012 校外学習 後編
用語集をちょろっと
マッピング・・・冒険者が、未開のフィールドで行う常識的行動。フィールドの地図や情報を事細かに書き込むことで、次に来た時の冒険をやり易くする。
カタンカタン・・・
鉄道の乗り心地もまた良いものだ。
今俺たち4人・・・俺・アーシェ・ワルサー・リーアは、4人席、というのだろうか。俺とワルサーが進行方向に向かって座り、その対面にアーシェとリーアが座っている。
窓から流れていく景色はいつまでも長閑で、行く先である“モールスの森と丘”という悠久の自然がさぞ気持ちの良いところであるかを連想させる。
「・・・さて、この校外学習って、表向きには何をするんだ?」
「ユーヤアンタ・・・何も先生の話聴いてなかったの!?」
俺の一言に、アーシェがツッコんだ。
いや、聴いていたと思うのだが・・・なんていうか、ね。思い出せないんだな。
そんな俺に、ワルサーがため息を一つ。
「今回は“フィールド”そのものに慣れる訓練のようなものらしい。それで、実技訓練の授業を免除されている者、またそのPTの者は自由行動になってるみたいだ。指定時刻までに戻ればいいといわれている。それは俺とユーヤはもちろん、アーシェちゃんとリーアもだ」
そういえばアーシェも免除組だったな。この前言ってた気がする。
「あ、じゃあ今回はフィールドで自由行動ってことか。モールスの森と丘・・・行ったことないし、マッピングしてみるのもいいかもな」
隣でワルサーが説明してくれる。俺はそれに相槌をうちつつ、マッピングを提案した。
もっとも最初の学年の最初の校外学習で行く場所の情報など、学園側が完全に網羅しているとは思うが。
「それでさぁ、私たちは自由行動なんだけどぉ、とにかく“豊穣の女神”を追跡しようかと思ってるの。それでいいかな?」
「私は平気よ? でも、追跡してどうするの?」
アーシェの問いはもっともだ。俺もそこは聞きたい。
「どちらかが死にそうになったら、止める。このメンバーなら、両方のPTを相手にしても平気なはずだ」
どっからその自信が出て来るんだよワルサー。
「んじゃ、適当に役立ちそうなものでも考えとくわ」
「お、任せたぜ精錬術師」
~モールスの森と丘~
入り口は最初から二つに分かれていた。
そのまま森に入る道と、少し上り坂になっていて、丘の方角に向かう道だろう。
ついでに言っておくと、最初1000人が鉄道から降りて整列した時に、30人ほど名前が呼ばれて自由行動の許可が出ている。
それ以外の生徒は先生に引率されて“フィールド”そのものを知る訓練をするらしい。
俺たちはワルサーの先導で、“豊穣の女神”に気取られないよう尾行を続けていた。
森と丘のフィールドは、別の場所ならば行った事が結構ある。
6歳になったばかりの新米精錬術師だったころは、こういうフィールド自体に害が無いフィールドで冒険していた。
さて、その俺が行ったところとココの違い。それは、モンスターが比較的イヤラシい攻撃をしてこないことだろう。
なんどか今までにモンスターと戦闘になったのだが、簡単な物理攻撃、それも打撃系統がほとんどで、状態異常攻撃や切断系統の攻撃を全くしてこない。
ダメージは学園近くのリラ森林に出てくるようなモンスターと比べれば桁違いだが、それだけだ。
アーシェがちょいっと回復すれば、それだけで全員上限マックスまで回復してしまう。
サスガはソーサラーって感じだな。
