十二話
次の攻撃はやってこなかった。
目を開けると、大の字で寝転がるディオーラがいた。四肢は焼けただれ、指一本も動かさない。
「痛っ」
攻撃している時はわからなかったが、彼女のメイスが掠ったのか、左腕の側部が血にまみれていた。振り下ろされた速度が速度だっただけに、真空波のようなものでも発生したのだろうか。
ディオーラに歩み寄った。メイスは風に溶けた。しかし、彼女の胸は僅かに上下運動をしている。
「僕の勝ちだ」
「なぜ……」
絶命の瞬間だろうに、彼女は小さく口を開けた。
「なぜ、その忌術が使えるのですか」
「パットが僕をハーナム大陸に送った理由を考えた。その結果、彼はきっとリュノアの居場所を知っていたんだ。僕があの場所で張っていたのだって、パットからのゴーサインが出なかったからにすぎない。パットはリュノアを見つけ出し、この場所へと誘導したんじゃないかと考えた」
「そんな、不確定な」
「不確定でもなんでも、僕はパットの思考を、彼自身を信じようと思った。結果が全てとは言わないけれど、これは僕とパットの思考が交わった結果さ」
「ああ、不甲斐ないのは、私だったのですね……」
それが最後の言葉になり、彼女の身体は灰色に変わった。砂のように、さらさらと風に乗って、原型を失った。
どうなっているんだと思った。けれど、それはあとで聞けばいい。
「エルア、すぐにハーナム基地に向かうぞ」
視線を向けた先には、もう大型のモービルギアはなかった。
「すぐにって、アナタ怪我してるじゃない。手当てだけでもしてかなきゃ」
救急箱を抱えたエルアが駆け寄ってきて、誰に言われるでもなく治療を始めた。祠導術や魔導術を使いながら、薬を塗って包帯を巻く。なんでこんなに慣れているんだと言いそうになったが、きっと彼女は練習していたんだろう。この戦いの中でいつ誰が怪我をしてもいいように、彼女なりに考えてそういう結論を出したんだと思う。
聞こうとも思わないし、事実かどうかなんてわからない。それでもエルアが包帯を巻く練習をしている姿を想像すると、なんだか自分の中で納得できたんだ。
「おーい! エニシー!」
その声に遠くを見れば、自動車らしき乗り物の上に乗ったリュノアが、大きくこちらに手を振っていた。
いい具合にことが運んだけれど、少しでもリュノアが遅れていたら僕は間違いなく死んでいただろう。けれど、これでパットがやりたいことがよくわかった。
「エニシ様、ハーナム基地侵入の件なのですが」
と、情報班長から声をかけられた。
「なにかあった?」
「先ほどの大型モービルギアなのですが、どうやらあれ一機ではなかったようです。そしてそのモービルギアで、全てのミュレストライア兵が基地から撤退したという情報が入りました」
「情報ってどこから? 基地内に密通者でも?」
「パトリオット様が先手を打っていたようですね」
つまり、急いで基地を奪還せずともよくなったわけだ。このまま放っておいても正常な機能を取り戻すはずだ。
リュノアが到着し、こちらの戦力は間違いなく強化された。レガールがない今、クールタイムは数時間といったところだろう。ただし、この能力は持続性の面で問題が大きい。考えて使わなければ不発に終わり、傷を負うだけで終わってしまう。これからはもっと慎重になった方がいいかもしれないな。
「ねえ、アナタまた変なこと考えてない?」
「変なことって……」
エルアにジト目で見られてたじろいだ。結構長い時間一緒にいるせいか、僕の思考が行動や仕草でバレているのだろうか。
「もっと自分の身体は大事にしなさい。誰かの目の前に立って、傷ついて、それでいいと思ってるでしょ。アナタが傷ついた分、後ろにいる誰かさんの心が傷ついてるっていうこと、もっと理解した方がいいわ」
「そ、それは面目ない」
「わかればいいのよ、わかれば。正義を貫くのはいいけれど、貫いた先で折れてしまっては意味ないんだから」
「これからは気をつけます……」
なんだか彼女には逆らえない。本当に心配してくれてるのがわかるから、僕も応えてあげたいと思ってしまうんだ。
「はっはっはっ! エニシは相変わらずエルアートに頭が上がらないんだね。これは見てて面白いよ」
「なに言ってるのよリュノア。二人でイチャイチャしちゃって、エニシは私のモノなんだから」
「それはいけない。パンドラもエニシを誘惑するの」
「私がそれをさせると思いますか? これでも一番に祠徒になったのは私なのですよ?」
外野ではまた勝手なことを言ってる。後方に待機させておいたクラリットまで混じって、僕の祠徒たちは自由だな。
「で、これからどうするの?」
「そうだな、とりあえずハーナム大陸はバド大陸から連れてきた人たちに任せよう。僕らは一度エベット大陸に戻ろう。ハーナム基地がこういう状況なら、きっとポルトスやライスラーだって似たような状況に違いない。本当は大型モービルギアの行く先を探りたいところだけどどこに向かったかもわからないし」
「妥当なところね」
そう言いながら、彼女は僕の肩を軽く叩いた。
ニヤリと笑い、その姿がまた妙に妖艶だった。
整備班にエネルギーを補給してもらい、僕たちはアーマードギアでエベット大陸に向かうことになった。
ちなみに、パットへの通信はなぜか繋がらなかった。
この時、胸の中で嫌な予感がグルグルと渦巻いて、でもそれを隠すので精一杯の自分がいた。




