迫り来る脅威
エルバナ公国のとある洞窟。
そこで3人組の冒険者が探索を行っていた。
1人目は傷一つない胸当て、腰には長剣を吊るした剣士の少年。
その次は長い杖を手にし、ローブを纏った魔法使いの少女。
最後は道着を纏い、鉢巻を額に締めた体格の良い武闘家の少年。
年齢や身に着けている真新しい装備品を見ると、まだ見習いの冒険者だと分かる。
「なあなあ、この洞窟にゴブリンがいるって本当かよ?」
「情報屋の情報だから間違いないはずです」
剣士の問いに女魔法使いが答える。
彼らがこの洞窟を探索しているのはゴブリンを討伐する為だ。
最近、ゴブリンの姿を見かけたという情報があったのでその討伐クエストが発生した。
ゴブリン1匹に対して金貨1枚とそこそこ良い報酬。それにゴブリン程度なら見習い冒険者の自分達にでも大丈夫だろうという理由で彼らはこのクエストを受けたのだ。
「それにしても暗いな……」
武闘家が呟く。
ひょう、と吹き抜けた風に剣士が持つ松明の灯りが揺れ、太陽の光は洞窟の入口から闇に遮られ、その奥まで届くことはなかった。
「確かにこんなに暗いと少し怖いですね。戦闘に支障が出なければいいんですが……」
「大丈夫さ! ゴブリン程度、何匹現れても楽勝さ!」
自身満々に言う剣士。どうやら相当腕に自信があるようだ。
暫く何事もなく洞窟を進むと、広間に出た。かなり広く、複数の通路に別れている。
「おいおい、マジかよ!?」
「どの通路を進めばいいのでしょうか?」
「うーん……」
複数に分かれている通路。どの通路に進もうかと剣士達が悩んでいると――
「「「「「「「「「「ゲギャギャギャギャギャ!」」」」」」」」」」
通路の一つからゴブリンの群れがこちらに向かって迫っている。数はおよそ十匹。
「ゴブリンだ!」
「2人共、事前に打ち合わせをした陣形で行きますよ! 私が魔法を発動するまで間は対処をお願いします!」
「よっしゃ! 腕が鳴るぜ!」
剣士と武闘家が前衛、女魔法使いが後衛の陣形をとり、ゴブリン達を迎え撃つ。
「行くぞ!」
剣士は松明を投げ捨て、鞘から剣を抜くとゴブリン達へとに飛び込む。
「ゲギャ!?」
両手でしっかりと握られた剣を、まずは一突きしてゴブリンの喉を貫いた。
「まずは1匹! 次だ!」
強引に剣を抜き、振り返りざまにもい一匹のゴブリンを袈裟懸けに、上半身に斬りつける。
「さあ、もっと来い!」
雄々叫ぶ剣士。
「せりゃあ!」
鍛え抜かれた四肢から繰り出すのは武闘家の亡き師匠から教わった格闘技の真髄だった。
勢い良く踏み込み、左足で空を薙ぎ払う。
「「ゲギャ!?」」
渾身の回し蹴りによって二匹のゴブリンをまとめて岩肌に叩きつけて息の根を止めた。
残りは六匹。
「二人共、準備が出来ました! ゴブリンから離れてください!」
「「おう!」」
女魔法使いの合図にゴブリンから距離を取る剣士と武闘家。
杖をゴブリン達に向けると、女魔法使いは詠唱を開始する。
「〝放つのは炎の矢――ファイアーアロー〟」
炎で生成された六本の矢がゴブリン達に目掛けて放たれる。
「「「「「「ゲギャアアアア!?」」」」」」
肉の焼ける音と臭い。炎の矢が残りのゴブリン達の身体を穿つ。
「俺達の勝ちだ!」
「これでクエスト完了ですね」
「楽勝だったな!」
意図も簡単にゴブリンを討伐出来たことに思わず笑顔を浮かべる三人。
「そうだ、討伐部位を忘れずに剥ぎ取らないとな」
討伐系のクエストはモンスターの討伐部位を剥ぎ取り、冒険者組合に提出することが決められている。そうすることにより、モンスターを討伐した証拠及び数を的確に判断出来るからだ。
ちなみにゴブリンの討伐部位は右耳。
「討伐数は十匹。金貨十枚か。なかなかの報酬になるぞ。これで新しい装備が買えるぜ!」
そう言って剣士は剥ぎ取り用のナイフを取り出して、息絶えているゴブリンに近づく。
すると――
「「「「「「「「「「ゲギャギャギャギャギャ!」」」」」」」」」」
「「「!?」」」
別の通路から再びゴブリンの群れが剣士達に迫ってくる。
