第一話
人間社会において、魔術師はテロリズムを遂行する罪で疑われやすい。
実際私たち魔術師は家畜以下同然と取り扱われている。厳密に言えば、『壊滅の魔女』が世界を滅ぼしかけたという暗黒歴史があったからだ。
それ以降は人間社会は魔術師を信用できなくなり、魔力を持たない者は魔力を有する者に対して恐怖感を抱き始めた。
「見ちゃダメよ、魔術師がいるのよ!」
「くっそ、何でまた帰ってくるんだ!?」
「本当に死ねば良いのに」
道路を歩む私に愚痴が叩かれた。
やれやれ、久々の町というのに、人種差別は変われまいな。と内心で呆れる言葉を吐く私は鞄を肩に背負いながら町道を歩む。もっともうちの家庭屋敷に向かう道中である。遭遇する連中に一切言葉を交わず、背後から憎しみを感じとった。
「ゴキブリめ、いつ死ぬんだよ?」
生憎、私は死にたくないので近いうちに死なないよ。
物心をついた頃からこの扱いだ。慣れっこだよ。
気づけば私が向かう豪邸屋敷に到着した。屋敷は木材色がメインの色だが、実際はレンガでできている。
私はその屋敷を堂々と入り、
「おはようございます!」
「おはようございます、アイラ様。そしてお帰りなさいませ」
「ただいまぁー、ていうか『様』は付けないで下さい。私はリムちゃんと同じ使用人だからね」
入り次第私を出迎えたのが、黒い装いや白いエプロンを纏う女の子だった。
名前は市野崎リム。歳は私とあまり変わらない十七歳程度。
ちなみに私は綾正愛楽。この屋敷の主人の一女である。
「そうですね、アイラちゃん。早く中へ。ご主人様がお待ちですよ」
「えぇ、そんなに娘に会いたがるのぉ?まぁ、仕方ないか!でも、その前に父上に着替えてから行くって伝えてちょうだい」
「いいえ、ご主人様は今すぐにと仰っていました」
首を振って真剣そうな表情を浮かぶ彼女に、私は固まった。
「よほど重要な話があるんだそうです」
「え、嫌だな〜。なんか嫌な予感」
正直、本当に嫌な事が起こりそうだ。
それによって私は先に父の所に行った
◇ ◇ ◇
私が立ち止まった先には派手な装飾で飾られている茶色の扉だった。
扉から何かジメジメした声が耳に入り、人がいる事の証明だ。
私はトントンと扉をノックし、リムちゃんと一緒に入った。
「失礼しーーー」
「お帰り、愛楽ちゃ〜ん。お父さん、会いたかったよ、ぐはっ!」
突然出迎えたのが綾正家の頭首にして、私の父である。彼が唐突にぎゅっと抱きしめようとするのは予想内である故、私はその顔を抑え、回避している。
「父上、何やってるのですか!?離れなさい、気持ち悪い!」
「だってだって、半年間全然会えなかったのではないか」
「半年間は学校に行ったからじゃないですか。それに会わなくても、スマホでいつも電話してるじゃないですか!」
そう、規律をちゃんと守れば、うちの学園から親を電話する事が可能とされている。その許可がある。
私の返答に父は眉を顰めて、悲願を伝える。
同時にまるでキラキラとしたウィンクの眼差しで、私の内心に嫌な感情が覚える。
「ダメかな?」
「ダメです、父上」
最後にしょんぼりそうな顔を浮かべて、シクシクといつでも泣き出せるような表情を浮かべた。
そんな事したって、私の心は動揺しないよ。
この状況におかれ、ふと重要な事に思い出した。父はこの部屋、自分のオフィスルームに招待したのは何かの用事があってのことだろう。
「父上……そろそろ本題を」
父の後方を見やると、そこには三人の女がいる。それぞれソファに座っていた。
左から私の継母と腹違いの妹、そして私の産みの母。
状況や空気から察するに、どうやら妹が何かやらかしたのだろうと大雑把の予想が付いた。
父は咳払いし
「コホン……そうだね、早く本題に入ろう」
父は一変に表情を顰め、仕事モードに入った。
◇◇◇
私は省略した呪文を詠唱し、リムが運んだティーカップに紅茶を淹れる。もっとも、そのティーカップは浮いて、自意識があるように、紅茶を注ぐ。私は浮いてる状態でそのまま飲む。
私の振る舞いにいちいちコメントを割って入れない父には感謝。一方、私の産みの母ーーリリアは私の振る舞いに呆れるような吐息を漏れ出し、私の黒髪を引っ張った。
「痛いです!」
「ちゃんと聞きなさい!」
「聞いてるよ!」
髪が引っ張られるまま、私は会議の内容を確認する。
「つまり、最近では魔術に関する法律が変わったって事なのですか?」
私の確認が一致してるのに父は頷く。
父は両手を顎に添えて、
「そうだよ、少なくとも良い方向にね」
「例えばどんな感じですか?」
「公の場で魔術を使用できるようにだ」
魔術の使用か、どこか喜ばしい知らせだ。ただ、つい先まで通った道においてまだ愚痴を吐く者がいる。
「日本の北部では魔術研究所がある。正確にはインドネシアから輸送された杖の研究だ」
「ーーー杖?」
杖か。それが何を指しているかわからない。
普通の杖なら、木の枝や小さい魔石の結晶をくっつけてできた物だ。高級かつ代物のやつであれば人間ほどのサイズなんだけれども、実際何で研究されるのだろう?
