十一話
「ルキナス! パンドラ!」
【魔導の錫杖】で魔法力を増加。同時に【隔絶された希望】で障壁を生成した。
障壁は左右からディオーラを挟むようにして伸びていく。
「【神の加護たる防御壁】」
だが、【隔絶された希望】は別の障壁によって阻まれた。ぶつかった場所はキラキラと光り、周囲にダメージを分散するように輝いていた。それはエルアの
「さっきレーザーを止めたのはキミだったのか」
「ええそうです。【神の加護たる防御壁は】超広域障壁で、能力は実にシンプルですがシンプル故に強力なのです。だからこそ私がここに来た」
「だからこそ? 僕への対策ということかな?」
「【隔絶された希望】は障壁を形成、それらが箱状になってから正式な能力が発動しますね? ならばその障壁を止めてしまえばいいだけの話です。だからこそ貴方はここぞという場所でしか使ってこなかった」
「僕の戦闘を全て見てきたような口ぶりだね」
「見てきたような、ではなく見ていたのです。クオリア様との戦闘も、十二領帝との戦闘も、もちろんアーマードギアでの戦闘も。スーべリアットに出向かなくても、スーべリアットにはライオネル様の息がかかった者がいるのですよ」
一番最初によぎったのはエレメンタルセブンの七人だった。彼女たちがなぜライオネルに協力したのかはわからないままだが、おそらくはエレメンタルセブンで間違いはないだろう。
「そこまで対策を重ねるほど、僕は強くはないんだけどね」
「戦闘力でいけば十二領帝よりは強く、三嶽神には遠く及びませんね。ミュレストライアに来れば十二領帝を束ねる程度の役職にはなれるでしょう。どうです? 今からでも寝返りませんか?」
「評価してくれるのはありがたいが、僕にそのつもりはないんだよ」
ルキナスから得た魔法力で全身を強化。身体を沈めると、接地している地面が割れた。
気にすることなく、剣を振りながらディオーラへと突撃した。
「せっかちなのですね」
どこから取り出したのか、僕の一撃はメイスの柄で受け止められてしまう。勢いなど最初からなかったかのように、棒立ちしているディオーラを動かすには至らない。
ディオーラが身の丈を超えるメイスを振り回し、僕はそれを避けるようにサイドステップでその場を離脱。が、咎めるように彼女が追いかけてくる。
そんなディオーラの目の前に魔導弾が降り注ぎ、僕と彼女の距離は保たれたままだ。
魔導弾を打ったのは、クラレールのコクピットから身を乗り出したエルアだ。やるのであれば僕のことも考えて欲しかった、なんて言ったら怒るんだろうな。
だがディオーラはそんなことを気にしていない。
一度距離を取っても、軽やかに接近して打撃を仕掛けてくる。一撃一撃が少女の攻撃だと思えないほどに重い。当然身体強化はしているんだろうが、こちらだって全力で強化し、全力で防御しているのだ。
十手と剣を使い彼女の攻撃を何度も打ち返す。エルアの援護もあって付かず離れずを繰り返し、しかし二人共ダメージはほとんどないという状況が続く。
こんな繰り返しをして、どちらが先に膝をつくのかなど明白だというのに、僕は彼女の戦い方に付き合ってしまった。
おかしいと思わなかったわけじゃない。
三嶽神は魔法力に優れた生粋の戦士のはず。それならば別に殴り合いをする必要などない。ではなぜこのような戦闘法をとるのか。
彼女はきっと、僕を疲労させることが目的なのではないか。彼女ほどの強さを持っていれば、アーマードギア相手であっても問題なく立ち回るだろう。
メイスを弾いた瞬間、その勢いを利用して彼女がくるりと回った。そして、フルスイングで殴られた。
その攻撃もなんとか防ぐが、勢いを殺しきれずによろけてしまう。
「なぜ追撃して来ない?」
確かによろけた。吹き飛ばされ、体勢を崩したのであればそれが勝負を分ける。
「今の私の目的は貴方を殺すことではない。本来ならば殺して差し上げるところなのですが、今は時間稼ぎが最優先なのです」
「時間稼ぎ? 僕を殺せば時間稼ぎもクソもないと思うんだけど」
「貴方が死ぬことで別の歯車が動き始めてしまうでしょう? 例えば、クオリア様なんかが動き出しても面倒になるだけなんですよ」
「なんだ、三嶽神になってもクオリアは怖いのか?」
僕がそう言うと、ディオーラの眉が小さく動く。
「今となってはクオリア様は過去の人です」
「対峙しても勝てる自信があると?」
「当然ですね。ベリアル様のような不甲斐ないマネは致しません」
「そうか、でもそれは実際に戦って、勝ってから言ってもらわないと説得力がないな」
この時、僕はあることを考えながら彼女を挑発していた。
あることとは、パットの脳内にあるファーランガル奪還計画だ。
「その機会があれば当然戦いますよ? ですが、今は貴方の足止めをするという任務があるのです」
「じゃあ僕に倒されたらそれは叶わないわけだ」
「そんなこと、万が一にもありませんよ」
パットがなぜ僕を指名してこの大陸に寄越したのか。彼は少し説明不足なきらいがあるというのはよく知っている。口下手で、行動で理解しろというタイプだ。
なにも考えていないように見えて、実際彼の行動には無駄がない。
それならば僕がここにいるのにだって意味があるのだ。
「さあ、それはどうかな」
「戯れ言。いいでしょう、貴方を半殺しにして連れて帰ります。エルアート様には伝令係でもやってもらいましょう」
感じる。
エルアでもない、ディオーラでもない。バド大陸から連れてきた人たちとも違う魔法力が近づいてくる。
強烈なメイスの攻撃を十手で受け、受けた瞬間に斜めにいなす。
「やってやるさ」
横っ腹に柄の先端が食い込む。パキパキという音が、体内を通して脳天を突き抜ける。音と共にやってくる痛みは、僕の想像を遥かに超えたものだった。
メイスを振り回す速度は最初よりもずっと速い。目で追うのがやっとのことで、十発打ち込まれたら半分以上は当たる自信がある。
まだ倒れるわけにはいかない。
両の眼を見開いて、致命傷だけは回避する。
そして、僕の中で一つの選択肢が生まれた。
「これで!」
下からかち上げられ、左手に握っていた剣が宙を舞った。
「落ちなさい!」
上段に構えたメイスの影が僕の顔を覆った。
「それを待ってたよ」
素早く身をかがめ、十手に全ての魔法力を集めた。
防御など考えない。最低限の強化だけをして、十手をディオーラの腹部へと突き立てる。
「来い! 【完成された瞬き】!」
光速で振り下ろされるメイス。そしてその速度を凌駕する十手の突き。
一瞬の出来事ではあったが、十手は彼女の身体を貫通していた。
「吹き飛べ!」
収束させた魔法力を全て開放。まばゆい光が周囲を包み、攻撃を仕掛けた僕でさえ目を閉じてしまった。