あ、ちなみにリーアの職業はレンジャーだった。
弓を主に使用し、罠を仕掛けるスペシャリスト。
その系統の2段階目で、先ほどまでの戦闘を見る限りは中々の手練だ。
「・・・まだ接触はしないみたいだな」
ワルサーが呟く。現在森の中を進んでいるのだが、“豊穣の女神”は未だ“ベオウルフ”とは衝突していないみたいだ。
「絶対に戦場を決めて戦いはじめると思うんだが・・・」
どうやら自分の情報に疑問を持ち始めたようである。まぁ、知らね。
その“豊穣の女神”のPT構成だが、特筆すべき実力者だという学園長の娘、リーフィア・ローズベルトは背中に槍を背負っていることから、槍使い系の職業である事が伺える。
そのほかに、帯剣をした男が2人。杖を持った男が1人。ふむ、4人PTなのか。
「それにしても、“豊穣の女神”という割に、女の子1人なんだな」
俺が呟くと、ワルサーがフォローを入れてくれる。
「そうだな。だが情報によると、リーフィアの職業名から取った名前らしくてな。あ、他の3人はリーフィアの取り巻きのようだ」
取り巻き、ね。間違っても俺はそんな風になりたくないな。
鶏口となるも、牛後となるなかれ・・・ってな。
まぁ鶏口じゃなくても、みんなでわいわいやれればそれでいいけれど。
「お、森を抜けるな」
ワルサーの言うように、森が急に開け、目の前には草原がさわさわと風に流れていた。
「・・・! おい、どうやらここが決闘場らしいぜ」
そう言ってワルサーは、俺たち3人を草陰に呼ぶ。
4人揃って、草陰から戦闘を見守ることにした。
「じゃあちょっと、見張り用の精錬道具でも作りますか」
「? 何するの?」
「まぁ、全てを見通す道具、かな」
アーシェの問いに答えつつ、俺は皮袋をがさごそかき回す。
「あった」
“レミーラの瞳”と“マジックミラー”を取り出し、精錬することにした。
「“精製”」
「すご~い、綺麗だね」
球状の純物質を見て、リーアが感嘆の声を漏らす。
「そういえば俺も、ユーヤの精錬術を見るのは初めてか」
「“練成”」
2つの物質をあわせ、混沌を作り出し、そのまま両手で押しつぶす。
「精錬・レミーラの魔レンズ」
輝きとともに俺の手元に現われたのは、小さな虫眼鏡。
「・・・これが、何の役に立つんだい?」
「これを通して見ることで、相手のアクションが全て分かるようになる。例えば、リーアが罠を張ったりしたらすぐに分かるわけだ」
「へ~、すっごいね~」
目を輝かせるリーア。レンジャー系統が使う罠も、このレンズを通せば丸見えなのだ。
・・・どうやら到着は“豊穣の女神”が遅かったようで、“ベオウルフ”と思しき怪しげな5人組は既にそこで待っていた。
召喚士だろうか、制服の上から緑色のローブを纏った男が、口を開く。
「わざわざ潰されに来たんだ? ご愁傷様」
「僕らの出世の邪魔なんでね、排除させてもらうよ」
「あら? わたくし貴方がたごときにやられる理由は無くってよ?」
・・・リーフィアって子、口調がかなり高ビーな気がするが。
す・・・と彼女は槍を構える。改めてみるとかなり長く、先端も鋭利だ。白い髪と対照的な、漆黒の槍が晴天に輝く。
「バァカ。お前らはここに来た時点で、幻術にはまってんだよ」
召喚士の隣に居た、前髪で瞳が見えない怪しげな男がそう笑った。
ソイツが幻術師のようだ。
「ッツ、卑っ怯だなぁ、おい」
ワルサーが隣で憎憎しげに幻術師を睨む。と、同時に、“豊穣の女神”側の剣士が二人とも錯乱状態に陥った。
