表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
15/20

#13 赫炎、燃え尽きるまで

完成しました。どうぞご一読を!

――枯は、それを喜々として床に放った。


愛しの肉人形(オーバードール)>、枯はそう呼んだ。


ならば、先程の猿頭のハトなど、余興に過ぎない。


目の前で腱を、筋を、骨を鳴らしながら肥大化を続ける異形――それこそが、枯の切り札にして罪生(ざいじょう)の本質。


「さぁ、お遊戯の時間だ、オーバードール。上手にお遊びできるかな?」


苛立ちを孕んだ声音とは一転、愉悦に満ちた態度で、枯は僕を指差す。


「ぎああああああ゛゛゛」


断末魔を模倣したような、野太くもぎこちない咆哮。


手足の使い方も覚束ないのか、砕けた骨を軋ませながら、四肢を回転し、這い寄るように迫ってきた。


「......ッ気持ち悪いったらありゃしないな」


図体は2メートルを超えているというのに、動きは妙に俊敏で不規則。


影縫(かげぬい)で動きを止めようとするも、回転し続ける四肢を狙うのは容易ではない。


気付けば間合いは詰まっていて、避けるのに必要な距離は、既に残されていなかった。


そこで意識を”避ける”から”耐える”にスイッチ。そして即座に死念力(テレキネシス)を自己付与。


「ぐらがあああ゛!!!」


次の瞬間、隆起した前腕が、僕を襲う。


鈍い音が響き、その威力に思わず顔が歪む。


「――ッ!!痛ぇ、速い、気色悪い!!三拍子揃って最悪だなおい!」


咄嗟に腕を構え身を守ったが、それでも左腕は骨折、右腕から滴る血流も当分止まる気配はない。


「あはははっ!!!随分と大人しくなっちゃってさぁ!さっきまでの威勢はどーしちゃったの?ヤブサカくん?」


「......名前、どこで知った」


「”あの人”さ。普段は組織でも顔出さないのに、わざわざ出向いての命令だった。だからよっぽど強い死神なんだろうって楽しみにしてたんだよ?町でも沢山殺して、死体調達頑張ったのにさ。それなのに、たった一撃でこのザマでしょ?つまんなーい」


そう言い捨てると、再度枯は指示を出す。


オーバードールが吼え、突進してくる。


だけど、僕だって防戦一方じゃ面白くない。


すかさず僕は構えの体勢を取り、反撃へと移った。


「―ッ<影轢(かげひき)>!」


近付くオーバードールを引き裂き、その一撃を弾き返す。


「......なぁ枯。組織だ何だ、知らないけどさ。僕はシンプルに、お前が嫌いだ。命を玩具(おもちゃ)のように弄んで、その価値を知りもしない。オーバードールも、お前も。まとめて僕が、断罪する」


