エピローグ②
しばらく呆然としていた二人だったが、ふと何かに気付いたように顔を、怪異が向けていた方向へ向けた。
民家の屋根の上に、何者かが立っていた。
太陽のように輝く襟巻と、それに照らされた紅の鎧が黄昏の空を思い起こさせる、奇妙な出で立ちの騎士らしき人物だった。
謎の騎士は二人が見ていることを気にした様子もなく、屋根の向こうへ身を翻した。
我に返ったライカがすぐさまその後を追おうとしたが、先に動けるようになっていたミスロがそれを止めた。
「まずは周囲の安全の確認と、それから報告だ」
「そ、そうね……」
今までの出来事を中々受け入れられず浮き足立つライカを尻目に、ミスロはため息をついた。
「ねぇミスロ、私、夢でも見ていたのかしら?」
「そんな訳ないだろう。ほら、さっさと行くぞ」
ライカへ現実を突きつけ、ミスロは騎士が去っていた方向を一瞥すると、仕事を全うするべく行動を開始した。
ααααα
アルファが目を覚ますと、まだ夜中だった。
よくわからないが、誰かに呼ばれたような気がしたのだ。もう一度眠ろうとして、ふと何かに思い至ったようにベッドを抜け出して部屋を出た。
そして、向かい側の部屋の前に立つと、中で動く気配があるのを確認してから、ドアを軽く叩いた。
「……アルファか?」
「うん」
アルファは小さな声で返事をする。時々、まだ明るい階下へ気を配りながら、期待のこもった声でドアの向こうへ質問した。
「ねぇ、呼んだ?」
「……いや、呼んでいない」
「そうなんだ」
少しだけ残念そうにしながら、しかしすぐに苦笑を浮かべる。
「ごめんね。おやすみなさい」
「待て」
そっと離れる様子が寂しそうで。
あぁそう言えば、まだ言っていない事を思い出して、
ドアを開けると、寝間着姿のアルファが、嬉しそうに見上げてきた。
「誕生日、おめでとう、アルファ」
そう言ってやると、アルファの顔が華やいだ。これから眠るというのに、そんなに興奮して大丈夫かとも思うが……まぁ、問題はないか。
「さぁ、もう寝るんだ。そろそろゼットが上がってくるぞ」
「うん、わかった」
アルファは部屋へと入る直前に振り返り、小さく手を振ってきた。
「おやすみなさい、ヴァンドラお姉ちゃん」
「あぁ、おやすみ」
ドアが閉じてしばらくもしないうちに、自室に入ったアルファは健やかな寝息を立てて眠りに入った。
しばらくして階段を上がってきたゼットパパが、アルファの部屋を一瞥して微笑みを浮かべた。そして、向かいの部屋へ視線を向ける。
「大丈夫か?」
珍しく気遣うような様子のゼットだが、問題ない事は知っているだろう。
だから、私もこう返した。
「問題ない。それより、奴らが現れたということは……」
「あぁ、これから忙しくなりそうだ」
ゼットは背伸びをすると、踵を返した。
「いざと言うときは、アルファたちを頼む」
「あぁ」
まぁ、そのいざと言うとき、という事態は限りなく起こりえないだろうが。
「なぁ」
「なんだ?」
「その、パパはやめてくれ……お前の友人たちに報告するなら、俺の名前でだな」
「娘に褒められて調子に乗る輩には丁度いい紹介の仕方だろう?」
さて、半分冗談の話はこれくらいにしておいて、私はとっとと自分の研究に戻るとしようか。
「おやすみ、ヴァンドラ」
「おやすみ、ギルフェンセィア」
ギルフェンセィア。
そう呼ばれたゼットは肩を竦め、手を軽く振りながら階段を降りて行った。
こうして、平穏の裏側で闇が蠢いた夜が過ぎて行った。
止まっていた何かが動きだし、世界が、全てが闇に包まれようとしている。
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