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第21話 剣尊、弟子を正しく評価する

アカデミーの地下へ続く通路を、俺たちは歩いていた。


先頭はレオン。


その後ろを俺が歩き、グレイヴはいつものように俺の肩へ乗っている。


しばらくは黙って歩いていたレオンだったが、やがて口を開いた。


「それにしても、よくぞお戻りになられました」


「ああ」


レオンが振り返る。


その目には、また少し涙が浮かんでいた。


「私があなた様を殺してしまってから、どれほど後悔したことか……」


「そうか」


「あなた様亡き後、民は悲しみに明け暮れました」


随分大きな話になってきたな。


「人々は毎日のようにあなた様を懐かしみ、涙を流していたのです」


『……』


グレイヴが俺の肩で呟いた。


『おしゃべりな奴だな』


「昔からだ」


『剣士より詐欺師の方が向いているのではないか?』


「そうかもしれん」


「師匠!?」


レオンが振り返った。


「レオンは昔から愚痴屋でな。才覚にも乏しい」


「師匠!?」


「ただ、修練は人一倍頑張る奴だ」


グレイヴが呆れたように俺を見る。


『仮にも弟子に対して、えらい言いようだな』


「最後は褒めただろう」


『修練は頑張る奴だ、と?』


「ああ」


『それをフォローだと思っているなら、人物評が酷すぎるぞ』


レオンが小さく肩を落とした。


「十年ぶりに再会した師匠から、才覚に乏しいと言われるとは……」


「事実だ」


「否定してくださってもいいのですよ?」


「正しく己を見つめなければ正しく強くなることはできない。お前は俺の人物評に感謝するべきだ」


「そうでした。そういう方でした……」


また愚痴が始まった。


そのままレオンは、当時の話を続けた。


俺が死んだ後に何が起きたのか。


剣士たちがどう扱われたのか。


旧王国の民がどうなったのか。


帝国の統治がどのように変化したのか。


最初は話半分で聞いていたが、やがてレオンの話はいよいよ佳境へ入った。


「して、剣尊様」


「なんだ?」


レオンが少し声を落とす。


「やはり、帝国へ復讐を?」


「なぜ俺が帝国に復讐するのだ?」


「え?」


レオンが足を止めた。


「当然でしょう!」


「何がだ?」


「あなた様を帝国が卑劣な謀略によって追い詰め、最後には騙し討ちしたのです!」


「騙し討ちをしたのは、お前だった気がするが?」


「……」


レオンの口が止まった。


「それを言われると弱りますね」


『自分でその話を始めておいて何を言っておるのだ』


「ですが師匠! あれは帝国が我々の家族を――」


「もういい」


「しかし――」


「少し黙って案内しろ」


「……はい」


レオンは明らかにしゅんとした。


そして。


ようやく静かになった。


『本当に黙ったな』


「昔からああだ」


『よく弟子にしたものだ』


「だから修練は人一倍する」


『そこだけで押し通すつもりか?』


俺たちはさらに地下へ降りていく。


階段は次第に古くなっていった。


壁に使われている石も変わる。


アカデミーが建てられた時代より、はるかに古いものらしい。


空気も冷たい。


そして。


地下へ進むにつれ、肌を刺すような気配が濃くなっていった。


魔力とは少し違う。


もっと重い。


濁った圧力のようなもの。


やがて、レオンが足を止めた。


「ここです」


目の前には巨大な扉があった。


古びている。


表面には何重もの術式が刻まれ、そのほとんどが今でも生きていた。


俺は扉を見上げる。


「なるほど」


近づくだけで分かる。


扉の向こう側から漏れ出している。


「凄まじい魔気だな」


肩の上のグレイヴを見る。


「グレイヴ。ここか?」


グレイヴの様子が変わっていた。


いつもの軽い調子が消えている。


暗い眼窩の奥で、炎だけが静かに揺れていた。


『……ここだ』


「そうか」


俺は一歩前へ出た。


レオンが慌てる。


「お待ちください、師匠。その扉には強力な封印が――」


枝を持ち上げる。


魔力を流す。


光の刃が伸びた。


オーラブレード。


「な――」


一閃。


扉を走った光が、そのまま壁まで抜けた。


一拍遅れて。


巨大な扉が斜めにずれた。


轟音とともに倒れる。


濃密な魔気が、一気に通路へ流れ込んできた。


レオンが絶句する。


グレイヴは何も言わない。


俺は倒れた扉の向こうを見る。


暗闇。


その奥に。


明らかに何かがいる。


俺は口元をわずかに上げた。


「行くぞ」


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