013 熱血野郎クゥガ
どうする・・・?
朝食は抜いたほうがいいか?
いや栄養面でというより、学校で俺の腹が保たない。
朝風呂は?
まてまてそれを抜いたら一日中妙な気分になってしまう。
落ち着け、いつものように振舞おうじゃないか。
いや無理だ! そんなことしてたら・・・そんなことしてたら・・・!
さて、とにかく俺が慌てている理由を説明しておこう。
うん、朝起きたら目覚まし時計が動いていなかった。
・・・それだけのこと。
リビングの時計を見たら、8:25(マジで遅刻する5分前)だった、それだけのこと。
というわけで、俺は今心底慌てていた。
1分で体を流し、1分で食事の準備をし、1分で朝食を平らげ、1分でその他身支度を終えた。
だがまぁ・・・
「1分で到着できるか・・・?」
まぁ、とにかく早く行こうと、少し諦めムードで俺は玄関の扉を開けた。
ガチャ。
ガチャ。
「あん?」
「お?」
俺が扉を開けたと同時に、左隣の部屋・・・四角い箱(最近、エレベーターと呼ぶのだとワルサーから教えてもらった)から遠いほうの部屋の扉も開き、中から酷く慌てた様子の半竜人の少年が飛び出してきた。
「・・・ってこんなことしてる場合じゃねえ! 遅刻だぁ!!!」
褐色の肌をしたその少年はそう叫ぶと、一目散に四角い箱のほうへ向かい・・・俺の様子を見て引き返してきた。
「おい! 遅刻だぞ! 急げ!」
髪の色もそうだが、暑っ苦しいヤツだなおい。
「いやもう間にあわねえし」
「おいい! もっと熱くなれよ! 頑張れば間に合うんだよ!! 行くぞコルァ!!」
なんだコイツ、と思ったのもつかの間、物凄い力で腕を握られ、とんでもないスピードで廊下をひきづられていく。
「ちょ! おいテメ! いてえ! いてえから離せ!!」
「うるせぇ! 遅刻だぞ! 急ぐしかないだろうが!!」
「俺を巻き込むんじゃねええええええ!!!」
「ぜぇ、ぜぇ・・・」
四角い箱の中へ、半ばっつーかほぼ強引に連れ込まれた俺は、そのとんでもないスピードに引き摺られたせいで息も絶え絶えだ。
「おお、俺のスピードについて来られてんのか。いいじゃねえか、おい」
「何感心してんだテメェ・・・ありえねえだろそのバカみてえな力とスピードは・・・どんなSTR(腕力)とAGI(敏捷性)してやがる」
「ハッハッハ、まぁな。そういえばお前、見たことあるな・・・待て待て、あ~。昨日の校外学習の時にちらりと見たのか。お前も実技免除組なんだろう? なかなかの手練と見受けるぜ」
「そりゃどーも・・・」
チーン、という鐘音とともに、扉が開く。
「おっといけねえ遅刻だったんだ! ほら行くぞ相棒よ!!」
「誰が相棒だ!・・・って掴むなオイいてえよってかそんなスピードで走るなあああああああああああ!!」
周りの景色がありえない速度で後ろに流れていく。いうなればそう、走馬灯・・・いや見たこと無いけど。
っつーか、は? ヒトってこんな速く走れんのかよ? よっしゃー俺は風になるぜ!!!・・・既にグロッキーですはい本当にありがとうございました。
あの実技教師・・・名前なんだっけ、あぁアドラー先生だ。その人の声がする。
「コラア! クゥガ・ターナ! お前はまた遅刻かあああああ!!」
「すいまっせーーーーん!!!!」
・・・また? コイツ常習犯なの?
