神の魔力
煉太郎がマーディンの人体実験の被験者にされて1ヵ月が経過した。
「遂に……遂に我が一族の悲願が叶う……!」
マーディンは拘束台の上に寝かされている未だに目を覚まさない実験体――煉太郎の姿を見て呟いた。
煉太郎の外見は実験前と比べて大きく異なっていた。
日本人特有の黒髪は実験の副作用で色素が抜けて白髪となり、筋肉は発達して骨格は太くなり、百六十センチしかなかった煉太郎の身長は百八十センチ近くまで伸びていた。
今の煉太郎の姿を見ればクラスメイトの大半は彼のことを別人と思うだろう。
更にオーガによって切断された右腕もリバースドラゴンの細胞を取り込んだお陰で見事に再生していた。
強化された肉体と驚異的な再生力を得た煉太郎なら神の魔力にも耐えられるとマーディンは予想していた。
「最後の仕上げだ……」
マーディンはローブから容器を取り出す。
容器には赤く、神々しい輝きを放つ魔力が収められていた。これがマーディンの一族が所持してきた神の魔力だ。
「さあ、神の魔力よ! この者に力を与えたまえ!」
マーディンが容器の蓋を開けると、神の魔力はまるで生きているかのように、煉太郎の体内に染み込むように吸い込まれていった。
すると、煉太郎の身体に変化が現れ始めた。
最初の変化は頭髪だった。
色素が抜けて白髪となっていた髪が赤く染まっていく。
更に煉太郎の身体中に複数の紋様が浮かび上がる。紋様は徐々に赤い光を放出し、煉太郎の身体を包み込む。
赤い光に覆われた煉太郎を見て、マーディンは驚いたように目を見開いた。
「何だ!? 何が起きている!?」
多くの実験体に神の魔力を施してきたが、今までにない反応だった。思わず戸惑うマーディン。
その瞬間、凝縮していた赤い光がカッ! と拡散し、部屋全体を照らした。
「――ッ!?」
あまりの眩しさに思わずマーディンは目を瞑る。
更に耳を塞ぎたくなる程の轟音。それと強い衝撃がマーディンを襲った。
暫くして光が止み、マーディンはそっと瞼を開く。
部屋全体がまるで爆発でも起きたかのような有様だった。
実験道具と部屋の一部は破壊され、無数の煙が立ち昇っていた。
「……何が起きた?」
ある程度の結果は予想していたマーディンだったが、先程の現象は完全に予想外の出来事だった。
まさか、実験が失敗したのかと冷や汗を流すマーディン。
急いで拘束台のある方へと走り寄る。立ち昇る煙を掻き分けて進むと、マーディンは煉太郎の姿を発見する。
先程の衝撃でミスリル製の鎖は引きちぎられており、拘束台は破壊されていた。
幸い、煉太郎がまだ息をしていることにマーディンはホッとする。
それと同時にマーディンは煉太郎に宿る莫大な魔力を感じた。魔力に自信があるマーディンですら遥かに超えるほどの魔力を。
例えるなら何処までも続く青い空のような印象。
または一面に広がる大海原という言葉が相応しいだろう。
「……素晴らしい」
想像を越える量の魔力を煉太郎から感じ取り、呟くマーディン。
「成功だ……遂に成功したぞ! 私は遂に成し遂げたぞ! 私は超越者を創り出したぞ!!」
長年の悲願を成し遂げたことに歓喜の声を上げるマーディン。
「これで私を――一族を見下してきた全ての者達を見返すことが出来る!」
脳裏に今まで一族を愚弄した全ての者達の姿を思い浮かべるマーディン。
「さて、それでは早速この者に洗脳系統の闇魔法を掛けるとしよう。我が超越者の力を世界に見せ付けてやろう!」
そう言って、マーディンは洗脳系統の闇魔法を施すために煉太郎の額に触れようとしたその時だった。
胸部に違和感を感じたマーディン。
ふと視線を胸部に向けると、今まで目を覚まさなかったはずの煉太郎が目を見開き、短剣をマーディンの胸部に突き刺していた。




