大罪人の娘
セレンの家で一晩過ごした煉太郎達は朝食の準備に取り掛かる。
セレンが朝食にとラズベリーを大量に摘んで来てくれたので煉太郎はこれを使ってジャムを作ることにした。
まずはラズベリーを水洗いして水気を取り、同じ量の砂糖を入れて弱火で煮込む。
ラズベリーをヘラで押し潰しながら煮込み、灰汁が浮いてきたら丁寧に掬い取り、レモン汁と蜂蜜を少々入れてさらに煮詰める。
水分がなくなったら火を止めて、冷やして瓶に入れればラズベリージャムの完成。
異空間に収納している焼き立てのスコーンとセレンが淹れてくれたハーブティーをテーブルの上に並べる。
「わあ、綺麗ですね」
瓶に入ったラズベリージャムを見つめながら思わず声を漏らすセレン。それはまるで赤い宝石のようだった。
セレンは匙を手にして瓶の中のラズベリージャムを掬い上げてスコーンに乗せると、そのまま一口食べる。
「うわあ~!」
口にした瞬間に広がるのはラズベリーの酸っぱさと砂糖の甘さ。
とろりと口の中に広がるラズベリージャムの風味を味わいながら噛むと、まだ形が残っているラズベリーの実が潰れる。
スコーン自体は僅かにバターの風味があるが、味が殆どない。たが、ラズベリージャムと一緒に食べることでバランスの取れた味となる。
「このラズベリージャム、セレンが淹れてくれたハーブティーに合うね」
セレンが淹れてくれたハーブティーにラズベリージャムを入れて飲むフィーナ。
スッキリとしたハーブティーの爽やかな風味とラズベリージャムの甘酸っぱい風味が合わさり、絶妙な味を引き出している。
「こんなに美味しい紅茶は初めてです!」
有意義な朝食の時間を過ごす煉太郎達だった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆ ★
朝食をとって1時間が経過した頃、煉太郎達は公都ハーンスへと帰ることにした。
「もう、行ってしまうんですね……」
セレンが何処か悲しげな表情で呟いた。煉太郎達と過ごした時間が余程楽しかったようだ。
「ああ。月光花は手に入れたし、もうこの森にいるひつようはないからな」
「ちょっと寂しいな……」
「クルル……」
フィーナとクルも悲しげな顔をしている。たった一晩で随分と仲良くなったようだ。
「行くぞ」
別れを惜しみながらも煉太郎達は公都へと向かおうとしたその時だった。
「待て!」
突然の声に煉太郎達は歩を止める。
「何故ここに人間がいるのだ!」
視線を声のした方に向けると、木の枝には1人の男性エルフが弓を構えて立っていた。
セレン同様、容姿端麗でエメラルドグリーンの髪をしている。緑色の軽装鎧を身に纏っている。
(他にも反応があるな……。数は10人以上か……)
どうやら煉太郎達は囲まれているようだ。姿は見えないが周囲には数十人のエルフが敵意を滾らせながら包囲網を敷いていた。
(やれやれ、厄介なことになりそうだな……)
内心で面倒だなと思う煉太郎。
「ローランさん……」
ポツリと呟くセレン。
「知り合いか?」
煉太郎が聞くと、セレンは小さく頷いた。
「あの人の名前はローラン。この森の守護者達のリーダーです……」
セレンが男性エルフ――ローランの名前を口にした瞬間、彼の表情が歪む。
「『忌み子』が馴れ馴れしく私の名前を呼ぶな! 虫唾が走る!」
セレンに怒りを含んだ口調で話すローラン。先程から向けられる敵意は余所者の煉太郎達だけでなく、セレンにも向けられているようだ。
「それで、俺達に何かようか?」
敵意を向けられて不愉快な気分になっている煉太郎はローランに尋ねる。
「黙れ人間族! 貴様らが我々にしたことを忘れたとは言わせんぞ!」
どうやらローランは奴隷狩りのことを言っているようだ。
(別に俺がしたことではないんだがな……)
煉太郎がそう思っていても、エルフ族は聞く耳を持たないだろう。
「そして『忌み子』!」
さらに怒りの矛先はセレンにも向けられることになる。
「まさか人間族と仲良くしているとはな! やはり大罪人の娘と言ったところか!」
「大罪人? それはもしかして父のことですか? 父が大罪人とはどう言う意味なんですか!?」
セレンはローランが言っていることの真意を聞くが、ローランはふんと鼻を鳴らす。
「これ以上貴様に話すことは何もない。我らの敵である人間族と一緒にいることは重罪だ! そこの人間族と共に死ぬがいい!」
ローランは手を掲げてニヤリと笑う。
それと同時に周囲から弓弦を引き絞る音がする。どうやら弓矢による一斉射撃で煉太郎達を討ち取ろうしているようだ。
「この人達は何も悪いことはしていません! お願いですから止めてください!」
セレンが必死で懇願するが、ローラン達は聞く耳を持たなかった。
「総員、放――」
ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ! ドパンッ!
ローランが問答無用だと射撃命令を下すよりも先に、煉太郎はタスラムの引き金を引いていた。
銃弾は周囲にいるエルフ達に目掛けて放たれる。正確にはエルフ達が立っている樹の枝に、だ。
「うわっ!?」
「何だ!?」
「ぎゃああああ!?」
足場を失い、ローランと同じ緑色の軽装鎧を身に纏ったエルフ達が次々と落ちて来る。
「別に俺達はお前達と争うつもりはないんだが……そっちがその気なら相手になってやるぞ?」
煉太郎は怒気を含んだ口調で言葉を発する。それと同時にエルフ達の敵意よりも遥かに上の殺気が放たれる。
「「「「「「「「「「――ッ!?」」」」」」」」」」
エルフ達全員が息を呑むことになる。
(何だこの男は!? これ程の殺気を人間が放つだと!? 有り得ない、こんなことは有り得ない!?)
動揺を隠しきれないローラン。それは他のエルフ達も同じで、あまりにも強力な殺気に思わずガクガクと身体を震わし、冷や汗を大量に流し、ヘタをすれば失神してしまいそうな程だった。
「俺達を殺そうとしたのなら、当然殺される覚悟はあるんだよな?」
煉太郎は銃口をローランに向けながらゆっくりと近づく。
「――ッ!? 総員撤退! エルフの里に戻るぞ!」
ローランの指示に従い、エルフ達は撤退し始める。
「逃がさねぇよ……」
煉太郎はエルフ達を追いかけることにした。
エルフ達から戦闘を仕掛けておいて、不利だと判断すれば撤退する彼らのやり方が気に入らなかったのだ。やるなら徹底的にやる。それが煉太郎の考えだ。
煉太郎はエルフ達を追うべく、フィーナを背負って後を追うことにする。
すると――
「私も行きます!」
セレンも煉太郎達と一緒にエルフの里に行く言い出す。
「父のことが気になります。もしかして彼らは父が行方不明になった理由のことを知っているのかもしれません。それを確かめたいんです」
頭を下げて懇願するセレン。
「分かった。一緒に来い」
「はい!」
煉太郎もこの森のことをよく知らないので案内役としてセレンを同行させることにし、ローラン達を追いかけるのだった。