ありえない速度で引き摺られながら、そんな悠長なことを考える。いや、そうでもしないとさ・・・気持ち悪くて心が折れるんだよ・・・風が、頬に当たって痛いです・・・。
そのままクゥガ? だったか。ソイツはエントランスに突っ込む。
階段を残像のこす速度で駆け上がり、6階に到着するとやっと、うんやっと解放されました。
ってかコイツ1年生だったのか、6階ってことは。
「ふぅ・・・やっぱり間に合わなかったか。いや、諦めなかったことこそ大切だ。そう、大切なんだ」
1人頷く目の前の少年。ってかコイツデカいなぁ・・・俺より頭一つ高いじゃん。
と思っていたら、急に握りこぶしを掲げてヤツは叫び出した。
「諦めんなよ! もっと熱くなれよ!! そう、俺はその言葉を忘れちゃいけないんだ!! いけないんだああああ!!」
授業中だろう? 今。
そして今、遅まきながら確認した事が一つある。
コイツ・・・バカだ。
「はぁあ~・・・」
遅刻して入った俺にとって最初の休み時間。
ため息を吐いて机の上で伸びていると、ワルサーがニヤニヤしながら俺の前の席に座ってこちらを向いた。
「お前、遅刻するなんて珍しいな。さっき仕入れた情報によれば、3組のクゥガ・ターナに引き摺られたとか」
良くご存知で。
「もう今日は疲れた・・・」
「まぁ次の授業は寝てても平気だろ。せいぜい疲れ癒しなよ」
「あぁ、悪い。そうするわ・・・」
礼を言ってそのまま机に突っ伏してスリープモードに入る。が。
「ちなみにクゥガ・ターナに関する情報だが・・・」
「勘弁してください」
今くらいは、あの熱血太郎のことを忘れていたかったのだ。
が、悪魔め。
俺の前で、延々クゥガ・ターナに関する情報を語り続けたワルサーだった。
「結構噂になっている、STR1100の新入生。ソレアイツのことなんだよ。んで、かなりの熱血漢で筆記は目も当てられないほどのバカ。半竜人の職業はワイルドビーストで、接近戦では多分学年で一番強いだろう。だがまぁ・・・バカだから罠張れば勝てるかもな」
あ~・・・なんてイメージどおりのキャラ構成。
にしても、STR1100ってのはアイツのことだったのか。
「お、授業始まるな。飯はいつも通り学食でいいか?」
「あぁ、そうだな。アーシェとリーアが今日は多分一緒に居るから俺らだけでいいか」
「了解」
この日の2時間目は世界地理だった。
確かに眠れる授業ではある。幼少期を図書館で過ごした俺にとって、今更この世の地理なんかを勉強する理由が無かった。
っていうかほとんど頭に入っている。
「おやすみ・・・」
「お~、昼休みに起こすわ」
ワルサーに小声で挨拶して、俺は夢の中へと落っこちていった。
すぅすぅ・・・
「おぉ~い、起きろ~、昼休みだぞ~」
背中をツンツンシャーペンで突付かれる。いてぇなオイ。
「・・・んあ? もうか」
目をこすりつつ上体を起こすと、ワルサーも立ち上がって俺の前に来た。
「さ、飯食いにいこうぜ」
俺も立ち上がり、2人して教室を出る。
「妙に廊下が騒がしいな・・・」
「先生に怒られてるとかか?」
ワルサーが呟いた。俺は考えられることを言ってみたのだが、彼は首をかしげたまま、階段に向かって歩き出した。
「・・・あん? 人だかりができてんな」
ワルサーに習って俺も立ち止まる。
なるほど階段よりも奥・・・1組やら6組やらがあるほうで、なにやら揉め事が起きているみたいだ。
そういう特ダネが大好きなワルサーに連れられ行くと、どうやらあの熱血野郎が絡んでいるようだった。
人だかりの中央には、熱血野郎とソレに胸倉を掴まれた昨日の“ベオウルフ”リーダーが居たのだ。
「さぁて、状況把握だ。これはかなりの情報になるぜ!」
俺を置いて取り巻く人々に次々と説明を求めるワルサー・・・そうこう言う間にも、熱血野郎とリーダーのケンカは進行しているようだ。
・・・先生は誰も出てこんのかい。
「卑劣なマネして俺に勝って嬉しいのか!? もっと熱くなれよ! 正々堂々戦えよ!!」
「う、うるせえ! 僕は主席が取りたいんだ!」
・・・なるほど。また“ベオウルフ”はこすいマネして、今度はクゥガ・・・だっけか? アイツを潰そうとしたわけか。確かに強いよな、STR1100は。
だが、取り巻きの様子があまりクゥガ側ってわけでもないのはなんでだ?
