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探求部の冒険者な日常  作者: シェイド
第一章 探求部ができるまで
14/16

014 開幕戦 前編

バゼラート暦1206年05月15日・・・



「バトルボール?」


クゥガがPTに加わってから数日後、休み時間にアーシェが廊下で俺を呼び止めた。


「そ。明日北西にあるコロセウムで、3年対4年の試合があるんだってさ! 今年の学年の中ではナンバー1、2を争うのがこの2学年らしくって。5,6年よりも実力上だって言うし、ほら私達もこんどのテストで選手枠勝ち取って出場する気満々でしょ? だったら一回見ておくのも悪くないかな~って思うんだけど・・・。どうかな?」


ふむ、悪くない。ってか面白そうだ。俺としてもワルサーから初めてバトルボールの存在を聞いたときは是非やってみたいと思っていたし、そのために観戦しに行くってのもいいよな。


「それで、俺だけ? クゥガは誘うか?」


「あぁそれなんだけど」


人差し指を頬にあて、アーシェは一旦言葉を止めてからもう一度つむぎ出した。


「クゥガ、この前のいざこざがあったせいで処分が下されてるらしいのよ。確か・・・普通教室棟、寮以外の侵入禁止? 先生の監視下にずっと置かれるらしいわ。一週間」


あちゃ~・・・貴族権力うぜぇ~・・・。


「それで、リーアもPTの先輩が出場するらしくてそれ以外のみんなで行くらしいから・・・だからさ・・・ええっと・・・その・・・」


段々と顔を赤らめるアーシェ。モジモジと人差し指を絡ませて、視線を泳がせる。何かあったのか?


