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V-I  図書館




 「記憶の集まる場所へ」釣り人の残したヒントが僕にとって唯一の手がかり。抽象的な言葉は煙に巻くよりも課題のように見える。それすらわからないのなら進むなと。

 僕が向かったのは図書館だった。ここに来るのは四度目になる。そのうち二度は釣り人と共に、残りの二度は僕一人で。

 見るからに重く分厚そうな壁に囲まれた建物。ここに住む人間は二人。一人はおしゃべりでだらしない司書。司書とは名ばかりで本を読んでいるだけだ。もう一人は変人としか呼べない研究者。実際に彼が何を研究しているのかまったくわからない。

 かつて僕は答えを求めて研究者の元を訪れた。しかしその時はまだ時期ではないと断られた。今もまだ早いのだろう。

 今回僕は二人のどちらかに会う為にここへ来たのではない。釣り人のヒントを手がかりに思いついたのがこの図書館だった。

 人々の記憶や知識が詰まった本。それを保管し管理する図書館。それは記憶の集まる場所と言えるのではないだろうか。確証はないが他に思いつかず、僕は再びここを訪れていた。

 以前来た時は紙の上の情報は僕にとって何の役にも立たないだろうと考えた。しかし僕には他に手がかりがない。

 思い扉を開く。外よりも暗い室内には必要以上の灯りは存在しない。それでも司書が起きていれば少しは灯りが灯される。でなければ光のないここは暗闇に飲まれる。客が来ることなどまったく想定していない。図書館としての機能はまったく機能していないのだ。

 もっともここの住人は本など読まない人が大半なのだろうが。

 灯りが点いているということは司書が起きているのだろう。僕はわずかな灯りを頼りに進んでいく。いくつかの燭台に灯されたロウソクの光と司書の手元を照らすランタンだけが光源だ。

 奥へと進めば予想通り司書が暗い部屋の中で無心に本を読んでいる。読み終わった本は床に放っておき、本の山が彼のベッド。本を大切にしているようには見えない。

 釣り人なら容赦なく読書の邪魔をするのだろうけど、僕はそこまで乱暴はしない。そっと彼の傍に立ち声を掛ける。しかし、彼は気付かない。本を読み始めれば周囲の音はまったく聞こえなくなるのだと以前釣り人が話していた。

 それはすばらしい集中力だが、社交性はないようだ。再度先ほどよりも大きい声で呼ぶが、やはり気付かない。僕の存在など道ばたの石ころと同じ様なもののようだ。

 結局五度目の挑戦で諦めた僕は勝手に一人で始めることにする。しかし、一体何から始めればよいのだろうか。

 周囲を見渡せば上から下まで本、本、本、本……。本しかない。

 適当に一冊を拾い上げページをめくれば古びた紙の臭いがした。元は白かった紙も、外側だけ黄色くなっている。ほとんど日には当たらないはずなのになぜ黄ばんでしまっているのだろう。それはこの本が釣り人の持ってきた物だからだ。元々これらは新品の状態でここには来ない。だから既に黄ばんでしまっているのだ。その黄色の変色が、本達のあちら側にいたという唯一の証拠。

 つづられている文字は様々。現代も使われているような一般的なものから、既に誰も使わなくなった文字まで。絵ばかりで文字がまったくないものもある。

 僕に理解できるのは半分もないだろう。司書はこれがすべて理解できるのだろうか。だとしたらすごい能力だ。本人はまったくすごい人間には見えないが。

 多くの人々の記憶や知識の詰まった本。これを書いた人たちは何を伝えたかったのだろうか。無秩序な文字の羅列にしか見えないこの本にだって、意味はあるのだ。

 気配がしたのでふと振り向くと、司書がようやく読書を終えて起き上がった所だった。司書はすぐ僕に気付いたが驚く様子はない。勝手に他人の家に上がり込んだ侵入者を罰するような常識はここにはないのだ。

「何してるんだ?」

「ちょっと本を読みに」

「ふ~ん」

 興味なさそうに言う彼の視点が僕の持つ本に止まった。

「その本」

 子供の描いた魔法陣のような絵が表紙になっている本。見たこともない文字が無秩序に書き並べられている。

「この本が何?」

 何か特殊な物だったのだろうか。しかし僕の期待は次の瞬間には霧散した。

「それ、昔ここにいたガキが適当に描いた落書き帳だぜ?」

 そこに描かれた物、それをどう見るかは見る人次第。僕が行儀悪く本を投げ捨てたのはそのすぐ後。





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