「おいおい、まだいやがるのかよ!?」
「先程よりも数が多いですよ!?」
「チッ!?」
先程の倍以上の数だった。
「「「「「「「「「「ゲギャギャギャギャギャ!」」」」」」」」」」
別の通路からまたゴブリンの群れ。
「「「「「「「「「「ゲギャギャギャギャギャ!」」」」」」」」」」
さらにまた別の通路からゴブリンの群れ。およそ五十匹を優に超える数だった。
「お、おい、何の冗談だよ!?」
あまりの数の多さに剣士は声を荒らげる。
「逃げましょう! これ程の数は流石に対処しきれません!」
「ああ!」
圧倒的な数に戦闘は不可能と判断した三人はもと来た通路に向かって走り出した。
しかし――
「「「「「「「「「「ゲギャギャギャギャギャ!」」」」」」」」」」
もと来た通路からもゴブリンの大群が迫って来る。
「う、嘘だろ……」
「そんな……」
全ての通路を防がれ剣士と女魔法使いは絶望した表情を見せる。
「まだだ……」
だが、武闘家は諦めていなかった。
「こんな所で……死ねるかよ!」
武闘家はゴブリンの群れに突っ込むと、持てる技の全てを見せた。1匹、2匹、3匹、次々と自慢の格闘技でゴブリン達を倒していく。
だが、いくら武闘家が強くても、ゴブリンの数があまりにも多すぎた。
「ゲギャギャ!」
「――ッ!?」
1匹のゴブリンが武闘家の太股に噛み付いた。
「っ、あ……!?」
一瞬だが、武闘家の動きに隙が生じる。
「ゲギャ!」
別のゴブリンが大きめの石を武闘家に目掛けて放つ。
「がっ!?」
投石が頭部をまともに命中し、武闘家は地面に倒れる。
当たりどころが悪かったらしく意識は朦朧として立ち上がることが出来ない武闘家。
霞む視界には醜く顔を歪めるゴブリンの姿があった。そしてそれが武闘家が見た最期の光景であった。
ゴブリン達に囲まれた武闘家は噛み付かれ、殴打され、引き裂かれ、抉られ、生きたまま喰い殺されるという悲惨な最期を迎えるのだった。
「よくも……よくも俺の仲間を殺しやがったな!!」
仲間を目の前で喰い殺されて憤る剣士。武闘家の仇を討つべく動いた。
最初は剣士が優勢だった。仲間を喰らったゴブリン達を次々と屠っていくが、幾度もゴブリンを斬ったせいで刃は血脂によって斬れ味を失い、使い物にならなくなる。
「「「「「「「「「「ゲギャギャギャギャギャ!」」」」」」」」」」
ゴブリン達に取り囲まれる剣士。
『大丈夫さ! ゴブリン程度、何匹現れても楽勝さ!』
剣士は後悔した。ゴブリン程度と高を括ったことを。
しかし、今となってはもう遅い。
「や、やめろ……やめてくれ!!」
武器を失った剣士に勝算などあるはずもなく、彼も武闘家と同様に無残に喰い殺されてしまう。
「ひっ!?」
仲間2人を喰い殺されるという地獄絵図に思わず短い悲鳴を上げる女魔法使い。
怯える女魔法使いを見てゴブリン達はニヤリと不気味な笑みを浮かべる。
「〝放つのは炎の矢――ファイアーアロー〟!」
炎の矢で次々とゴブリン達を蹂躙する女魔法使い。
しかし、それは最初だけで魔法を酷使しすぎて魔力を消耗しきってしまう。
「あ、ああ……」
かちかちと歯が鳴り、身体の震えが止まらない。地面が濡れるのを女魔法使いは感じた。
ゴブリン達は厭らしく顔を歪めて涎を垂らすと、徐々に女魔法使いに近づく。
「来ないで!?」
ゴブリンに囲まれた女魔法使いは杖を振り回すも直ぐに奪われ、へし折られる。
「や、やめて……!!」
女魔法使いはゴブリン達に髪を掴まれ、衣服を引き剥がされ、抵抗出来ぬよう身体を地面に抑え付けられる。
「いやあああああああああっ!!」
甲高い悲鳴が洞窟に響く。
その後女魔法使いはゴブリン達の慰めものとしておぞましい行為を受け続けることになった。
「あ、あ、ああー……」
まるで玩具のように弄ばれて女魔法使いの精神は完全に壊れてしまった。
面白い反応をしなくなった女魔法使いに飽きたのか、あっさりと彼女を喰い殺すゴブリン達。
女魔法使いを喰い殺すと、ゴブリンの軍勢は洞窟の外へと出る。
新たな地を、新たな獲物を求めて……。
今月中にもう一話投稿します。