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第4話 不穏な影

 私は、このカリスト領で育ち、この街がとても好きだ。


 思い出も沢山ある。懐かしさを感じつつ、駅馬車までの道程を楽しみながら、花屋の女将さんと挨拶を交わす。


 いつまでも色褪せない懐かしい街並、古くとも頑強な作りの孤児院を通り過ぎ、メアリーとの出会いや、懐かしい幼少時代、少女時代の記憶が蘇る。


──今でもとても大切な思い出だ。


 大人になって歩く街並は、違って見えた。まるで、多くの歯車が忙しなく回っている様な営みを感じる。


 でも、一つ一つが輝いて見える。自分の役割を全うするかのように。


「この街とも、お別れになるのね…。」と感傷に浸りながら、エリスとともに歩む。


〜〜〜〜〜〜


 しばらくすると、駅馬車乗降場へ到着した彼女は、受付へ向かい、声を掛け、ドラン帝国行きの馬車の時間を確認し、切符をニ枚購入した。


 一枚は私、もう一枚はメアリーの分だ、時計を見ると、出発は午後三時だから、まだニ時間近くある。


 テティアは、探索魔法を発動する。予想通り、こちらを監視していることを確認する。


 椅子に腰掛けエリスと共にのんびりと待つことにした。


 駅馬車の待合室で、テティアはクーファンの中のエリスを見守りながら、密かに『実験』を繰り返していた。


 探索魔法の精度を上げつつ、全身の魔力循環を整える。掌握した魔力量は、学生時代とは比較にならないほど膨大だ。


(魔力とは性質の違うこの力……加護の源泉は、どう扱うのかしら)


 全身を巡らせるのではなく、ただ、完成された結果を思い描く。自然と答えを導き出す。それは、加護の影響かそれとも彼女の才能か。


(……イメージよ。事象そのものを、そこに具現化させるのよ!)


 テティアは無意識のうちに『神力』の本質へと至る。数式が魔法を解くような論理の産物なら、これは白紙に絵を描くような純粋な意志の力。


(魔法を介さず、全属性が私のイメージ一つで形を成す……! 『出来た!』凄い、これなら既存の魔法体系すら超えられるわ!)


 元魔術学院を首席で卒業したテティアは、魔術の造詣ぞうもうが深く、一度、好奇心に突き動かされると止まらない。


 そうして彼女は、エリスへの精神干渉という名の『接続(読心)』を試みる。


 すると、世界の記録と共に、一瞬にして膨大な情報の奔流が流れ込む。


(何これ!? エリスちゃんが視ている記憶!いいえ!これは……、『世界の情報 』なの!?凄いわ、女神の全能の一端なのね……!)


 ことわりを理解するたび、テティアの練度は恐ろしい速度で向上していく。


(……お母様、意外と天然な天才肌なのじゃな。精神干渉してくるとは思わなんだ、焦ったのじゃ……)


 娘のそんな困惑も露知らず、テティアは『女神の母』としての自覚を強めていた。


~~~~~~


 カバンには、二人分の隣領までの乗車券が入っている。時計塔の針が、出発の時刻を告げた。


「テティア様――! お待たせいたしました!」


 大きな荷物を抱えたメアリーが、汗を光らせて駆け込んできた。


「メアリー! 本当に来てくれたのね、嬉しいわ!」


 テティアは満面の笑みで彼女を迎え、手元の切符を渡した。


「でも、これからは『様』はなしよ。私たちは平民の姉妹として旅をするんだから。いいわね、メアリー?」


(姉妹じゃなくて、恋人がいいなぁ……)


 邪な願望を隠しつつ、メアリーは瞳を輝かせて頷いた。


「はい! よろしくお願いします、テティア……お姉様!」


 三人を乗せた馬車が、ゆっくりと動き出す。幸運にも貸切状態だ。


(さて……監視されているわね。予定通り、好都合でいいわ)


 テティアは静かに、索敵魔法を周囲二キロまで展開した。


(怪しい気配は四つ……殺気を放つ三人組と、単独が一人。単独は父の差し金かしら。……あら、さらに遠巻きに二組。裏路地の者と、並走する馬車の中。なかなかの大所帯ね)


 監視者たちの武器や位置をくまなく把握しながら、テティアはわざとらしく大きな声でメアリーに話しかけた。


「メアリー、まずは隣領の街で一泊してから、隣国へ亡命するわよ!」


 事情を知らないメアリーは、我が意を得たりと元気に同意した。


「隣国への便といえば、ドラン帝国ですね! テティアお姉様、目的地は帝国ですわね!」


「うふふ、そうね。楽しみにしておいて」


 窓の外に流れる住み慣れた街並み。駅馬車でのワザとドラン帝国へのルートを確認したりと、痕跡を残す。


 テティアは密偵たちを攪乱するための『情報』をばら撒きながら、心の中で本当の協力者へと想いを馳せた。


(まずは隣国で生活基盤を。早急に三人で暮らせる家を確保して、エリスちゃんを健やかに育てる環境を整えないと……)


 メアリーは『姉妹』という言葉を最大限に利用し、テティアの隣の席を確保すると、ジリジリとお尻を滑らせて密着した。


「メ、メアリー、くっつき過ぎよ」


「姉妹ですから!これぐらいの距離は当然です!」


 メアリーは、テティアの腕に自身の腕を絡ませ、テティアの肩に頭を乗せ、鼻歌を歌って、これから、逃避行するようには見えない。


 テティアは苦笑いしつつも、嫌な感じは無く、寧ろその行為が嬉しくて、メアリーの好きにさせるのだった。


 街の喧騒が遠ざかる。三人は、それぞれの覚悟と期待を抱きながら、故郷に別れを告げた。

ここまで読んでくれてありがたいのじゃ!

よかったらのぅ評価もお願いしたいのじゃ⭐

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