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II−I  二人目


 ここで迎える初めての朝、僕は窓から遠慮なく降り注ぐ光によって目を覚ます。一度覚醒した意識を僕は再び夢へと押しやろうとするが、太陽の光に僕の瞼は穴だらけのカーテンほどの効果しかなかった。薄っぺらい布団も僕を光から守ってくれることはできず、僕の意識はすでに眠りを忘れたかのようにはっきりとしている。仕方がなく僕は眠るのをあきらめ、ベッドから出た。

 改めて見回した部屋は、昨日と変わらず埃のにおいに満ちていて、カーテンを付けていない窓は光こそ通すが、表面が曇り外が見づらい。しかし僕はこの部屋を掃除する気にはなれなかった。いつまでいるかわからないこの部屋に、清潔感は求めていない。そもそも掃除をしている暇があるかもわからない。

 僕は曇った窓を開き、外の空気を部屋に入れる。部屋のよどんだ空気は外へと追いやられ、清浄な空気が部屋中を駆け回る。

 空はまだ暗く、空が端から徐々に明るくなっているのがわかる。まだ夜が明けたばかりなのだ。早すぎる起床だったが、僕の心と身体はすがすがしいものだった。風は冷たく、まだ日の暖かさはない。肺に入ってくる風はこの部屋のように僕の肺を駆け回る。しかしその冷たさがどこか心地よい。僕はさらに空気を求め、窓から顔を出した。その時僕の視界に入るものがあった。釣り人だ。

 釣り人は昨日のように釣り竿を肩に乗せ、片手にはかごを持っている。釣り人は僕の視線には気づかず森へ入っていった。昨日僕達が出会った森だ。僕は特に何も考えないまま外へ飛び出した。




 村は静まりかえっている。まるで生きている者のいないゴーストタウンのようだ。しかし立ち並ぶ家々には確かに生活の色が見える。この村に何人の人が住んでいるのかは知らないが、釣り人の他に人がいるのは確かだろう。彼は「先約がある」と言っていた。他人がいなければその言葉は成り立たないだろう。

 僕は釣り人の跡を追って森へと向かう。森は白い霧のドレスを纏い、幻想的な姿をしている。僕が森の入り口に立った時、釣り人の姿はすでになかった。おそらく森の奥深くまで入っていったのだろう。一度は後を追って入ろうかと思った。しかしすぐに思い直した。一度しか歩いていないこの森を一人で歩くほど僕は無謀ではない。この森にどんな動物がいるかはわからない――釣り人が一人で入っている以上、危険はないのかもしれないが、ただでさえ霧に満ちたこの森で迷わずに帰ってくる自信はない。中で釣り人に会えるかもわからない。もし僕が危険な目にあったら、彼は助けてくれるだろうか。彼は僕の目的のために手を貸すことはないと言っていた。しかし本当に僕が危機にさらされれば助けに来てくれるだろう。彼は僕のことを投げ出すことができないからだ。しかしそれは間違いなく彼の機嫌を損ねることになるだろう。今僕が頼れるのは彼しかいない。そんな彼の機嫌を損ねることは決して得にはならないだろう。

 僕は結局森の入り口で彼が帰ってくるのを待つことにした。彼がいつ戻ってくるかはわからないが、他にすることもないのだ。これくらい何でもないだろう。そもそも僕はまだ右も左もわからない。彼の助け無しではこの村を歩くことすらできないのだ。



 僕はやることがないまま、石の上に座りぼんやりと景色をぼんやりと眺めていた。そこにそれまでなかった一つのものが視界に入った。僕の影に並ぶように現れた影。太陽がようやくその全貌を見せた頃、光を背負うようにそれは現れた。僕はその影を辿り、影の主を見た。そこに立っていたのは一人の少女だった。

「こんにちは」

「こんにちは」

 僕はこの日初めて朝の挨拶を交わした。そしてそれは「ここ」に来て初めての挨拶となる。



 僕が「ここ」で会った二人目の人間は少女だった。 

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