そう言うと共に、僕の足元に揺らぐ影が、一層濃く、深くなるのを自覚する。


「......トオルくん。それ、まずい兆候だ」


背後で秋宮が呟くが、今は関係ない。


僕は床を蹴り、自ら攻撃を仕掛ける。


垂れる血流には気も留めず、まずは影縫(かげぬい)から。


けれど、先程のように転がり回られては、当たるものも当たらない。


影縫(かげぬい)影轢(かげひき)の中間が欲しいな......我儘(わがまま)にそう思うが、あの二つでさえ、奇跡的に発現したものだ。


ならば、あとは戦略で補完するしかない。


「穿て!<影轢(かげひき)>ッ!」


先制気味に仕掛け、オーバードールは当然のようにそれを反射的に避ける。


だがそれが狙いだった。


折れた左腕で無理矢理狙いを定めては。


「これでも喰らえ――<影縫(かげぬい)>!」


空気が震える。


影から放たれる影糸は、先程よりもどこか邪気を帯びている。


そして、オーバードールの四肢を絡めては、離さない。


「ぎゅらおおお!!?」


動かなきゃ、その図体なんてただの的だ。


駆け寄り、構えては、唱える。


「死術<闇>......」


影が蠢き、右腕を蝕むような感覚を感じながら。


だが、その瞬間だった。


オーバードールは、動くはずも無い表情筋をびくんと動かし、笑う。


「......かはッ」


そして口を裂いては、禍々とした長い舌を、僕の腹へと突き刺した。


――完全に隙を突かれた。


舌は見事に腹部を貫通し、巻き戻した舌には臓物が絡まっている。


それを口へと含んでは、咀嚼し、食いちぎった。


それと同時に、辺りの影が霧散する。


「――今か」


秋宮の拘束が、ようやく解けたようだ。


「どうやら、トオルくんの意識に反応して影は動くようだね。......にしても、君にはもう、聞こえているか分からないけど」


腹部からの大量出血。


脳から血が引いていくのが分かり、思わず足から崩れ落ちる。


すかさず秋宮は駆け寄ると。


「とりあえず、応急処置だけど」


あの日、僕にそうしたように、優しく頬に触れては、じんわりと寿命を流し込んだ。


意識が朦朧とする中、唯一聞き取れたのは。


「ここまで耐えてくれて、ありがとう」――その一言だった。




秋宮は立ち上がり、枯を見据える。


「さぁて、枯だったっけ?俺の弟子をここまでしてくれたんだ。――覚悟は出来てるよな?」


その瞳には、紅く揺れる炎が宿っていた。


言葉と共に掲げた掌からは、炎が零れ落ちる。


瞬く間に辺りは赫々(かくかく)に染まり、断罪の火花が静かに、咲き誇った。


「あーっひゃっひゃっ!!!睦まじい師弟愛だねぇ!いいよ、秋宮紅葉、要注意人物。こんだけの土産持って帰れば、また俺様は褒めてもらえる!」


そう言い、枯は袋からあるだけの死体を取り出すと。


鼠、犬、猫、そして――子供の亡骸。


それらを材料として、尊厳などなく、ただの捨て駒のように。


歪で、異質な歩兵を、次から次へと創り出した。


「さぁお前ら、お兄さんが遊んでくれるってさぁ!脳も髄も臓物も、ぜーんぶ食い尽くせ!」


枯の指示で、錬成した死骸歩兵、そしてオーバードールまでもが、一斉に襲い掛かる。


しかし、秋宮は一歩も引かない。


揺蕩(たゆた)うは灼熱。舞うは(ほむら)――」


掌に炎が宿り、空間を紅に染めていく。


「死術<炎>......<焔還(ほむらがえし)>」


秋宮の手を基にして、辺りを炎が渦巻く。


そして、生きているかのように空を舞っては、死骸歩兵を包み込んだ。


意志なき雑兵を浄化するように、炎は連鎖して燃え上がる。


あのオーバードールでさえ、身を焦がすような業火に苦悶の表情を滲ませていた。


「......どいつもこいつも俺の愛玩動物を次々と!!!」


「沢山創ってくれたみたいだけど、悪かったね」


嘲るような声色で、枯を煽る秋宮。


「......はぁ。もういいよオーバードール。壊しちゃえ」


しかし反応は思ったよりも淡白で、どこかすかされた印象。


命令を受け、全身の大火傷を爛れさせながら、再度秋宮へと突進をするオーバードール。


秋宮は見飽きたかのように、再び掌を突き出すが。


何を考えたのか、オーバードールは振るった前腕を、自らに叩き付ける。


そうして、先程の火傷痕から血が溢れ、肉が水音を立て崩れる。


そして、前腕の片方を肉にめり込ませては、力一杯に引き裂いた。


「......”壊しちゃえ”と”壊れちゃえ”でも聞き間違えたか?」


思わず枯の顔色を伺うが、仮面の奥は自信げだった。


力一杯に引き裂いて、ばたりとうずくまるオーバードール。


しかし、裂けたそれぞれが痙攣し出し、片腕と片脚を対として、二足歩行をし始めた。


「うわあああ気持ち悪い!!!」


思わず秋宮も、絶叫に近い悲鳴を上げる。


裂けた顔面を、人間でいう腰あたりで揺らしながら、分裂したオーバードールは迫ってくる。


流石の秋宮も焦り出し、大技を繰り出そうとするも、先程より身体が軽くなったからか動きが軽快になり、余計に目が離せないという状況。


正確に狙い撃つには標的の観測がマストだが、正直視界に入るだけで二日は寝込むレベルの醜悪さだ。


「<焔還(ほむらがえし)>ッ!」


短期決戦を望み、少し粗雑に技を放つ。


するとオーバードールの片割れは、腕と脚の関節を、常識とは逆の方向に折り曲げ、高く跳躍しては回避する。


それに気を取られている隙にもう片方が急襲し、裂けた口を左右に動かしては、秋宮の右肩、ないし対剣崎で失った右腕の切断面に容赦なく嚙みついた。


「こんの蛆虫(うじむし)が!」


恐るべき咬合力で、一度噛みついたら離さない。


多対一をあまり得意としない秋宮が、二匹の死骸人形に苦闘する中。


噛みついていたオーバードールが、突如として水流に呑まれた。


「......待たせたな、秋宮」


水飛沫(みずしぶき)の向こうから現れたのは、純白の髪を揺らす一人の死神。


局内の異常を察知し、静かに現場に現れた、水卜澪だった。


「......澪ちゃん。ちょっと遅いんじゃない?」


意地らしく、水卜を責める秋宮。


「悪かったな。局内の警備システムが、全てダウンさせられていた」


「どおりで助けが来ない訳だ」


「助けは......来ただろう。私が」


照れた表情の裏腹に、紛れもない自信。


その存在が、どれだけこの状況で光を差すか。


「あははっ、何か安心した。......それじゃあ、澪ちゃん」


「あぁ、反撃開始だ」

ありがとうございました。まだ続きます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