見たところリーダーさんが完全に悪いはずなのだが、クゥガを支援しようだとか、リーダーを責める動きがまったく見られない・・・。
「なんでだ・・・?」
「それは、相手の彼がかなり高位の貴族だからだよ」
「心境読んでんじゃねえよ」
いつの間にか俺の隣に戻ってきたワルサーがそう告げる。
「まぁ、それだけが理由ってわけでもなさそうだけどね・・・」
「あ? それはどういうことだ?」
「周りの声を良く聞いてごらん」
言われるがまま、中央の争いを無視して周りの声に耳を澄ませる。
(まぁたターナがなんかやってるよ・・・)
(うぜえんだよな、あの熱血・・・)
(もうさ、馬鹿力のせいでみんな迷惑してるのに・・・)
(クラス内でも浮いてるのに、この騒動で学年から嫌われるわね・・・)
(本人は気付いてないのかな? 鬱陶しいことこの上ないよ・・・)
「分かったかい?」
俺は、かなりの憤りを覚えていた。
確かにうるさいやつだけど。
確かに暑苦しいやつだけど。
確かに・・・面倒くさいやつだけど。
それでも、今朝だって俺も遅刻しないようにってわざわざ引っ張ってきてくれた。
諦めんなって、なかなか出来ないことを実践してた。
遅刻はまずいけど、悪いことは悪いって自覚してた。
すごく・・・いい奴じゃないのか?
それがこんな不当な扱いを受けて、あまつさえクラスから浮いてるだと?
学年からも浮くだと?
・・・おいおいふざけんなよ?
「・・・ユーヤ?」
ワルサーが不思議そうな表情でみてくるが、今はそれさえも腹が立つ。
「お前は、コレを聞いて平気だったのか?」
上手く声が出ないが、ワルサーに問いかける。
すると彼は、乾いた笑い声を上げながら、言った。
「決まってんだろう? 今俺はクゥガ・ターナに向かってふざけた小言を抜かしてる連中の弱みを握るべく名前をメモッてるところだ」
・・・ふふ、思考回路は同じか。
いつの間にか2人は先生に取り押さえられ、職員棟へと連行されていった。
俺はその後ろ姿を見ながら、1人呟く。
「今日・・・アイツ晩飯に誘ってやろうかな」
「いいこと言うな。いずれ俺も誘ってくれよ」
ワルサーもにこやかに笑ってそう言った。
「俺は熱き漢を目指す!!」
「いまどき流行らないわよ? ソレ」
「何を言う! 俺はこれから史上最高に熱い冒険者として、歴史に名を・・・」
「だから・・・もう考え方が分からないわ。でも、モテないわよ」
「な!? な、な、そ、そんなはずは・・・」
「あるから」
「ぐぬぅ!」
夕暮れ時。俺はあの騒動の時に言ったとおり、クゥガを隣の部屋から呼びつけて晩飯に招いていた。
俺はキッチンで調理の真っ最中だが、懸念していたアーシェとの相性は悪くなく、会ってから数時間経った今ではもうすっかり意気投合している。
・・・意気投合、ではないな。まぁとにかく仲は良くなっていた。
「ほら、そろそろ出来るから食器とか準備してくれ!」
クゥガの好みを彼の見た目で選んだ結果、今日はガッツリと肉の丼だ。
ジュー・・・と脂のたぎる音をさせるソレを見て、案の定クゥガは涎を腕で拭いている。
正直そのしぐさを半竜人の彼がやると、いろんな意味で怖かったりしたのはご愛嬌。
アーシェが棚から出したどんぶりに炊いた米をよそい、汁ごと肉かけ、それをクゥガが運ぶ。
その間に和えておいた温野菜のサラダを盛り付け、アーシェはアイスルームから麦茶を取り出す。
「また作っておくか」
麦茶の量がだいぶ減ってきたのをみて、俺はそう呟く。
「美味そうだなオイ。たまには食堂以外ってのもいいな」
「ユーヤの料理は食堂以上よ?」
俺が3人分の麦茶を注いでいると、なぜかアーシェが誇らしげにいう。
「なんでお前が威張るんだ」
苦笑しつつ、俺はクゥガの右隣に座った。
正面にアーシェ、左にはクゥガ。うん、やっぱり人数が多いと食事も美味いよな!
