異世界経済が財政危機?
社畜が異世界で、経済を立て直す。
経理係長の財務パワーで財政危機の国を救えるか!
異世界を舞台にしたマネーウォーズでは無いかな?
気が付くと、目の前には、自分の無精髭の伸びた顔が写っていた。
モニターに映る自分の顔を見て、
「寝落ちしちまったか・・・」
と小さく独り言を言う。
だが、良く見るとディスプレイに波紋が広がっていく。
目をパチパチとした瞬間、ぼんやりとした視界が急に明るくなり、ハッとして
顔を上げる、そこには、小さな泉の向こうに一面の森が広がっていた。
俺:「えっ!? ここ何処?」
会社で決算業務の最終確認の為に、徹夜覚悟で、会議室にこもって資料整理を
していたはずなのに、何故か森の中?
会社は?俺のパソコンは?決算資料は?夜食のカップ麺は?
お~いお茶のペットボトルは?頭の中がパニックになり、
意味のないペットボトルまで探してします。
どう考えても、会社の中ではない。
俺:「そうか!夢だ!ここ最近ずっと残業続きで疲れていたから、
寝ちまったのか!」
と誰に言うでもなく呟いてみる。
俺:「まるで少し前に読んだ異世界転生モノの漫画の
オープニングみたいな夢だな~」
夢だと思うとパニックも収まり、どうせなら楽しもうなんて考えが
チラリと頭をよぎる。
だが、そんな考えも、ふと頭の片隅で、気になっていた、
伝票の確認作業の事が思い出され、早く起きて、確認作業を進めないと、
明日の朝までに完了して、税理士の先生に資料を送らないと・・・。
と社畜の本能で自然と仕事の事が最優先される。
俺:「自分の意思で夢から覚めるのって どうしたらいいんだろう?」
と小さくつぶやく。
どんな健康方の本にも、安眠グッズの説明書にも、ましてや、
ビジネス教本にも夢からの強制的な目覚め方は、見たことが無い!
起きるには、(1)誰かに起こしてもらう
(2)目覚まし等で機械的に起こされる
(3)十分な睡眠が取れて、体もリフレッシュして、
自然と目が覚める少なくとも(3)は絶対に無い・・・。
(1)も、会議室に入ったのが、夜の10時過ぎだったから、
もう会社には誰もいないはず。
(2)も、寝るつもりは無かったので、用意はしていない。
せめて寝落ち対策でスマホのアラームぐらい
セットしておけば良かった。
試しに自分の腕をつねってみたが、結構普通に痛い!
それに他の感覚もやけに鮮明だ。
すると、目の前の小さな泉の真ん中あたりが突然光りはじめ、
あっという間に周りが光に包まれる。
するとその光の中心にうっすらと、人影が浮かび上がり、
美しい女性が宙に浮いている状態でこちらに話しかけてきた。
精霊:「ようこそモンデフェロンへ!私は、精霊【フィナシア】」
俺:「ようこそじゃね~よ!精霊でも何でもいいから、
この俺を起こしてくれ!」
自分の夢なので相手が誰だろうとお構いなしだ。
俺:「急ぎの仕事が残ってるんだ、さっさと起こせ!!」
精霊:「残念ながら、あなたを元の世界へ帰す訳にはいきません。」
俺:「なんだと!俺の夢なんだから、どこで終了しようが、
俺の勝手だろう!とにかく時間が無いんだ!
早く起こしてくれ!!」
精霊:「あなたには、この世界の救世主になってもらいます!」
俺:「はっ?救世主?ケン〇ロウとかロ〇の勇者みたいな?」
とっさに出た妄想のキャラがいささか古い事に自分の中で、
少し恥ずかしくなった。
精霊:「あなたのその経理能力で、この国を、このモンデフェロンの
財政危機を救って欲しいのです」
俺:「財政危機?」
最近、不景気だなんだで、世界的にあちこちが財政危機だの
財政破綻だのと騒いでいたが、異世界で財政危機?