「ふ、ふふ2人でい、行かない?」


「おっけ~。何時から?」


「あれ? あっさり・・・あ、えっと確か授業終わってから17:00スタートじゃないかしら? だから学校終わったら、ここの棟のエントランスホールで待ち合わせしよ」


キーンコーンカーンコーン


鐘が鳴る。2時間目開始の合図だ。


「んじゃ、俺は次“現代軍学”だからまた後でな」


「ん。それじゃあね~」


アーシェはとても楽しそうにハミングしながらスキップで教室に戻っていった。何がそんなに嬉しいんだか。



現代軍学は普通教室棟・・・つまり自分らの教室で行うため、移動しなくて済む。


俺はうとうとと窓辺でくゆらぎながら、バトルボールについて考えを馳せていた。



ワルサー曰く、ポジションはガード、フォワード、センター・・・それぞれG、F、Cで表すんだったな。


合計8人制の競技らしいが・・・むぅ、やるとしたら俺はどこになるだろう。


親父はFフォワード、それもかなりのストライカーだったらしいが・・・俺は自分が行く! というタイプじゃない。


Cセンターはどうか? いや、守りに徹するというのは俺のキャラじゃないし、何より職業クラス柄俺向きじゃない。


やはり・・・Gガードか。


全ての選手を纏める司令塔。沈着かつ冷静に状況を判断し、絶妙なアシストを味方に施す。


PT内でもそう在りたいな。


だが、Gは確か各チーム1人だった気がする。だとすれば、倍率は高い、か。


ふぅ。でも絶対出場してやるさ。実技テスト20位以内なら入れる・・・それなら本気でやるほかない。


「・・・ユーヤ」


背中をシャーペンでつつかれる。・・・いい加減これにはもう慣れてしまった。俺は窓の外を眺めたまま、いつものように小声で会話を開始する。


「なんだよ」


「明日のバトルボール、見に行くのか?」


「あぁ。お前もPTの連中と行くらしいな」


「お、そうだよ。なんで知って・・・あぁ、アーシェちゃんか」


「それで?」


「んあ? ああそうそう。お前だったらポジションどこやりたいかなぁって。親父さんと同じ道を行くのか?」


「いいや? 俺はGガードをやろうと思ってる」


Gガード? それはまた。でも、良かった」


「良かった? なんでさ」


俺Fフォワード志望なんだよ。お前は争いたくない相手ランキングの上位ランカーだからさ。被って欲しくなかったっつーわけ」


「点取り屋か・・・アーシェもFフォワードやりたそうだよな。それからクゥガも。いやひょっとするとリーフィアとか言う彼女も・・・」


「おいおいそんなに居たら俺勝ち目ないじゃん!」


「はは、お前ならやれるって。そういや、リーアは?」


「あぁ、リーアは多分、Cセンター志望だ。罠とか張るのって、ディフェンダー向きだろう?」


「確かに。でもこう考えると不思議だよな。俺らの周りには、実技試験20位以内に入りそうな知り合いがわんさか居る」


「まぁ、類は友を呼ぶってな。おそらくバトルボール参加者は毎年、実技訓練免除組だ。30余名のなかで、トップ20に向けて凌ぎを削るわけだ」


「ふ~ん。俺が知らないやつで、上位に食い込みそうなヤツは?」


「ふむ・・・まぁはっきり言ってお前やアーシェちゃん、クゥガ、リーフィア、リーア、自分で言うのもなんだが俺、それからあと戦士系のデュラン・ガーデス、僧侶クレリック系のウォーロング・ハザード、召喚士系のアシルス・クレス・ニールス・・・あの“ベオウルフ”のリーダーな? そいから幻術師系で言えばビスタ・エリヌス・・・このくらいがダントツで第1学年のトップだ。他の連中は30人居る中でも、2軍クラスってところだな。だいたい今挙げた連中がバトルボール参加者候補ってところか」


「まぁ、ワルサーが言うんだから間違いはないだろ。だとすると、Gガードでライバルになりそうなのは、その僧侶クレリックのなんちゃらと幻術師のなんちゃらだな。そいつ等が別のところを目指すなら話は別だが」


「妥当だろ。おそらく、Gはお前が取る。能力的な問題じゃない。精神的にだ。俺が見てきた中で、お前は突出して瞬時の状況判断能力が優れている。それが数多の“フィールド”を駆け抜けてきた経験によるものなのかは分からないが」


「はぁ、買い被りすぎだ。まあとにかく、明日いろいろ参考にしようか」


「おっけ~。話すこと話したし、俺もう寝るわ」


「うぉい」


ツッコミを入れたものの、ワルサーの寝息が聞こえてきたのはその数秒後のことだった。





















バゼラート暦1206年05月16日・・・


今日は朝から生徒たちの熱気が違った。


ワルサーに聞けば、今日は今年の“開幕戦”らしい。去年の上位2チームが争う事実上の決勝戦のようで、この開幕戦と12月に行われる学園内トーナメントは、生徒が自由に観戦できる。


