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死神、はじめました!  作者: Tale
season1 ”種”の出現
13/20

#11 日陰者

特訓です。わくわくです。

研究所を後にし、歩く事数分。


「なぁ秋宮。さっきの、死術についてなんだけど」


「うん。どうしたの」


「僕の属性が、炎と闇って、円間さんは言ってたよな」


「そうだね」


「てことは、僕もお前の死術を使えるかもしれないのか?」


「......どうだろうね。ムキになってるって思われたくはないけど、簡単に使いこなされたら、俺はいい気分じゃないな」


そう、笑顔で呟く秋宮。


その瞬間に、背筋に嫌な寒気を感じた。


そうだ、こいつだってれっきとした死神で、きっと数々の死線を潜り抜けてきたのだろう。


「悪い。言葉足らずだった」


「いいさ。だから前置きをしたつもりだったんだけど。こうなった以上、君の練習には否応にも付き合うし、絶対に最強の断罪担当に仕立て上げてみせるよ。......それに、俺は一人だけ、()()()()()()()しね」


何とも言えない、無機質な表情で言い捨てる秋宮。


「おもむろに含みがあるな。誰の話だよ」


「さぁね、また時が来たら話すさ」


そうして秋宮に白を切られ、少しばかり不満に思うことも束の間。


僕たちは、ようやく目当ての場所に着いたようだ。


「さ、ここがいわゆる、訓練場ってやつだ。完全防音、鉄壁要塞。たとえビッグバンが起こりさえしても、外への被害は一切ないよ」


そう案内され見渡してみると。


別段、稽古部屋のような堅苦しい雰囲気も無く、どちらかと言えば多目的ホールの方が近いような印象だ。


そして、部屋の隅々には、様々な機械が置かれている。


「あぁ、どっかで見たことがあると思ったら。これ、ジムみたいだな」


「そうだね。死神専用フィットネスクラブって感じかな」


そう茶化しながら、秋宮は上着を一枚脱いで、くすんだワイシャツの姿になる。


「さて、この世界では時間は有限だ。早速始めようか」


何が始まるかなんて、説明は要らないよねと目で語る秋宮。


僕も覚悟を決め、学ランをその場に脱ぎ捨てる。なんなら調子に乗って腕まくりまでしてしまった。


「よし、じゃあ最初は死念力(テレキネシス)の復習から。今から俺は、君に対して危害を加えるつもりで、全力で殴りに行くよ。少しでも俺のことを止めないと、怪我しちゃうかもね」


笑いながら言うが、目は笑っていない。


唾をのみ込み、一層身体に緊張感が走る。


「かかってこい。僕は弱いけど、生命力には自信があるんだ」


そう啖呵を切ると。


「はは」


僕を嘲笑するかの如くにやりと笑い、そして指を鳴らす。


それが始まりの合図なんてことは、言われなくても理解した。


秋宮は身体を前方に倒し、まるで倒れ込むかの様子で僕に近づく。


その瞬間、秋宮に対して、明確に怨みの感情を抱いた。


「痛かったぞ秋宮!お前の顔も一発殴らせろ!」


心臓を貫かれた、あの刹那を思い出し、瞬時に死念力(テレキネシス)を発動。


ほんの一瞬、秋宮の脚がもつれたかと思ったが、お構いなしに秋宮は足を進めた。


「はははっ。その調子だ!俺だって怒ってるよ、トオルくん!俺の右腕を、返したらどうだい!!!」


そうして、気付いた頃には遅い。


右頬に鈍痛が走り、僕は床に転げまわる。


口の中には鉄分の味がし、ぺっと吐き出すと歯が二本出てきた。


この瞬間、全身の血液が沸騰したかのように僕の身体は熱くなり、明確に今僕はキレているのだと自覚した。


これは訓練でもあり、喧嘩でもある。


死念力(テレキネシス)で秋宮を止めることなんて正直無理で、それはあいつも自覚している。


いうなれば、これは負けイベントのようなものだ。


だからこそ、僕は藻掻(もが)かなければならない。


何か、ここで一つ、花を咲かせるしかない。


「痛ってぇな、お前。普通、弟子のこと本気で殴るかよ。僕だってキレたぞ。お前に絶対一発、喰らわせてやる」


「言うのは簡単さ。今ここで、やってみせろ」


これが本来の、素の秋宮なのだろう。


素直で、そして戦いにおいて手が抜けない。


根っからの戦闘狂で、殺意を向け合うことなんか、微塵も怖くない。


しかし秋宮。


この状況を楽しんでいるのは案外、お前だけじゃないんだぜ。


僕は昨日のシミュレーションFPSを思い出し、この状況を少しでも有利に出来る何かはないか、そう考える。


よく見ろ。


相手は秋宮。


おそらくハンデとして、炎を使ってくることはなさそうだ。だとしたら攻撃は全て物理。


さっきは何をされて嫌だった?距離感が掴めず、急に接近されたのが失敗だったな。


死念力(テレキネシス)ではほんの一瞬、身体を強張らせることしか出来なかった。


だとしたら。


......きっと秋宮は、自分の力を疑わない。


「さぁさぁ、二発目行くよトオルくん!」


そう言って、再び体をよろめかせ、急接近を迫る秋宮。


その瞬間、僕は憎悪の対象を、()()へと変更した。


そして、自らの身体に死念力(テレキネシス)を掛け、身体を強張らせる。


正直これは賭けだ。


だけれど、これが最善の、()()()()()()()()()()()()()


秋宮はそんなことお構いなしに、二発目の拳を、眉間に放つ。


「ぐお゛っ!?」


そして、酷く激しい鈍痛が脳裏に響くが、僕は依然として立っている。


そう、()()()()()


「......へぇ」


「......かかったな秋宮。今度は僕の番だ!」


目尻から血液が噴き出ていることも露知らず、僕は握り込んだ拳を、秋宮の顔面に叩きこむ。


格闘技経験なんてさらさらない僕だ。


威力なんて大したことはないだろう、それでも一つ言える。


これは、クリーンヒットってやつだ。


秋宮はほんの少し後ろによろめき、そうして少し笑う。


死念力(テレキネシス)を自分に掛ける、か。俺にはない発想だったよ、トオルくん」


「僕の死念力(テレキネシス)では、秋宮の身体を制御するほどの力はない。でも、死神ビギナーの僕は違う。僕は、僕自身の身体を制御できる」


大したからくりもない。


ただただ、鎮痛剤を打ったようなものだ。痛みにのたうち回り、立つことを拒む身体を、さらに拒む。


身体を硬直させ、自分を言葉通り、奮い立たせていただけだ。


流石の秋宮も、まさか自身の殴打の後に、カウンターを喰らうとは思っていなかっただろう。


「はははっ、ははははははっ。やっぱりトオルくんは面白いなぁ。まさに、肉を切らせて骨を断つって感じ?」


ほんの一滴、額から血を流し、再度笑う秋宮。


そうして身体を起こし、これで終わりではないと言い表した。


先程のは所詮、小手先だけの策略(トリック)だ。秋宮相手に二度は通じない。


そこで、円間さんの言葉を思い出した。


......適性は闇。


きっと、これから僕は色んな経験をして、その末にいつか、死術を会得するだろう。


だけど、そうやって後回しにして、開花の(とき)を待ち続けるなんて、あまりに愚策じゃないか?


流れ星だってそうだ。願い続けた奴だけが、夢を叶えるんだ。


「......死術、<闇>」


内側から溢れる成長への期待と、黒く渦巻く何か。


その狭間で、僕は思わず、そう呟いていた。

始まってます、始まってます。

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