自分の夢ながら、設定が無茶苦茶すぎて泣けてくる。
夢の中まで、現実の危機感がにじみ出てしまったかと情けなくなる。
精霊:「このモンデフェロンは、かつては、安定した気候と、
豊かな大地に恵まれ、国民達も幸せに暮らしていました。
しかし1年前からの異常気象により、大地は荒れ、
作物も育たなくなり、皆苦しんでいます。
あなたの力で、このモンデフェロンの財政を
立て直して頂きたいのです!」
俺:「えっ?財政を立て直す?
救世主って、魔王倒したり、悪いドラゴン退治したり
するんじゃないの?」
せっかく異世界モノの夢なのに、もう少しロマンが欲しいと
思ってしまう。
精霊:「今、この国は、財政は切迫しています。
しかし国王の【ニアス】は、自分の保身の為に、
民に重税を掛け、城に閉じこもって贅沢三昧!
このままでは、国民は飢え、国は滅んでしまいます!
無駄な支出を減らし、新たな財源を確保して、
この国を建て直して欲しいのです!」
俺:「何か、急に話が、水戸〇門みたいになってきたな。
悪代官的な?まあ、大変なのはどこも同じだよ。
それにただのサラリーマンにそんな大層な事は無理だよ!
どうでもいいから、とにかく早く夢から出してくれ!!」
精霊:「これは、夢ではありません。あなたは、選ばれたのです!
転生者として、救世主として、この国を救う運命なのです!」
俺:「はっ?転生?ちょっと待って!これ夢じゃないの?
どういう事なの?最初から説明してよ!」
精霊:「そうですね。突然の事であなたも驚いている事でしょう。
順を追ってご説明しましょう。
ここは、あなたの住む地球とは異なった次元に存在する
モンデフェロンの、パーヨッロ大陸のケランチ王国です」
俺:「モンデフェロン?パーヨッロ大陸?ケランチ王国?」
精霊:「先程も言った様に、この国は、異常気象による飢饉で
国民は皆、疲弊し、国内経済は大混乱を起こしています。
それなのに国王は、民衆を守るどころか、
自分の事だけを考え城にこもったまま。
このままでは、国は崩壊し、国民は皆、飢えで
死んでしまします。
国の財政を立て直し、国民達の豊かな生活を
取り戻さなければなりません。
その為に、異次元から救世主を召喚したのです」
俺:「えっ?それで俺?何で?」
精霊:「適任者を探している時に、あなたの凄まじい
経理パワーを感じたのです!」
俺:「期限が迫ってて鬼気迫ってただけだと思うけど・・・」
精霊:「あなたのその経理パワーでこの国を救って下さい!」
俺:「無理、無理!ちんけなリーマンに国家財政の
再建なんて出来るわけないでしょ!
何か話が急展開すぎて、訳分からなくなってきたけど、
夢でも転生でも何でもいいから、元に戻してくれ~!
仕事が!業務が残ってるんだよ!!」
社畜感丸出しで、目の前の非現実的な光景に向かって思わず叫ぶ。
精霊:「この国を救わなければ、あなたは帰れません!」
俺:「はっ?何で、呼んだんだから戻せるでしょ!
勝手に救世主だなんだ言われてもね、
俺は今、1年で一番忙しいんだよ!それどころじゃないの!!」
精霊:「あなたを召喚するのに、莫大な資金を投入して、
魔力の宝玉を集めたのです。あなたを元の世界に送り返すには、
その魔力の宝玉が、倍の量必要です。
その為には、300万フラエが必要です。」
俺:「300万フラエ?」
精霊:「あたなの世界のお金で、約3億円です」
俺:「3億!? えっじゃあ、1億5,000万かけて、
俺をこの世界に呼んだっていうのか?」
精霊:「そうですね。さすが経理!計算早いですね。
正確には152万9,000フラエです」
俺:「端数とかどうでもいいんだよ!そんな経費かけて
何で、俺なの?もっと呼ぶべき人いるでしょ!
