダメだッ! いけないよッ!!」
苛立ちの明らかな振動波を受けて、僕はアルシエルが引きかけていた引き金にストップをかける。
でもこれは別に人道主義どうのこうのとか、そういうことが理由じゃあない。
たとえ威力抑え目なバルカンモードだって、輸送車両の中でぶっ放すようなものじゃない。しかも生身の味方が大勢いるのにだ。これでは味方を巻き込むだけだ。
僕は善人でも何でもない、普通の人間だ。
むやみやたらに殺めたいわけじゃないけれど、自分たちを殺しにくる敵より、味方や知人の方が大事だ。撃ってくる相手を庇って、仲間を死なせるなんてまっぴらだ。
自分のために仲間を危険にさらすだなんてあり得ない。
僕の言葉で怒り一色から我に返ったアルシエルは、その場で軽く足踏みをする。
ドシン!
ドシン!
アルシエルの足が上下する度に、床が波打ったみたいに揺れる。
人間の足踏みを間近に見ているネズミがいるとしたら、こんな気分なんだろうか?
「わっ、きゃあ!?」
こんな地震に襲われてるような状況じゃ踏ん張りがきくはずもない。僕もラティさんも、転ばないでいるので精一杯だ。
でもそれはアルシエルの足元近くにいる人たちも同じことだ。むしろ踏み潰されないようにしなきゃいけない分、僕ら以上に余裕を無くしてるはず。
ならやることは一つだ!
「ラティさん、僕はアルシエルに乗り込みますから!」
「え? イチカくん!?」
アルシエルもラティさんたちも助けるためにどうするか。腹を決めた僕はルカを抱えて、足を上げたアルシエルめがけて走り出す。
次の一歩が落ちるまでの僅かな間。少しでも揺れのマシな隙間時間に少しでも距離をつめる。
大きなバッタ足が下りたのに合わせてジャンプ。同時に吸着アンカーガンを、アルシエルの胸に向けて発射する。
そうして始まった巻き取りに、僕の体は放物線を描くことなく、リードワイヤーを辿ってさらに高くへ。
アルシエルの膝は背中側なので、膝蹴りに注意する必要はないから安心だ。
そのまま順調に上がった僕は、正面に迫ったアルシエルの機体を軽くキック。衝突しそうな勢いへのクッションにして胸下に取りつく。
「アル! ハッチ開けて!」
僕の声に応えてファウルガード装甲が展開して足場を作る。
アルシエルが足踏みする度に揺さぶられる中、僕は真下で受け皿をやって待ってくれている装甲裏へ狙いを定める。
「いぃよいっせぇえッ!」
タイミングを計り、声を上げて勢いづけて足をかけた装甲を蹴る。
弱くてもちゃんと存在する重力に引かれて落下する僕の体は、狙い違わずに開かれたコックピットの前に降り立つ。
でも着地成功もつかの間、僕と同じく吸着アンカーでもってアルシエルを昇っていた敵が僕のいる足場へ飛び込んでくる。
「ルカッ!」
『アイサー!』
それに対して僕は、身を捻ってルカを突き出す。するとルカの顔の両サイドから、針が発射。先端に向けて二又に、後端から本体にワイヤーで繋がったこの針は、正面の敵に突き刺さる。
針を受けてビクリと痙攣した敵は、飛び掛かってきた勢いそのままに僕の横を流れていく。
ルカに持たせたスタンアンカー。これはやっぱり対人自衛用には最適だね……って言ってる場合じゃない!
とっさにコックピット方向に転がった僕の後ろで、踏み潰すような蹴りが降る。
「のわあ!?」
かろうじて避けた攻撃にヒヤリとしたのもつかの間、アルシエルの機体がいきなりに傾く。
滑り落ちるようにコックピットに招かれる僕。どうにか座席に収まった僕だけれども、それを追いかける形で、敵の人も転げ落ちて来てる!
「うっわ、わあ!」
僕が足を反射的に突き上げると、それは敵の人のヘルメットをクリーンヒット。半ばコックピットに入りかけていた体を追い出す。
合わせてアルシエルの傾きが反転。追い出した敵が戻ってこないようにしてくれた。けどこれじゃ僕も転げ落ちるよ!
開いたハッチの向こうに床を見ながら、僕は自分まで追い出されないようにシートにしがみつく。
だけどそんな僕の右足に掴まるのがいる。
それは僕が蹴飛ばした敵の人だ。
足にかかった重荷に引かれて、僕も外に引きずり出されそうになる。
そうはさせないと、アルシエルがコンソールの位置を動かしてくれる。けれど、動いたものは僕の股間に当たってしまう。
「おっぐぅ!?」
痛み! 鋭いの! 脳天までッ!?
目、チカチカ! チカチカするッ!?
でもダメ! ここで耐えなきゃ! 耐えなくちゃあッ!!
その一心で僕は、視界のにじむ痛みに歯を食いしばって、落ちるまいとコックピットにしがみつき続ける。
自由な方の足を突っ張って、腕の力を振り絞ってできる限り体を浮かせる。
1G化のされていない弱重力下だから、僕でも自分の体重ともう一人分を持ち上げるくらいはできる。
けれど、それをやってしまっては密かにアルシエルに何かしようとしていた人に、みすみす目的を果たさせることになってしまう。
それじゃあダメだ。僕を支えにしているからまだ何もしてこないけれど、用済みとなればどうなることか。
だけど僕が次の手を考えているうちに、僕の右足をロープ代わりに敵がコックピット目指して伝い上ってくる。
振りほどこうと捕まえられた足を振り回すけれど、その程度では手放してくれるわけもない。
こんな密着した状態じゃ、ラティさんたちはたぶん僕に当たりそうだから撃てない!
それに、銃撃戦の音もまだ続いてるようだから、これ以上コックピットに寄せ付けないように頑張ってくれてる最中なんだ。
このままじゃまずい!
だけどこっちも手足の残り三つは取り込み中で、頭突きしようにもまだ届かない!
それでもどうにかしようと足を振り回すのを頑張る。けど、大人しくしろとばかりに腱を握りつぶしてくる。
新しい痛みに、僕の奥歯がきしむ。
けれどその瞬間、僕の足を捕まえていた人の体が跳ねるように震えて、握力が緩む。
腿を誰かが狙撃したらしくて、血が弾けている。
そこへさらにルカがダメ押しにスタンアンカーで刺す。
もう一度大きく痙攣した敵は、今後こそ床に落ちていく。
「戻って! アルシエルッ!」
これを逃がしたらいけない。そう叫んだ僕の声に応えて、アルシエルは前のめりの体をまっすぐにする。
その勢いで僕はまたシートにぶつかるけれど、さっきの股を打ったのに比べれば何のことはない。ホントに、どうってことはない。アレは目玉が出るかと思ったし。
「ありがとう。アルシエルも、ルカも。おかげで助かったよ」
『ナンノ、ナンノ』
シートに座り直しながらの礼に、ルカはいつもの調子で、アルシエルも柔らかく機体を震わせて返事をしてくれる。
これでどうにかアルシエルのコックピットに入られるのは防げた。
でもそんな安心感に気を抜いている暇は無かった。
食事時のとは比べ物にならない大きな衝撃が僕らを襲ったからだ。




