忌み子
煉太郎達はセレンの後を追いかけながら木々の上を移動している。この移動の方がモンスターに狙われにくいからだ。流石にフィーナにはこの移動方法は少々危険なので煉太郎が背負って移動している。
枝から枝を渡り、どんどん森の奥へと進む。直ぐ上には青空が広がり、下には静かな暗闇が広がっている。
(なかなかの動きだな……)
流石は森の住人と言われているエルフ族と言ったところか。俊敏な動きでセレンは移動している。
「見えました。あれが私の家です」
セレンの家は捻れた大木の上に木の枝を編み合わせて作られており、小屋のようだった。
「どうぞ。狭い家ですがゆっくりしてくださいね」
室内に入り、セレンから丁重な扱いを受ける煉太郎達。
セレンの淹れてくれた紅茶は美味しく、心をとても和ませる味だった。
「レンタロウさん、これがお探しの物です」
セレンが煉太郎に渡したのは植木鉢に植えられた花――月光花だった。もうじき日が暮れるからか、月のような光を発しており、蕾も開きかけている。
「ありがとうセレン」
「どういたしまして」
煉太郎の役に立てれたのが嬉しかったのか、微笑むセレン。
(それにしても、やけに物が少ないな、この家は……)
室内に目をやると、テーブルや椅子、タンス、調理器具など必要な最低限の物しか置いておらず、装飾品の類は一切ない。
ここで煉太郎に疑問が浮かぶ。
「どうしてセレンはこんなところで暮らしているんだ? エルフ族は皆、エルフの里に住んでいるものだと思っていたんだがな」
煉太郎の言葉にセレンは表情を曇らせると、ポツリと呟く。
「私はエルフの里に入ることは許されていません。私は『忌み子』ですから……」
「『忌み子』?」
「はい。私はエルフ族の父と人間族の間に生れた子供――ハーフエルフなんです……」
セレンによると、20年前にセレンの父であるレイモンは森で重傷を負っている冒険者の母サリーエを見つけ、看護したことが原因で2人は恋に落ちたらしい。
その頃は奴隷狩りの最中で多くのエルフ族が人間族によって捉えられ、奴隷として売り払われることになった。
当然の如く、レイモンを同族のエルフ達は責めた。敵である人間族と恋に落ちるなど言語道断、と。
しかし、同族からは異質の目で見られようともレイモンは愛を選んだ。
その結果、レイモンはエルフの里を追放されることになり、人間の血が混じったハーフエルフであるセレンは『忌み子』として同族のエルフ族から忌み嫌われ、エルフの里には入れないことになっている。
「セレンの両親はどうしたの?」
とフィーナはセレンに聞いた。
「母は10年前にモンスターに襲われて亡くなりました。そして父は母が亡くなった数日後に行方不明になりました……」
セレンは唇を噛み締めて部屋の一画に飾られている1枚の絵を見る。それは幼い子供が描いた絵。小さい子供と両親が楽しそうに描かれていた。
セレンは泣かなかった。もう何年も泣いていないのだろうなと、煉太郎は思った。
「そうか。悪いことを聞いたな……」
煉太郎とフィーナは申し訳なさそうに頭を下げる。セレンは「良いんです……」と優しくは微笑む。
これ以上セレンのことを聞くのは野暮だと思った煉太郎はそろそろ公都ハーンスに戻ろうと言い出した。
すると、セレンは煉太郎達を呼び止める。
「あの、今日は泊まってくれませんか? 私、父がいなくなってから人と話をするのなんて久しぶりで……。勿論夕食も出しますから」
必至で煉太郎達を呼び止めようとするセレン。
10年間、誰とも会わずに過ごしていたのだ。久しぶりの話し相手になってくれた煉太郎達にセレンとしてはもう少しだけここに居て欲しかったのだ。
「レンタロウ……」
セレンの気持ちを理解したのか、フィーナが煉太郎を見つめる。
フィーナの懇願する目に煉太郎は降参したのか、一言「分かった」と呟く。
パァ! と表情を輝かせるセレン。
「ありがとうございます! では夕食の準備をしますので待っていてくださいね」
「エルフ族は普段どんな物を食べるんだ?」
「木の実や野菜、狩猟した猪などの獣のお肉を食べます」
「へえ、肉は食べられるのか……」
地球にいた頃に読んでいた漫画やラノベ小説などにはエルフ族は野菜しか食べない菜食主義者だと思っていたのだが、どうやら違うようだ。
「今日の夕食は特製サラダと猪の干し肉です」
(サラダと干し肉か、ちょっと物足りないな……。そう言えば、さっきコカトリスを倒したな。それを使って料理をするか)
ふと、先程討伐したコカトリスのことを思い出す煉太郎。
しかし、煉太郎はコカトリスの捌き方を知らなかった。
(セレンはこの森で育ったんだから、コカトリスぐらい捌けるかも知れないな)
煉太郎はセレンに聞くことにした。
「セレンはコカトリスを捌けるか?」
「コカトリスですか? 父がいなくなる前はよく捌いていましたけど……」
コカトリスはランクC。それを討伐出来るとなるとセレンの父親は相当な手練れのようだ。
「なら丁度良い。コカトリスを捌くのを手伝ってくれ。その代わり、コカトリスの肉で美味い料理を食べさせてやる」
「それは構いませんが、コカトリスを今から討伐するんだすか?」
「コカトリスは既に討伐している」
そう言って、煉太郎は皆に地面に降りるように促す。
周辺にはセレンが植えた月光花が咲いており、もう夕刻だからか、僅かに蕾が開いている。今の状態でも充分モンスター除けになるので安心して解体・料理が出来るだろう。
煉太郎は異空間からコカトリスの死体を取り出すと、セレンは少々驚いた顔をするも、久しぶりのコカトリスに心を踊らせる。
「よし、解体開始だ」
そう言って、煉太郎達はコカトリスを解体し始めるのだった。