「うわああああああ!!! 来るなくるなくるなああああああああ!!!」
「ひぃぃぃぃぃぃぃ!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!!!」
彼ら2人が幻術にかかってしまったようだ。
狂ったようにその場で剣を振り回すが、それを見て“ベオウルフ”リーダーらしき召喚士の後ろにいた2人の召喚士が呪文をつむぎ始める。
「「我が望むは己が体、今その姿を我に顕せよ ブラッドデーモン!!!」」
「グギャアアアアアアア!!!」
2人の目の前に魔方陣が現われ、そこから這い出るように1体の異形が現われる。
鋭く伸びた指からは延々と赤い血が滴り、目は落ち窪んで存在するかどうかも分からない。
ブラッドデーモン・・・デスベアーと同じく異次元の住人で、かなりの魔力がないと呼び出せない上級召喚獣。
この場合はおそらく、2人の召喚士が魔力を共有して必死に1体を召喚したのだろう。
「グギャアアアアアアアア!!!」
この世のものとは思えない叫び声を上げながら、ブラッドデーモンは錯乱している剣士2人に迫る。
・・・が。魔レンズを通して見ると、面白い事が分かった。
「なるほど、リーフィア・ローズベルト、彼女は竜騎士系統の職業らしい」
俺が納得して呟くと、アーシェとリーアがハテナを浮かべて俺を見た。
俺は小さく「見ててみ」とだけ言って、戦場に目をやるよう促す。
ブラッドデーモンが1人の剣士を屠ろうと鋭い爪を振りかざした時、リーフィアは既に地上には居なかった。
剣士に指が触れるかどうかというところで、空から槍が降ってきてブラッドデーモンを貫いたのだ。
リーフィアは天使族特有の翼を使って空を飛び、上空から槍を突き立てた形になる。
「グギャアアアアアア!!!」
先ほどの威勢の良い声とは違い、断末魔とともにブラッドデーモンは消滅する。
リーフィアは槍を一振りして、剣士を一瞥した。
錯乱状態がまだ続いていることにため息を吐くと、槍を召喚士のリーダーに向ける。
「な・・・そんな・・・」
「僕達の召喚獣が・・・!」
当の本人達・・・つまり召喚士2人は揃ってアホ面。まさかブラッドデーモンがやられるとは思っていなかったのだろう。
「わたくしに挑むのは、少し早かったのでは?」
言うが早いか、リーフィアは槍を真っ直ぐ“ベオウルフ”のリーダーに向け突進する。
彼は舌打ちして後ろに下がる。
すると、今までリーダーの後ろに居た男が、ニタリと笑った。
・・・!?
「まずい!」
思わず呟く。“ベオウルフ”は1人隠し球を残していた。そう、念力者。
彼は念力で、ヒトではなくフィールドに干渉する職業だ。俺の魔レンズが正しければ今あの念力者はリーフィアの突進の軌道上に落とし穴を作っている。
・・・それも底に毒を塗った槍床を敷いて。
「殺す気かよ!?」
「どうしたのよユーヤ!」
アーシェが言うが、気にしない。
俺は急いで草陰に隠れたまま精錬術を行うことにした。
何にしようか。氣導砲の類を放って完全に潰してもいいが、あちらも生徒らしいからそれはまずい。
だからといってひっそり罠を潰せるかといえば・・・あ、あったわ。
皮袋を漁り、中から“僻地珠”と・・・
「待て、ここは俺がやる!」
「お? おう・・・」
「アレは地面に罠を仕掛けているな・・・よし!」
ワルサーが俺を制して立ち上がると、両腕をクロスして力を込め・・・
バサ!!!