困惑した私の心情を察したか、父はリムちゃんに命じて、テレビを映すようと頼んだ。
そして、ある画像が表示される。
画面上、紫色に包まれる杖の写真だった。映えている杖はどこか枯れて、カビが生えているように見えて、魔石の結晶は青色でできている。
「何ですか、この杖?もしかしてさっき言った物ですか?正直に言えば、この杖は不思議な物です」
「あぁ、わかっている。だが、この物騒で不思議でいっぱいこの杖は何かを隠している。派遣された魔術師によれば、汚染された魔力が宿っているらしい」
「え、ちょっと待って。『汚染された』ってどういう事ですか?」
「さあね」
肩をすくめる父ーーーー綾正賢治は首を振っている。
「姉ちゃん、魔術師なんだから、詳しいんじゃないの〜?非魔法使いの私たちに聞かれていても、わかりっこないよ〜」割って入れたのは妹ーー綾正彩音。
彼女はなぜか、私を見下して笑っている。
彼女には姉に対する敬意等が一切感じ取れなかった。
ここで頬っぺたぐらい引っ張ってお返しでもしたかったものの、我慢だ。
「お姉ちゃんは魔術師だからって、調子乗らない方がいいよ。私の学校じゃあ、魔術師嫌いが多いよ〜。ていうか、軽々とお父さんに話を進めるなっつうの!」
徐々に話し方のイントネーションが高まった。
ていうか、今杖の話をしようとしているところだろ?
「父上、なぜこの話を家族の前にするんですか?」
「それはね、貴女とリリアにこの杖のことを見せたいって。何か最近ではやたらと危険地帯が広まったからね」
父が回答する前に、先に口を開いたのが継母である綾正由美だった。彼女は紅茶を優雅に啜り飲み、この家の正式な妃らしい振る舞いだ。
「本当ですか?まさか、この六ヶ月間でそのような事が……」
信じがたい話だ。危険地帯が広まった話なんて、壊滅魔女の歴史以来だ。危険地帯は魔力の毒で汚染された区域。まさかそれが起きるとは思わなかった。
「で、どこで起きているんですか、この日本ですか?」
「インドネシアの砂漠でですよ」
インドネシアの砂漠区域か。二十一年前に砂漠化したインドネシアの領域。完全に断言できないのだが、多分今話している杖はそこから由来しているかもしれない。
私の推測は正解かののようで、父は何も言わずに頷いた。心中を読む能力でも持ってるのか、この人?ありえない話だけど。
「で、私はどうすればいいんですか?」
私は結論を求めて、問い始めた。結局、このオフィスルームを使うまで、何が重要であるか、確認したい。
「まさか、インドネシアに行けとか、研究に参加しろなどと」
「そのつもりは無いよ」
即座に父から返答された。結局目的は何か、不明だ。
「ただ、魔法が使用できるようになったんだけど、この法律はまだ完全に公開されていない。だから、リークを伝えたかっただけで。あ、後は研究の事も内密にして欲しい」
ーーーはっ?それだけ?
私は机をドンと叩いて、立ち上がって、父の前に暫くだった。完全に腹が立った今の状況において、魔法を使いたくなる。
できれば、天井の外まで貫ける程の魔法を。
私は詠唱を早口で唱えて、父の体は浮かんでくる。
「あ、あ、ああああっっ!」悲鳴を上げた父を構わず、私は詠唱し続け、次第に天井の方へと向かせた。
「やめなさい!」
リリア母は省略した呪文を唱えてーーー
ーーー
数分後
結局、この会議は無駄に終わった。