「さ、食おうか」
『いっただっきまーす!!』
箸でかきこむようにして食うのはクゥガ。
「行儀悪いな、テメエ」
俺がクゥガにそう言った直後。
「うめえええええええ!!!」
と大絶叫。
「・・・ふむ。いいぞ、かきこんでくれて全然構わない」
「ユーヤ、気持ちは分からなくないけど」
呆れたように苦笑するアーシェ。
一息ついたところで、クゥガが俺に言う。
「わざわざ飯に招待してもらえるなんてな。ありがとう。礼を言うぜ」
「まぁな。今日連れてってくれた礼だとでも思ってくれ」
「ハハ、そうか! いやぁ、熱く生きるのはやはり男の生きる道だな!」
「暑っ苦しいわボケが!」
「何おう!?」
俺とクゥガの漫才に、アーシェは終始コロコロと笑っていた。それにしても。
「今日はあの後どうなったんだ?」
俺が問いかけると、クゥガは少し、苦い表情になる。
「ああ、胸糞悪いぜ? 先生は終始貴族であるアイツの味方だし、何よりほら、俺こんなキャラのせいで友達いないから・・・」
友達がいない、か・・・。
・・・。
「バッカじゃないの?」
俺とクゥガが何もいえないでいると、別の場所から声がした。
「アーシェ?」
「友達がいない? アンタさ、もうここに2人も居るじゃない」
その言葉に、隣にいたクゥガは一瞬驚く・・・が、すぐに元の表情に戻る。いや、ちょっと目端に涙が浮かんでたな。やっぱり俺らと同級生、こんななりでも12歳だもんな・・・。
「お、お前ら・・・」
・・・そうだよな。アーシェの言うとおりだ。俺はなんとも言えない気持ちになり、微笑みをクゥガに向ける。
「あぁ。ここに居るぜ」
「・・・くく・・・そ、か・・・ありがとう・・・」
STRが1100あるとはいえ、俺たちはまだ12歳。友達が居ないってのは、俺の想像以上に辛いものかもな・・・もっとも俺もアーシェも、この年まで友達など居なかったのだが。
それでも学校という縛られた枠組みのなかでソレが居ないというのは、確かに俺もキツいかも。
クゥガはアーシェの言った温かい言葉に触れて、少し感無量のようだった。
しばらく、そんな温かい空気が続いた。
ガチャガチャ・・・
キッチンで俺が食器を洗っている間、アーシェとクゥガはさらに親交を深めているようだ。
生徒証の見せ合いをしている。
「うわ! クゥガのことだったんだ、STR1100って!」
「そういうアーシェも、かなりハイスペックじゃねえか! 熱い戦士になれそうだぜ!」
「・・・いや、それは遠慮するかも」
「なにぃ!? なぜだ!!」
・・・ずいぶんとまた、暑苦しさMAXだなアイツ。
「・・・と、よし」
洗い物を終え、俺は食器棚に水分を拭き取った皿やらなんやらを片付ける。
そうしてエプロンを取り外した俺の前に、ドタドタと2人が走ってきた。
「どうした?」
「いままでの話聞いてた?」
そういえば食器を片してる間も2人は話し込んでたな。
「悪いけど、洗い物集中してた」
俺が首を振ると、アーシェとクゥガは目配せをしたのち、2人同時に頭を下げた。
『PTになってください!』
・・・クゥガはともかく、なんでアーシェまで?
「2人はもう互いに了承したの?」
「うん、私としても彼の強さは申し分ないし、クゥガって職業がワイルドビーストらしくてさ、私は後衛だし、ユーヤはオールラウンダーだけど前衛ではないでしょ?」
「ワイルドビースト!?」
ワイルドビースト・・・武闘家系の職業は特殊な職業で、第一段階の武闘家から、2種類の派生がある。技術を駆使して洗練された動きを要求する“モンク系”、突出した力を用いて一撃一撃に重いダメージを載せ、さらに獣のような速度で襲いかかる“ビースト系”。10人の武闘家が居たら9人はモンクに転職するが、その理由は力・・・STRがビースト系の職業の規定値に及ばないから。はっきり言えば、モンク系よりビースト系のほうが断然実力は上である。
そしてクゥガの“ワイルドビースト”。これはもう、この年でなれるのは奇跡としか言いようがない。突出したSTR(腕力)とAGI(敏捷性)がなければ、ビースト系でさらに3段階目のこの職業になどなれるはずがないのだ。
あれ? 昼間もだれかに聞いた気が・・・まぁいいか。
つまり・・・
コイツマジパネェ。
「まぁ俺はアーシェがいいなら全然構わないさ」
「本当か!?」
目を輝かせて言うクゥガ。ちょっと怖いっす。牙見えてます先輩。
「あぁ。これからよろしくな」
「おう!! 親父に言わなきゃな。俺にもとうとうPTが出来たって!」
そう言ったクゥガの表情は、とても嬉しそうだった。
クゥガの職業詳細
凄まじい速度と力を持った拳打や蹴術で戦うかなり頼もしい前衛職業
ナックル系統の武器のみ装備できるが、物理攻撃力は全系統中でも一二をを争う。
武闘家
↓
ビースト
↓
ワイルドビースト←今ココ!
↓
キラービースト
↓
???




