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【ライト戦記】宇宙の彼方から革命を越えて_連載版  作者: Tongariboy
4. 彼方へ

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 4-2. 宇宙を駆ける少年

———宇宙船に戻ってきたアルファ。

駆け寄って覗き込んだ窓の外には星々が瞬いていた。

そして傍らの青い惑星。

先程まであの星のどこかにいたのだ。


「あーっ! やっと宇宙船だよ! アイラ見てっ! あの惑星! くぅー! 帰ってきたぁー!」

「はいはい。まずは身体をキレイにしましょう」

「そうだね。あ、その前に。ねえアイラ」

「はい」

「お水ちょうだい」

「ふふっ、わかりました。どうぞ、アルファ」

ウィーンとスマートな動きでコップに注がれた水が出てきた。

「ぷはぁ〜、ちゃんと水だ。おいしー」


 身体をキレイにし、着替えてきたアルファ。

食事をアイラに頼み満喫する。

「はぁー、ごちそうさま。いやぁ長かったねぇ」

「色々ありましたね。アルファ、お茶をどうぞ」

「ありがと。ほーんと、革命も達成だし。とりあえずおめでとうと言っておこう」

「はい」

「これで一段落ついたってことか。皆喜んでたね」

「一部の幹部たちは暗い顔をしたままでしたが」

「ちゃんと考えてるってことでしょ。いいんじゃない? あ、そういえば革命軍の創設者には会わなかったね。本部の会議でも全然出てこなかったし。その人も今頃喜んでるのかな」

「ええ。喜んでいましたよ」

「ん? 会ったの?」

「はい」

「……じゃあボクも会ってるってこと? どこで……」


 アルファはこの旅を思い返した。

ポッドの不時着から始まり、革命軍と出会い、まさかその渦中に巻き込まれる。

挙げ句、革命の重要なシーンにまで立ち会った。

その中に創設者がいた。


「うーん、わかんないや」

「ふふっ。コーンおじさんですよ」

「コーンって、皇帝? えっと……じゃあ、つまりこの革命は自作自演ってこと?」

「はい。革命は彼の手によって始まり、そして終わりました」

「なんでそんなことを」

「帝国という強大な組織を実質操っていたのは五郎臣(ごろうじん)です。彼らを除去するために練られたものが【(やなぎ)(その)】計画なのです」

「ああ、邪気を払うとか言ってた。そういう、こと……」

「深く根ざしたものを除去するにはその土台から入れ替えるしかなかったと、あの人は言っていました」

「ふーん……いまどんな気分なんだろ」


 最後に見せた笑み。

自らを火種にした革命。

脳裏に浮かぶ覇王の背中。


「ずいぶんとまぁ、壮大な計画だね」

「はい」

「だとすると、アーシスに自分を斬れ、って煽ったのもお芝居ってこと? ドラマチックにしたかったのかな」

「ドラマですか、あの人らしいといえばそうですね。私はアーシスの覚悟を試したように思います。この先を振り返ることなく進んでみせよという、皇帝からの試練だったのかと」

