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落ちこぼれと呼ばれた超越者  作者: 四季崎弥真斗
1章 超越の始まり
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超越者

 それが夢なのか現実なのか、煉太郎には分からなかった。


 意識はかなり曖昧でぼんやりとしている。


 身体は確かにあるはずなのに、動かすべき身体がない。そのような感覚を煉太郎は感じていた。


 しかし、それが不快と言えばそうでもなかった。


 どちらかと言えば穏やかな心地良さがある。


 (不思議だ……何だか落ち着く……)


 このまま永遠にこの心地良さに身を任せてしまいたいと思い始める煉太郎。


 その時――


 『――聞コエルカ――』


 「――ッ」


 煉太郎の頭の中に謎の声が響いた。


 冷たく……乾いた……けれどどこか優しい声が、煉太郎に問い掛けてきた。


 『――汝ハ何ヲ望ム――』


 (望み?)


 『――答エヨ――』


 (俺の……望み……。俺は、何を望んでいるんだ……? 何がしたいんだ……?)


 そんな風に思いを馳せていると、とある人物達の顔と言葉が脳裏に浮かぶ。


 『ハハハ! 落ちこぼれ如きが粋がるな!』


 『落ちこぼれは落ちこぼれらしくしてろよ!』


 『そうだそうだ!』


 それはかつて煉太郎を見殺しにしようとしたクラスメイトの姿だった。


 (加賀、遠藤、中村……)


 曖昧で散り散りだった記憶が砂時計の砂が落ちるように、次第に1ヶ所に集まり、より明確な記憶へとその姿を変えていく。


 (そうだ、俺はあのクズ共に復讐したい……)


 自分を殺そうとしたクラスメイトに対する憎悪。


 そして何よりも煉太郎が望むこと――


 (生きて、元の世界に還りたい……)


 それは生きて両親や妹のいる元の世界に帰還することだった。


 「俺は俺を殺そうとした奴らに復讐したい! そして元の世界に還りたい! そのためには力が欲しい! この理不尽な世界でも生き残れる程の力を! だから俺は望む! 力を!」


 頭に響く謎の声の問いに、煉太郎はそう返した。


 すると、突如、眼前に赤色の光のようなものが出現する。


 そして赤い光は煉太郎の身体に侵入するかのように吸収され始める。


 しかし、違和感は一切ない。


 それどころか身体中に力が漲るように感じた。


 赤い光を全て吸収し終えると、やがて周囲に光が満ちていき煉太郎の視界を覆った。



 ★ ☆ ★ ☆ ★ ☆



 最初に煉太郎の視界に入ってきたのは黒灰色のローブを纏った老人の姿だった。


 (ここは……俺はいったい……今のは、夢、だったのか……?)


 目覚めたばかりで意識が曖昧な煉太郎。


 しかし、マーディンの姿を見て徐々に意識が覚め、思いだしていく。


 自分がこの老人によって拉致された挙げ句に狂気に染まった実験の実験体にさせられたことを。


 (思い出した……。俺はこいつに実験台にされたんだ……あれ、右腕が……治ってる……?)


 オーガによって失っていたはずの右腕。何故、元に戻っているかは煉太郎には分からなかった。


 しかし、今はそんなことどうでもいいことだった。


 目の前に自分を実験台にした人物がいる。


 しかも――


 「さて、それでは早速この者に洗脳系統の闇魔法を掛けるとしよう。我が超越者の力を世界に見せ付けてやろう!」


 洗脳までしようとしているではないか。


 煉太郎はマーディンに気づかれぬように短剣を異空間から取り出す。


 そして煉太郎の額に触れようと近づくマーディンの胸部に目掛けて短剣を突き刺した。


 「が、は……!」


 胸部を短剣で抉るように突き刺され、マーディンは吐血をしながら床に膝をつく。


 「貴様……どうして……!」


 信じられないと言った表情で煉太郎を睨むマーディン。


 狼狽するマーディンに対して、煉太郎は不適な笑みを浮かべながら胸部に刺した短剣をゆっくりと引き抜いた。


 「――がっ!」


 マーディンの傷口から止めどなく血が溢れ、床を赤く染め上げる。


 煉太郎はゆっくりと起き上がると、膝をつくマーディンを見下すように視線を向ける。


 「俺は生きたい。生きて元の世界に戻りたい。そして俺を酷い目に逢わせたあのクズ共に必ず復讐する。それを邪魔する奴は誰であろうと容赦はしない……!」


 そう言って、勢いよく振り下ろされた短剣の刃を受け、マーディンは生涯の幕を閉じることになるのだった。


 自らが創り出した超越者の手によって。

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