そしてその学園内トーナメントを制した学年は、3月の“バゼラート祭”の青少年バトルボールトーナメントにて全国に点在する様々な学園の猛者との試合が組まれるのだ。


さて、話を戻そう。まずはこの開幕戦だ。


前年度のナンバー1は今年卒業した旧6年生だったらしく、今年の開幕戦は前年度2位であった現4年生と、前年度3位であった現3年生で行われる。


ちなみに親父の代は、毎年開幕戦に出ていたらしい。


どれだけ強かったんだおのれらは。


さらにちなみにだが。その親父達の代には“バゼラート祭”でのバトルボールトーナメントなど存在しなかったそうだ。


「にしても、みんなテンション高いというかなんというか・・・」


放課後になり、エントランスホールで待ち合わせをしているため階段をのんびりと降りている。


たまに見受ける人ごみの中心には、必ず水色か黄色のTシャツを着ている人間がいた。


バトルボールの参加者が、周りから激励を受けているのだろう。


ちなみにそのTシャツの色、学年カラー、らしい。現4年が水色、現3年が黄色。ちなみに俺たちの代は多分、現6年生と同じ藍色。


バゼラート五大元素をモチーフにしてあるらしく、火属性の赤色、水属性の水色、土属性の黄色、風属性の緑色、そして龍属性の藍色。


魔法の属性でもあるこの五つを、バトルボールの学年カラーにしているようだ。


もちろんバトルボールに1年生は参加できないため、学年カラーなどはない。


さて、そんなことをしているうちにエントランスホールに到着する。


アーシェは意外と簡単に見つかったが、こちらには気付いていないみたいだ。


外に近い壁に寄りかかり、時間をちらちら見ている姿はこの上なくかわいい。


早く行ってあげよう。


「アーシェ!」


「! 遅いよもぉ~」


ぷくーっと頬を膨らませるアーシェ。


「悪かった、さ、席取りに行こうぜ」


「あ、待って。観戦中に食べられるもの、何か買って行こ」


食堂に行くのかと思いきや、観戦できる試合の日は北の町から露店が沢山出るらしい。


コロセウムに向かう道の中、特に飲食店が多く存在していた。


結局俺とアーシェは一緒に焼きそばを買い、店主のおばちゃんに冷やかされてアーシェはまだ赤面状態だ。何を言われたかは推して知るべし。きっと俺も今顔が赤い。


コロセウムは、灰色の外壁に囲まれていた。


唯一の侵入経路であろうこの正面で大口を開けているような入り口は、入るとすぐに幅の広いのぼり階段になっている。


今も沢山の人々が会場内に入っていくが、それらが横一列に並んだとしてもなんとか詰まらないくらいの幅である。


さて、そんな上り階段を上がりきると、わっと光が侵入者たちを包み込む。そこは観客席となっており、正面に設けられた手すりから体を乗り出すと眼下には広大な芝のグラウンドが広がっていた。


天井はなく、夕焼け空に突き抜けるようだ。


どこかしこに設けられた灯は、火属性魔法で灯すのだろう。


「ふぇーーーーでけーーーー!」


「私も初めて見るけど、おっきぃ・・・」


どうやらまだ両チームとも入場はしていないようだ。


プレー開始まで40分弱あるから、まだアップしていないのかもしれない。


俺とアーシェはそこからグラウンドとは逆方向に階段を上る。どこの席に座ろうかと話していたが、少し高めに座りたいらしいアーシェの要望に応え、もう少し上のほうに上がる。


いい感じに2人分空いている席があったので、そこに座ることにした。


「かなり見やすい位置じゃないか」


俺からみて右端と左端にゴールがあり、俺が真っ直ぐグラウンドを見つめるとちょうどそこにセンターサークルがある、まさにベストポジション。


ちなみにこのバトルボールのグラウンドだが、ゴールとセンターサークル以外には何もない。


障害物もなければ、線すらも引かれていない。


どうやらボールを持ってどこに行こうが自由なようだ。


買ってきたコーラをチュ―チュ―と吸うアーシェは、グラウンドの両端から選手が出てきたのをみて瞳の色を変えた。


「出てきたね・・・」


真剣そのものの表情でアーシェは言う。


その瞬間、わっと場内が沸く。


輝かんばかりの水色と黄色のユニフォームに身を包んだ戦士たちが、次々に入場してきたのだ。


開始30分前となった今、場内はほぼ満席。


俺たちの周りにも生徒はもちろん、北の街から来た人々や、選手の関係者など溢れるほどの人がいる。


「・・・あれがボールか」


グラウンドを半分に分け、各チームがアップを始める。


その選手の間を行き来する球状の茶色い物体が、バトルボールの公認球なのだろう。


「それにしても、ボール捌きがみんな上手いわね」


アーシェは、視線をグラウンドから離さないまま、そう感想を述べる。


確かに、パス回しは当然のこと、ゴールにボールを打つ(シュートというのだと、ワルサーから教えてもらった)動作も、全てが洗練されているように見える。


しばらくそうしてアップを続けた選手たちは、開始5分前になるとグラウンドの向こう端に設置されたベンチへと引き返していった。


そこで、20人中8人がTシャツを脱ぐ。


その下に着ていたのは、ノースリーブのランニングのようなものだった。


「あれがユニフォームかぁ、かっこいいなぁ」


と、となりでアーシェが言っているので、ユニフォームなのだろう。


背中には大きく数字が書かれている。


「ちなみに、だいたい実力順に1~20までの番号が割り振られるわ。ポジションなんて関係ないの。だから必然、相手の選手も敵の1番を潰しにくるわね。でもま、例外もあるからレギュラーが順当に1~8じゃないことも多いけど」


「ふ~ん」


一口コーラを飲む。さて、そろそろ試合開始だ。

ユニフォームは、ランニングの少し肩が広いものだと思ってください。

バスケのユニフォームと言って分かる方は、それで解釈をお願いします。

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