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探求部の冒険者な日常  作者: シェイド
第一章 探求部ができるまで
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011 校外学習 前編

バゼラート暦1206年05月09日


入学から一ヶ月が経った。


俺は相変わらず学校生活を楽しんでいる。


ワルサーは適当に学校をサボる不良と化し、俺とは良い悪友だ。


アーシェはいつも勉強頑張っているけど、ご飯を俺のところに食べに来るのは相変わらずだし。


さて、今はそんなこんなで昼休み。


寮近くの原っぱで、のんびり昼寝を堪能していた。


「あ~、良いわあ・・・」


ごろりと寝返りを打ち、大の字になって青空を見つめる。


今日は実技授業のため出る必要が無い。ワルサーは面白い情報が入ったらしく奔走中で、俺は今日一人だ。


すぅ・・・。


初夏の心地よさってもう素晴らしいよな。


新緑が木漏れ日を彩り、その木陰で・・・。


そうだ、木陰で本を読もう!


そう思い立ち、俺はぴょんと起き上がった。


確か普通教室棟の一階には図書館もあったはず。


面白い本もあるだろう。


尻についた芝を払い、普通教室棟に向かって歩き出す。


「ふぅ、今頃みんなは授業中か・・・」


職員棟の南側を通ると、校庭で訓練をするクラスメートがよく見える。


そのまま普通教室棟へと向かうのだが。


図書館、か。


集落に居た頃、図書館は俺にとっての世界だった。今ある知識や、妙に俺が冷静なのも図書館で吸収した知識が俺を守っているから。


図書館は俺にとって、特別な存在であった。


普通教室棟のエントランスホールを抜け、図書館へ向かう。


『図書館』と銘打たれた吊り看板を見つけた。


「ここか・・・」


ガラスで出来た扉を開こうと手を伸ばしたその時。


「あぁ~居た居た! ユーヤ!!」


んあ?


後ろから早歩きで来たのはワルサー。


俺の手首を掴むと、辺りをきょろきょろと見回して近くにあった男子トイレに俺を引き込んだ。


「おい! なんだよちょっと!」


「黙って着いて来い!」


いつになく真剣なワルサーに一瞬気圧されるが、男子トイレに引き込まれたところでやっと、手を振り解いた。


「なんなんだよ!」


狭っ苦しい手洗い場で、俺とワルサーは対面する。


すると彼は人差し指を立てて・・・


「ヤバい情報が手に入った」


とだけ言った。アバウトすぎるだろオイ。


「なんだ?」


「明日、校外学習なのは知ってるよな?」


あぁ、確かそうだった気がする。まだPTを組んでいない奴も居るだろうからと、今回は基本単独行動の校外学習になるとかなんとか・・・。


「1組のPT、“豊穣の女神”と、13組のPT、“ベオウルフ”が激突するみたいなんだよ」


どっちも知らねぇよ。


だが、今回のワルサーの声色は真剣そのもの。最後まで聞くことにした。


「そんで、まぁ経緯いきさつはまだ調べられていないんだが・・・」


ちらっと俺のほうを確認してくるが、生憎俺には何もわからねえ。


だが、めんどくさそうだとは理解した。


「・・・それで?」


「そう、それで。“豊穣の女神”のリーダーはアレだ、入学式の時話したアイツ。学園長の娘、リーフィアだ」


そういえば。白い髪を腰まで伸ばしてた、天使族セレスティアの子だ。


「彼女はほとんど単体で強い。“豊穣の女神”のメンバーは正直ただの取り巻きってところか」


「それなら、さっさと一人で片付けりゃいいじゃん」


俺が言うとワルサーは頷いて言った。


「と、思うだろう? だがそこで問題なのが“ベオウルフ”のPT性質だ」


「どんな?」


「悪質なんだよなぁ。PT人数は5人。それもなまじ学力は優秀らしくてな、他の生徒を調べて、実技だろうが筆記だろうが、自分達より有能なヒトを潰しにかかる傾向がある。んでその悪質さなんだが・・・召喚士3人、幻術師1人、念力者1人の構成なんだ。お前なら、この意味分かるだろ?」