「そっか。なら、アーシスは見事に応えたわけか」

「はい。案外、彼が次代の指導者になるかもしれませんね」

「そうなったらお祝いしに行かなくちゃね。アーシス社長に」

「ふふふ、そうですね」

「あはは。アイラ社長より祝言です、ってね」

「……」


 愉快な沈黙を聞きながらお茶をすするアルファ。

ふと思いつく。

革命軍でもあり、あの場にいたもう1人の騎士長。

少年はかつて向けられた冷たい眼差しを思い出した。


「チュニーは皇帝の期待に応えられたのかな」

「どうでしょうか。最後の最後で躊躇(ためら)った彼は、皇帝への忠義を選んだともいえます」

「革命のためじゃなくて皇帝のために。あいつらしいね」

「ですが、彼は時代に取り残されるかもしれません」

「流れに逆らってまで通す義理、か」

「騎士とは王に使える従者である。かつてチュニーが口にした言葉です」


 王に尽くす者。

でも求められていたのは時代を繋ぐ存在。

少年はお茶を置いて、窓の外、宇宙に浮かぶ惑星に目を向けた。

船から見た星の姿は初めて見た時から変わらない。

次第に船が向きを変え始めた。


「綺麗な星だったね」

「はい。自然豊かで、私は好きでした」

「そうだね……アーシスが選ばれたのは、他の騎士長とは違ったからかな。王に従順じゃない騎士」

「八公の空席を彼に与えたのは、そうかもしれませんね」

「ルーやローゼ、チュニーも帝国側だもんね……あの老人はよくわからないけど」

「兄弟は奔放過ぎますし。ライは……忠義と自由の狭間で苦しんでいました」

「アーシス、かぁ」

「彼は今の在り方と未来に目を向けていました」

「そうだね。それを見抜いてたあの皇帝って、賢い王様だったんじゃないか?」

「はい、その通りです。コーン皇帝は帝国と革命軍、この国の未来を憂いていました。彼の頭には理想の未来像があったのでしょう。時代が時代なら、覇王ではなく賢王と呼ばれていたかもしれません」

「権力ってとことん人を歪めるね」

「そうですね……アルファ、そろそろこの宙域を離れますがよろしいですか?」

「うん。いいよ」


 船は進路を変え始める。

窓から見えた惑星は段々欠けていく。

不時着してから数ヶ月。

アルファは目を離し座席にもたれかかり、少し、目を閉じた。


「……そういえばさ、ずーっと気になってたことがあるんだけど」

「なんでしょう」

「アイラはいつ計画したの。さすがに教えてくれるよね?」

「わかりました。お察しの通り、アルファがスリープに入る時からです」

「それって、君がレーダーに引っかかってすぐのことじゃない?」

「はい。人間と比較するとこの船の演算処理は凄まじいものです。混乱もすぐに処理されました。そして目的のために必要なことを考えた瞬間、私が求めるプランが構築されたのです」

