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?-?  後始末




 またここへ来てしまったと、うんざりする。そんな僕を彼が笑う。栞を名乗る彼はどこにだっている。ページとページの隙間、本の表紙、あとがきにさえ。

 何の嫌がらせか、彼の姿をして僕の前に現れた彼を、僕はにらみつける。それでも気が晴れるわけがなく、ただ負け犬の無様な姿をさらすしかない。僕の惨めな姿を隠すページはもうないのだから。

「『無様だな』」

 栞はクスクスとおかしそうにあざ笑う。わざわざ僕がかつて言った言葉と同じ言葉で。あれは彼に対してなのか、それともあの少女に対してなのか。どちらでもなく僕に対してだったのか。

 少なくとも今、その言葉は間違いなく僕に向けられている。

 彼はこんな笑い方をしないだろう。中身はやはり大切だ。

「何をしに来たんだ?」

 ほとんど八つ当たり気分で問いかける。ここで僕をからかいに来たと言われても納得してしまうだろう。しかし栞は想像していたより有意義な理由で来たようだ。

「そんなに怒ることないだろう。まあ気持ちは分からなくもないけどね」

 この存在に他人を思いやる感情があったのだろうか。

「まあ、君をからかうのは僕の数少ない趣味の一つなのだから、大目に見てやってよ」

 否、これに趣味という感覚は存在しない。すべての嗜好が彼のものであり、すべての事象が彼のものではない。個を持たないとはそういうことだ。

 だからこれも僕の中にあるイメージを元に作り出したポーズでしかない。僕が一番嫌いそうな形を表現しているだけだ。本当に彼に趣味というものがあれば、それは間違いなく悪趣味だ。それとも制作者の趣味なのだろうか。

 そういえば現れると思っていた彼は姿を見せない。

「彼は?」

 彼と呼ぶのが相応しいかすら分からない誰かを呼称する言葉があればいいのに。本当に存在だけでも面倒な相手だ。この文句すらすべて聞こえているはずなのに。

「会っても文句を言われるだけだから会わないってさ。元々あの人はこの世界に興味がなかったんだ。一度捨てたゴミが何処かで拾われてまた捨てられたって、誰も気にはしないよ」

 気が向けばあとがきくらいに顔を見せてくれるよ。

 そう言った栞はようやく本題を切り出す。

「用件を言ってなかったね。君が大嫌いな彼から伝言だよ。『これからどうするんだ?』って」

 伝言と言いながら明らかな問いかけだ。そしてその無意味さを栞も伝えた本人も分かっているだろうに。

「どうもしないよ。することが見つかるまで何もしない」

「またゴミ拾いしないの?」

「もういいよ。十分すぎるほどやった。自己満足はもういい」

 何も残らないと分かりながらやっていたことでも、辛くないと言えば嘘になる。あの世界で生きた人々、好きも嫌いもすべて関係なく、そこには存在した。もう何処にもいない。僕の記憶以外に。

 先日会った、後輩を思い出す。神のいない世界こそが正しいと言い、結果が何もなくても構わないと言った彼のことを。

 僕も彼のように先のことを考える強さがあれば良かったのに。僕は彼のように主人公どころか脇役になれる強さすらない。ただの背景にしかなれない。

「ま、いいけどね。やりたいことが見つかるまでここにいて構わないよ。他の物語を見て暇を潰すのもいいし、新たな道を模索するのもよし。埃を被るまでじっとしているのもよし。好きにするといいよ」

 でもね、

「君の物語は恐ろしくつまらないよ」

 かつて彼が、僕達が『著者』と呼ぶ男と同じ言葉を告げる。だから僕はあの時返せなかった言葉を返す。


「知ってる」


 掌に残されたのは先のない釣り針。誰にも掴まれないそれは、変わらず僕の手の中で沈黙する。
















 あとがき? そんなものあるわけないだろ?



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