異常気象を治す呪術師とか悪い王様倒す正義の勇者とか!」
精霊:「この異常気象は、国王の無理な開発による自然破壊が
原因です。大地を元の姿に戻せば、異常気象も収まるはずです」
俺:「自然破壊って、環境破壊の事まで俺にはどうしようも無いよ!
せいぜいペットボトルをリサイクルするのが精いっぱいだよ!」
精霊:「いいえ、生活も環境破壊も全ては、経済活動から
成り立っているのです!人間が生活するには、
経済活動が必要です。しかし無理な経済活動は、
自然破壊や様々な歪を生みます。
このモンデフェロンは、そのバランスが
大きく傾いています。あなたの力で、
そのバランスを取り戻してもらいたいのです!」
俺:「何だか、話が凄い事になって来たな」
精霊:「あなたなら、必ずこの国の財政を立て直し、
国民を救ってくれると信じています」
俺:「勝手に信じないでよ!!っていったい俺に
どうしろっての?」
精霊:「やる気になってくれましたか!さすが救世主!!」
俺:「無理やり引きづり込んでおいて、さすがもやる気も
救世主もあったもんじゃないな」
精霊:「まあ、まあ、国が豊かになれば、あなたを送り帰す魔力の
宝玉もきっと集められるはずです。
そうすれば、元いた次元の、元いた時間に戻れるはずです」
俺:「元いた時間なんだ、もう少し前の時間に戻れないかな・・・。
そうすれば、確認作業も、もう少し余裕を
持って出来るんだけど・・・」
精霊:「分かりました、送り帰す時には、少しだけ時を
巻き戻して差し上げます。
ですから、この国を助けて下さい!」
俺:「何かよく分からないけど、戻る為には、やるしか無いんでしょ?」
精霊:「まあ、そうですけど」
俺:「分かったよ、上司の無茶ぶり以上の無茶ぶりだけど、
やるだけの事はやりますよ!」
精霊:「ありがとうございます。
改めて、私は、この森の精霊【フィナシア】
この森を守護する者です」
俺:「俺は、ライトグレー商事 経理係長 外内 賢一郎だ。
それで、フィナシアでいいのかな?
とりあえず何から始めたらいいんだ?
俺はまだ、この国の事が何も分からないんだが?」
フィナシア:「この森を抜けた先に赤い屋根の洋館があります。
そこに【エファルト】という青年がが住んでいます。
彼に、精霊のお告げとして、
[今日、この国を救う救世主が降臨する]と
伝えてあります。あなたが私の名を告げれば、
きっと協力してくれるでしょう。
彼と力を合わせて、現国王の悪政と浪費を
食い止めて、国民の豊かな生活を取り戻して下さい!」
外内:「何か設定が強引な気もするが、分かった。エファルトさんだな。
まずは、この国の事を色々教えてもらわないとな」
フィナシア:「外内さん、この国をよろしくお願いします。
何か、困った事があれば、この場所に来て下さい。
私は、この静寂の泉にずっといますので」
外内:「まあ、どこまでやれるか分からないけど、頑張ってみるよ!」
俺は、エファルトさんの洋館を目指して森の歩きはじめた。
ふと、自分の様子を確認してみた。
服装は、会社にいたそのままで、Yシャツにスーツのズボンのままで、
ズボンのポケットには、サイフとハンカチだけが入っていた。
スマホでもあればと思ったが、どうせ圏外だし、充電も無理そうだと思った。
ネット社会に慣れ過ぎて、つい何でもスマホやPCで検索してしまうが、
いきなり何も無い世界に放り込まれても、意外と焦りは無かった。
まだまだ、ド素人が試行錯誤中です。
色々勉強と調査をして、ワクワクする様な展開を考えていきたいです!