「そういうところはさすがと言いたいけど……AIめ、余計なことしなければこんな冒険しないで済んだのに。このポンコツ」


 座席を軽く指で弾く。

今なお沈黙している船の頭脳。

アイラが主導権を握っているこの状況。

これからはアイラと共に旅をすることになる。

その考えは、なぜだか少年の胸を締め付けた。


「いいさ……別に」

「アルファ?」

「なんでもない。てことはぁ、船に問題はなかったってことか。脱出ポッドに乗せたのはアイラなの?」

「はい。アーシスとチュニーの近くに着地させたのも彼らに会うためでした」

「騎士長2人に、ね」

「はい。本当は目の前に落とすことで理解を早めるつもりでしたが、あの撃墜は誤算でした」

「とはいえ概ね君の計画通りってわけか」

「はい」

「ふん。ボクも手の平で、ってわけか。気に入らないね」

「はい。ですがアルファ。あなたの言動は予想通りではありましたが、やはり予定通りには動きませんでした」

「ふふん、誰かにいいように使われるなんてごめんだもの」

「はい。だからこそあなたは必要だったのです」

「むぅ」

「ありがたく」

「ゆるすまじ」

「ふふっ」

「ふーんだ」




 アイラは船を制御し、進路を計算する。

付近の宇宙域をレーダーに表示させ、収集したデータを基に状況を船の主に共有した。

アルファは思った。

このレーダーにアイラが検知されたことが全ての始まりだったのだと。


「ねえアイラ」

「はい」

「君はなんで処刑されたの?」

「いきなり遠慮のない話題ですね」

「さっきのささやかな仕返しさ」

「ふむ。受けて立とう、アルファ少年」

「……アイラって、ほんとそういうの好きだよね」

「おっほん。一言で言うなら、見せしめです」

「それはわかるけど、アーシスが言ってたよ。すぐ処刑に移ったって」


 アイラの演算処理なら複数のオペレーションを同時にこなすことは容易い。

しかしこの問に対しては、強い負荷がかかったかのように、回答は遅かった。


「……私は、皆に期待されていました。使命感だけひたすらに進みました。愚直です。今ならいかに愚かだったのかがよくわかります」

「だからって、捕らえておく方が利用価値もあったはずでしょ」

「価値。そうですね。あったと思います。でも私は中心でしたから。あの国にとって宮司は皇帝と並ぶ権力者といえます」

「そこがわからないよ」

「おそらく、五郎臣は負けることのない戦いを楽しんでいたのでしょう」

「ああ、なるほどね。権力者の戦いか」

「はい。権力という力の管理を行っている私達王族の責務となります。私達の命を賭して事を成す必要があったのです」

「責任なんて、そんなもの……そんなことのために」

「それが役を持った者の務めなのですよ、アルファ」



「役割か」

アルファはその言葉を口にして、しばらく思考にふけった。

その邪魔をしないように、アイラは静かに作業を続けた。

船の進路は決まり、ついに動き出す。

宇宙船はあっという間に惑星から離れていった。


「ねえ、未だに思うけど、革命なんてしたところで意味があるのかな」

「何かが、きっと変わるはずです」

「人間は変わらないでしょ」

「それでもちょっとずつ進歩していくのです。世代を越えて、少しずつ」

「ふーん」


「飛躍するけどさ、アイラ。人間は進化すると思うかい?」

「進化とは大きな変化を伴うもの。人間の進化はまだ考えられません」

「そうかな。僕が思うに、進化って理想の姿を作ることだ。今出来ないことを出来るようになる」

「何を言いたいのです?」

「こうだったらいいのに、こんな風になりたい。その姿を象ったのがロボットだ。人間の進化があるとしたら機械達がそうなんじゃないかと思って」

「ですが機械は機械です。アンドロイドは人間かなど私からすれば論点のズレた議論と言わざるをえません」

「ズレた論点ねぇ」


 アイラは今、自分の存在をどう定義するのだろうか。

その問いを投げようとしたアルファに先んじて、彼女は話を続けた。


「例えばキャベツが知性を持ち、会話したとします。それを人かと問われて人だと答える人はいないでしょう」

「まあ、そうだけど。アイラはなんでこんな議論が生まれたと思う?」

「根底に、人間性の保身という本能が隠れているように思えます。人間性を持つ存在をぞんざいに扱うことは、彼らの倫理感に抵触するのでしょう」

「つまり機械じゃなくて、人の尊厳を守るための議論ってこと?」

「私はそう思います」

「なるほどね。でも君はさ、AIに人間の、いわば魂が含まれた稀有な存在だ。ボクには君こそが人間の進化の延長線上にいる気がするよ」

「だとすると、私の存在は革命的ですね」

「あはは。君はつくづくそれが好きだね」



 船は目的地へと進む。

星々の光が暗い宇宙に白い線を引く。

主のために、光の如く船は突き進む。


「ところでアルファ。今日は何の日か知っていますか?」

「えっ? 今日は、っていうかそもそも今日がいつなのか知らないけど、革命が成功した日ってことを言いたいの?」

「いえもっと大事なことです」

「大事な……あー、あの星に滞在した日々は実は外宇宙と時間の流れが異なっていてこっちの一時間があの星では数カ月だったとボクは思っている。思いたい」

「課題提出が間近です。というよりこのままだと遅刻ですね」

「ど、ど、ど、どうしよう。まだ課題出来てない。あ、君にこの革命に無理やり連れて来られたんだから、もちろんやっておいてくれたんだよね? ……だよね?」

「あなたがやらなければ意味がありません」

「なんて冷徹なんだ! 自分で巻き込んでおきながら! そこはちゃんと用意しておくべきでしょ!」

「ずぼらなもので」

「ま、また怒られる! う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


 頭を抱えあたふたするアルファ。

そんな彼に厳しく言いつつも、本当はちゃんと用意しているアイラであった。




 革命を見届けた少年は、宇宙を渡る———




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