「な!?」
驚いた、背中から天使族なんて目じゃないほどの大きな翼が生えたのだ。
そしてそのまま大きく羽ばたき、上空に舞う。
「撒き菱」
数個、尖ったブービートラップを地面に投げつけた。
するとその部分に急に穴があき、落とし穴があらわになる。
「なに!?」
念力者は驚愕の表情だ。それはそう、いきなり罠が見つかってしまったのだから。
それを見た豊穣の女神メンバーは驚くも、リーフィアは寸でのところで急停止して事なきを得た。
「ただ今」
ゆっくりと草陰に舞い降りるワルサー。少し見直したかもしれない。
「シーフ舐めんな。バレずに罠撤去してやったぜ」
やり遂げた笑みを隠さないワルサーを横目に、俺は戦闘のほうへと向き直る。
「さて・・・どうなっているかな?」
俺が見たときにはもう、阿鼻叫喚の図が広がっていた。
「・・・くそ! 覚えていやがれ!!!」
ありきたりなセリフが聞こえたと同時、リーフィアの影が俺たちの前を横切る。
殺されかけたことを知ったリーフィアが暴走したらしく、罠を仕掛けた念力者はもはや虫の息。血だらけでばったりと倒れていた。
他の、ブラッドデーモンを呼びつけた2人の召喚士も同じく、リーフィアの滑空術と槍捌きの餌食に。
幻術師と召喚士リーダーの2人はどうやら逃亡したらしく、残っているのは被害者と化したベオウルフの3人と、豊穣の女神メンバーだけとなっていた。
「・・・さて、死人も出なかったようだし、任務完了か?」
「そうね。私もぉおなかすいたし」
リーアとワルサーが2人で話を交わす。
これで、任務は達成らしい。
「それにしても、2人とも来てくれてありがとうな」
「アーシェちゃん、ユーヤ、ありがとう!」
振り返った2人は笑顔だったが、俺はなんか不完全燃焼感を拭えなかった。
なので適当に返しておく。
「あぁ、いいって。な、アーシェ?」
「・・・まぁ、私何もしてないしね」
ふわぁ、と欠伸をするアーシェに、3人で苦笑する。
豊穣の女神メンバーやベオウルフは差し置いて、俺たちは入り口へと帰還することにした。
だいたい集合時間の15分くらい前のことであった。
「いろいろ疲れたぁ~!」
ジュー、と俺が肉を焼いている間、アーシェはテーブルの上にぐで~っと伸びていた。
髪留めを解いたらしく、長めの金髪が伸びた方向に出ていて顔が見えない。
「はいはい、今日は肉焼いたから疲れ癒せ」
「おおーー!!」
・・・相変わらず食事になると威勢がいい。
ってか、最近は俺の部屋がアーシェの生活空間になってきている気がする。
さっきも調理中に「お風呂借りるね~」とかなんとか言って、数分後にはシャワーの音が聞こえていた。
・・・ちなみに今日は疲れたから料理教室は無しらしい。全く、俺の疲れはどこに向ければいいんだ。
ステーキ風の肉を前に、アーシェは「早く食べよ~」と駄々をこねている。
俺は昨日冷やしておいた麦茶をアイスルーム(冷やせるから使いナヨ、とこの前アーシェが魔法で作ってくれた)から取り出してグラスに注ぎ、持っていく。
「いっただっきま~す!!!!」
超ご機嫌で肉にかぶりつくアーシェ。まぁなんだかんだ言って、楽しいんだよな、こういう時間。
「あ、そうそう」
ごくん、と喉を鳴らしたアーシェが、俺にフォークを向ける。・・・行儀悪いぞコラ。
「今日このあとリーアちゃんの家に泊まり行くから、明日の朝食は食堂で食べていくね。たまには別々登校でもいいでしょ?」
「あぁ、分かった。でも初めてじゃないか? 俺のとこ以外で朝飯」
「まぁ、ユーヤが寮入る前はそういう生活だったけど。じゃあ、明日はそういうことで!」
「はいよ」
ステーキを平らげたアーシェは、スキップでシンクに皿を片付けに行った。
リーアの職業詳細
罠を張ったりナイフ系統の武器を得意とする、盗賊系統と良く似た職業。
決定的な違いは、こちらは補助魔法を扱え、向こうは攻撃魔法が扱えるということだろう。
アシスタ
↓
レンジャー←今ココ!
↓
ウォーレンジ
↓
ローグ
↓
???




