十話
が、遠くの方で弾けて消えた。透明な壁のようなものに衝突し、光が壁を張って波紋状に広がる。
『防御された。たぶんそのせいで気付かれちゃったかも』
「なにが起きた? あれはビームシールドの類か?」
『見た感じでは拡散型の防御壁ね。衝撃を周囲に散らして緩和するタイプ。だけど基地を覆うほどの大きさの防御壁なんて聞いてないわよ』
望遠鏡を除くと、基地の外が慌ただしくなっていた。赤いランプが回り、こちらの存在がバレたと考えていい。正確には外敵が近くにいるということを知られた。
急いでいかなければとは思うが、あの障壁をどう突破すればいいかわからない。
いや、今は考えるよりも先に行動するのが先決だ。
そう思った時、ポケットに入れていたPDが鳴る。画面には見知らぬアドレスが表示されていたがすぐに通信を繋げた。
『こちらパトリオットだ。一応登録しておけ』
「開口一番それか。とにかく今はそれどころじゃないんだ。すぐにでも攻めないとマズイことになるかもしれない」
『かもしれないという可能性は非常に捨てがたいが、こちらはお前に言わなきゃいけないことがある。だから連絡したんだ』
「火急の用事ってわけか」
『そうだ。まず一つ、三嶽神の一人と戦い、イクサードが負傷した。足が失くなったらしくてな、数日間の休養が必要だ。つまり、しばらくの間はイクサード抜きでやらなきゃならない』
あのイクサードが? そう聞きたくなった。しかし相手が三嶽神であるのなら、それも当然の結果なのかもという気持ちもある。
「相手はどうなった?」
『その辺はちゃんと処理したそうだ。三嶽神ベリアルは死んだ。同格相手であるのなら勝ち負けは運によるところが大きいが、イクサードにはその運があったみたいだな』
「なるほど、一段落したらお見舞いでも行った方がいいか。それで、まずはってことはまだあるんだろ?」
『ああ。ライオネルがな、ミュレストライアで会見を開いた。内容は第六世界を発見したというものだ。ついでに言えばその場に最後の三嶽神がいなかった』
「もしかして、その最後の三嶽神もライオネル派だと?」
『俺の側についていないということはそういうことだ。お前の方も大変だと思うが気をつけておけ。まあ、気をつけたところでどうにかなる相手ではないんだがな。正直な話、出会ってしまったら交通事故かなんかだと思うしかない』
大きなため息が漏れた。それが自分の口からであると気付くまで少しだけ時間がかかった。
僕は過去にクオリアを倒したことがある。が、それは彼女が慢心していたからだ。同時に僕がクオリアを倒したという事実を相手が把握しているとすれば、警戒するのは当然だろう。
「その時はその時、上手くやってやるさ。用件は了解した。こっちはこっちで、ゲートと思われる物資を運ぼうとしているミュレストライア兵を押さえに行く」
『確かにそれもかなり急用だな。無理はするなよ』
「無理をしないでできることなんて、この世に数えるほどしかないって知ってるだろ? お互いに頑張ろう」
『そうだな、お互いにな』
「お話は終わりましたか?」
背後から、細く高い女声の声が聞こえた。女性というよりも少女、それでいてエルアの声ではない。
PDを下げて背後を振り返った。
白と黒が混じったボブカット、目は大きく幼い顔立ち、やんわりと微笑んではいるが、彼女が放つ魔法力はクオリアやイクサードのそれによく似ていた。
『おい、今の声――』
PDに指をかけて通信を終了させた。
やると言った以上はやってやるさ。パットに妙な心配もさせたくない。
「ああ、終わったよ。キミはもしかして三嶽神の人かな」
「はい。三嶽神が一人、白き寂莫ディオーラ=ハウゼンと申します」
スカートを持ち上げ優雅にお辞儀をした。こんな場所であるというのに、そこに華が咲いたような空気を纏う。
「白ってことはクオリアの後釜ってことかな」
「そうですね、あなたが苦戦の末に倒したクオリア様の後継者です」
ゾワリと、耳の裏側に寒気が走る。
この瞳、この言い方。彼女はきっと知っている。僕がどうやってクオリアを倒し、そしてどういった祠導術を使えるのか。そうでなければ、苦戦の末なんて言い方はできない。
「僕と戦うためにここへ?」
「そうですね、ライオネル様から不穏分子の排除を言い渡されていますので」
「わかってると思うけど、僕はキミと戦うだけの価値がない。三嶽神ってのはミュレストライア最高峰の戦士なんだろ? 僕はスーべリアットの中でも強いってわけじゃない」
「逃げ腰ですか? なにを言っても、私は容赦なんてしませんよ」
ヤバイと思い後方へと跳躍。が、彼女が放つ魔法力に気圧されて数メートル吹き飛んだ。
攻撃ではない。ただただ、なんの変哲もない魔法力だ。そんなもので身体が浮くなんて経験がない。
耳鳴りがする。おそらく、今までにないくらいの絶体絶命。救いがあるのであれば、それは奇跡に近いなにか。
「貴方はリュノアさんという女性の忌術でクオリア様を倒した。けれどリュノアさんはファーランガルの人間。貴方が忌術を発動するためには彼女が近くにいることが条件になる。それだけでなく、彼女を守りながら戦わなければならない。通常の祠徒であるならば実体がないために攻撃を受けないけれど、実体があればダメージを受けてしまいます」
「ああ、そうだね」
「そして近くにはリュノアさんがいない。貴方はクオリア様を倒した忌術を使用できないことになる。私に怖いものなどありませんね」
彼女の言う通り、僕には彼女を倒す手段はないだろう。
逃げるのが最善であるというのは間違いないが、それをさせてくれるかどうかと言われればまた疑問だ。
左手で剣を抜き、右手で十手を持った。
「それでいいのです。貴方は私に倒される。ライオネル様がこれから作る世界には必要のない、淘汰されるべき存在なのですから」




