もし、乙女ゲームの世界に攻略対象転生してしまったら
ある日、親父の再婚相手とその娘に会った。
近隣の百貨店に入っているレストランで食事(4000円のコース)をしながら顔合わせ。
親父の再婚相手は茶色の落ち着いた髪の色をした、それでいてやけに若い印象だった。
その娘である現実的にあり得ない淡いピンク色の髪の少女を見た瞬間――
ゲッ!
コイツ、乙女ゲーのヒロインじゃねーか!
って、ことは俺、もしかして乙女ゲームの世界にいるわけか?
なんで乙女ゲーのヒロインとか知ってんだよ。
前世は女だったのか?
TS転生したのか?
前世の俺はアクションゲームをこよなく愛していた。――それも乳揺れを。
ついでにDLCで好みの服を買ったり、水着を着せるために散財したり・・・。
よし!
男で間違いないな。
そんな俺がどうしてこの少女が乙女ゲーのヒロインだとわかったかというと、異色の乙女ゲーとしてゲーム雑誌に紹介されていたからだ。
この乙女ゲーは確か――攻略対象の性格と外見が気に食わないからと自分勝手に殺しまくるゲームだ。
好みじゃないなら、はじめから買うなよ!
もしかして攻略対象だったら殺さるとか?!
自分の死を何度も体験するのも嫌だが、それまで生きてきた人格を殺されるのは、俺という存在を否定するってことだもんな。
冗談じゃない!!!
悪役令嬢の悲惨な結末から逃れるために足掻くってのがweb小説で流行ってたが、殺されまくる攻略対象なんてやってられっか!!
こうしちゃいられない。
まずは自分が攻略対象かどうか確かめるのが先決だな。
ゲームの主要な登場人物はあり得ない髪の色が多いから、きっとこの乙女ゲーも同じはずだ。
俺の親父は灰色というか、黒っぽい髪の色。それなりの年齢だが、加齢臭とは縁のなさそうな感じがする。
ここで既に乙女ゲー補正がかかっていたか!
ヒロインの母親のは茶髪。
どうやら、ヒロインの両親(片方義理だが)は地味な髪の色らしい。
俺の母親も親父のほうの家系も東洋系の血しか流れていないから、ゲーム補正を受けていても俺は黒っぽいか、茶色っぽいと思う。
自分の姿を確認しようと思ったが、ここで突然、トイレに立ったらまずい!
俺は慌てて、姿の映る手近なものを探した。
ナイフか水の入ったグラスならなんとかなるかもしれない。
ナイフに映っている髪の色は明らかにおかしい。
ヒロインは目の前にいる。じゃあ、それ以外で常識的にありえない髪の色は――
攻略対象・・・だ。
今までよく自分の髪の色に不自然さを感じなかったな。
この乙女ゲーよく知らないから、自宅が安全かどうかもわからない。
いつ殺されるかわからないのに同じ家に暮らすなんて、無理無理無理無理。
耐えられない。
それに自宅ですら気を抜けないなんて、殺される前にストレスで死んじまう。
「親父。思春期の血の繋がらない男女が同じ家で暮らすのはよくないと思うから、一人暮らしするわ。同じ学校に通うなら学校で色々あるから、その子も以前の苗字のままで通ったほうがいいと思う。俺、風紀委員長だし、示し付かないよ」
「流石だな、鎌足」
一話目の関西弁がおかしい:
「マキ。この関西弁おかしくない?」
「この段階で使うなら『なんて言うん?』だけど女言葉だと思われちゃうし、『なんて言うんや?』だとちょっと押しが強すぎるからね。色々混ぜてわからないようにしたんだよ(笑)。そうしないと、チャラ男感や陽気な雰囲気出ないし」
「ええー?!」
「関西弁、話していたら陽気に聞こえるっていうのは、幻想なんだよ。新喜劇見てみ?」
攻略対象の名前がおかしい:
「私につけさすからだよ。3人だから3回名前変わる人でいいかなって。ツバス、ハマチ、ワラサでなかっただけマシだよ。そう思わない? あとは色々やりすぎて高い鼻を折りたかった人たちから。平家の名前は清盛くらいしかわからないから、歴史上馴染み深い名前を採用(笑)」
(ネーミングセンスのないマキに命名権を与えてはいけない)