・・・なるほど。


要はえげつない戦い方をするわけだ。


幻術を使ったり召喚獣で戦わせたり、念力を利用したり・・・。


無論それが卑怯なわけではないが、敵にすると厄介だ。


「・・・それにしても、有能なヒトを潰しにかかる、か」


妙に引っ掛かるな。


まぁいいか。とりあえずは・・・。


「理解はしたが、俺に何を求めてんだ? 情報をわざわざ提供した意味あったのか?」


俺が問いかけると、ワルサーは苦笑して言った。


「ハハハ、おいおい。せっかくダチのよしみで教えたんだ。とばっちり喰らわないようにしろよってだけの話だよ」


「そ、か」






















バゼラート暦1206年05月10日


「は~い皆さん集まりましたね~? これから1学年全員で、“モールスの森と丘”に出発しま~す!」


まったり系幻術師教師が全員に声をかける。


「なんでアイツが学年監督してんだ・・・?」


「さぁ? 私に聞かれても困るわよ」


校庭。俺たち第1学年は今、引率教師陣の前に整列して点呼をとっている。


突き抜けるような晴天は、まさに絶好の冒険日和だろう。


まだPTを組んでいないヒトもいるためか、今回はPTでの行動を強制しているわけではないらしい。


俺はとりあえず一緒に居るアーシェと、PTメンバーがだいたい上級生のワルサー、そしてワルサーのPTメンバーで唯一の同学年という少女リーア・アルスを含めた4人で行動することとなった。


ちなみにリーアはアーシェの同級生でもあるらしい。奇遇って、続くものだな。


「んでワルサー、昨日話してた連中の動きはどうよ?」


「あ? あぁ、どうやらまだ動かないみたいだな。だが、どこかで戦闘になることは確実だ。下手すりゃ死人が出るかも知れないという話を部長から聞いてな・・・」


ワルサーが言葉を選ぶように口ごもると、リーアが隣から事情を説明してくれる。


「そうなんだよ! 結構デカい闘いになるってのが部長の考えでさぁ、私達はその見守りっつーか監視役をまかされて、二人だけじゃ心細いってことで・・・」


「わーーーーー!」


「・・・なによワルサー」


ちょっとまて? リーアが言った事、ワルサーが昨日話した内容とこじれてないか?


「コホン、えぇ~っと。とりあえずそうだな・・・スマンユーヤ!!!」


・・・状況を把握しよう。


とりあえず、だ。俺はただ単に一緒に行動するだけじゃなく、こいつらに付き合ってその戦闘を見守らなきゃいけないっと。


「・・・ワルサー、テメェ」


「すいまっせんしたぁ!!!」


まぁ、別にいいっちゃいいんだけどな。リーアっていう青髪をポニーテールにした少女のほうを向くと、彼女は唖然としていた。


「ワルサー、説明してなかったの? 危険な任務になるから承諾を得ろってあれほど・・・」


「・・・まぁ、なってしまったモンは仕方ない。それで、さっきから出てくる部長って?」


「あ、ソレ私も気になってた」


アーシェも会話に参加する。移動が始まったので、南門に向かって歩きながら話を続けた。


「あぁ、俺の部活は、沢山のPTで成り立ってんだ。よくあるぜ、そういうの」


「そう。私たちみたいなシーフやレンジャーといった職業を集めて、部活にしているのよ」


「へぇ、どんな部活? 私部活とか興味あるなぁ」


「私立インクアイリ学園特別情報収集兼人為的流出用秘密諜報人員育成機関、略して文芸部」


「どこにも文芸っていう要素なかったよね!? 凄まじく文芸の意味履き違えてるよね!?」


アーシェが激しく突っ込むが、ワルサーとリーアはどこ吹く風。


「別に、いいじゃない。言い易くなってんだしぃ」


「まぁ、そういうことだ」


・・・俺も突っ込みたい気持ちはある。あるぞアーシェ。


引率されて歩く道。その道端には、ヒトが5、6人は入れそうな大きさのカプセルがところどころに点在した。


「このカプセルみたいのはなんだ?」


俺が問うと、リーアが答えてくれる。


「それはぁ、ワープゾーンってのが一番しっくり来るかな? 実習に使いそうな簡単なフィールドと学園を結んでいて、校外学習の時に移動しやすいようになってるの」


・・・ほぉ、ずいぶんと画期的なものだな。


にしても、5,6人ずつ運んだところで、1000人を運ぶにはかなりの時間がかかると思うんだが。


「こんなの使うと時間かからないか?」


「まぁ、そうよぉ。でも今回みたいに学年で動く場合はぁ・・・」


リーアがそう言葉を繋ぎながら、正面のほう、それも遠くを見据える。


その視線を追って見てみると、なんだか、デカい鉄の箱がいくつも連なってできた機械? のようなモノがたたずんでいた。


「おいおい、なんだよアレは・・・」


「鉄道、と呼ばれる移動機関だね。1000人だろうとあっという間に運べる、浮遊魔術と風系魔法を駆使して作られた機械だ」


ワルサーが教えてくれる。・・・なるほど、鉄道ね。


確かにそんな名前がしっくり来る。見るからにずっしりと重たく、黒金色に鈍く輝くボディは、この上ない存在感を示していた。


先頭のほう・・・1組や2組は次々にその鉄道へと乗り込んでいるようだ。


「さ、初の校外学習楽しんでこーぜ!」


ワルサーのさも楽しそうな表情は、これから起こるらしい抗争など微塵も連想させないような笑みだった。


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