流星の夜
新作です。よろしくお願いします。
最初に見たのは、お日様のように眩しいけれど温かい光の襟巻と、夕焼けのように綺麗な赤い鎧を纏った誰かの姿だった。
その人は騎士なのかもしれないと思うけれど、この瞬間の私はそれが人の形をしていること以外わからなくて、掲げられた光輝く剣にも恐怖を覚えず、ただ優しい光にそわそわしていた。
騎士は剣を掲げ、私を見下ろしている。振り下ろそうとしているようだけれど、その姿勢のまま動かない。何かを迷っているような、躊躇っているような気がした。
少しだけ視線を上へと向ければ、どうやらここは洞窟のようで、柔らかい燐光が壁面を照らしている。
天井にぽっかりと空いた穴から、空の海と雨のように降り注いでいる流れ星が見えた。
綺麗だなぁと思っていると、
「そこのお前、何をしている?!」
その時、戸惑いと怒りの感情を乗せた女の子の声が耳に届く。首を動かしても、角度や位置の問題からその姿は見えなかったけれど、その声にはどこか聞き覚えがあった。
赤い騎士は少しだけ首を後ろに回し、剣をそっと下ろした。まるでちょっとだけ安心していて、悔やんでいるような気がした。
「貴様、その赤子から離れろ!!」
怒声と共に固い地面を蹴って駆け寄ってくる靴音が聞こえる。
「はぁぁぁッーなっ…ぐわぁぁぁっ?!!」
でも、私たちに近づいてきたところで、声がまた遠ざかる。地面に体が擦られ、転げる音と共に、カラン……と剣も転がり落ちたらしい。
「けほっ、けほっ……やめろ……」
苦しそうに咳き込みながらも、声の人は騎士へと怒りをぶつけている。
けれど、騎士はそれを無視して私へと向き直り、再び剣を掲げる。
あぁ、この騎士様も剣も綺麗だな。この瞬間、殺されかけている状況にも関わらず、私は暖かな気持ちでそれを見上げていた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
悲鳴が木霊して、何かを振り切ろうとするように騎士が微かに動いた時―
―笑って。
どこからか、女の人の声が聞こえてきた。それが目の前の光のように温かくて、優しくて、ずっと聞いていたくなる。心がさっきまでとはまた違う穏やかさに包まれていく。
―笑って。
愛しい誰かの声に、私はきゃっきゃっと笑った。
その時、騎士は声にならない苦悶を漏らし、振り上げていた腕から剣が零れ落ちて、まるで解けるように光の粒になって消えた。
『できねぇ……』
苦しそうで、悲しそうな男の子の声。
笑いかける私を見下ろし、騎士は腕をがくんと降ろす。
『できねぇよ……ちくしょぅ……俺がやらねぇとダメなのに』
今にも泣き出しそうな声に、今の私はとても悲しい気持ちになって声をかけたくなったけれど、彼には絶対に届かない。その時の私は何も知らずに騎士へと笑いかけ、手を伸ばそうとしている始末だ。
そんな状況を破ったのは、さっき騎士へと駆け寄ってきた女の子の声だった。
「……貴方が、その子を育ててみてはどうだろうか」
『…………え?』
騎士が振り返る。
「何を迷っているのかは知らない。聞きもしない。だが、もし貴方さえ覚悟があるのなら、その子を育て、見守るのだ」
さっきまでの怒りと敵意が消えて、どこか戸惑いと警戒を織り交ぜながらも、気遣うような声は、あぁ、そうだ。これから先、私のことをずっと見守ってくれる人のものだ。
『俺が……この子を? 育てる……?』
そして、私を再び見下ろす男の子の声は、もっと身近で私の事を見守ってくれて、大切にしてくれる大好きな人のもので。
燐光の中で、騎士の兜がすぅっと消える。
現れたのは、今も昔も変わらない顔立ちで、泣き出しそうな表情をした―
『あぁ、決めた。こいつの名前は―』
お読みいただきありがとうございます!
これから少しばかり、彼女たちのお話に付き合っていただければ幸いです。




