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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ファーランガル編 2】
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六話〈クロスオーバー:イクサード=ナンバライズ〉

「お前も俺の過去を知っているのか?」


 ハンガーへと向かう最中、シンドラに声をかけられた。彼の顔は平常時と変わらず、本当に過去のことを知りたがっているのかと、イクサードは疑問を感じた。


「知ってるもなにも、俺はお前に育てられたと言ってもいい。まあ生活面というよりも、戦士としてだがな」

「そんなヤツの記憶がなくなって、お前はどうも思わないのか? パットもそうだが、どうもこう、あまり大切にされていたように思えない」

「寂しくないと言えば嘘になる。が、パットもきっと同じなんだろうな。根本の部分では昔と変わらないんだよ。飄々としていて非協力的に見えて、実際は誰よりも結果を求めて、先を見据えてるんだ。そういうところを見てしまうとな、いつかは元のお前が帰ってくるんじゃないかって思わされる」

「世の中に山程いるだろ、それくらいなら」

「確かにな。大将だってそういう思考で動いている。けど、それはきっとお前から受け継いだ部分でもある。祖父クラセイルの優しさと同時にな。それでもお前はお前だ。自分じゃわからなんだろうが、お前と同じ時間を生きてきた人間にしかわからないお前らしさってのが残ってるのさ」

「でも、昔の俺が帰ってこなかったら?」

「そん時はそん時だ。希望的観測でしかないだろ? だったら別に、どっちでもいいんじゃねーか? むしろそれこそがお前らしくない。お前は自信に満ち溢れてないとな」

「自信か。俺はそんなに自信過剰だったのか」

「自信過剰なんかじゃない。お前は間違いなくミュレストライア最強の戦士だったんだ。だから自信があって当然なんだよ。だからきにしなくていい。俺はどんなシンドラ=ファルエンでも尊敬してるし信頼してる」

「お前というヤツは……」


 シンドラは「ははっ」と軽く笑い、頭を何度か掻いた。


 戻って来て欲しいと思っているのは事実だ。しかし、ないものねだりをしても仕方がないこともわかっている。無理強いもできず、自分ではどうしようもできない問題だからだ。


「お前はお前らしくやればいいさ。親交が深かったやつも、なんだかんだでわかってくれるさ」

「そうかも、しれないな」

「んじゃ行くわ。ミュレストライア兵とこっちの兵士。個々の力量は似たか寄ったかだが、人を殺すために培ってきた技術と自衛のための技術じゃあまりにも差がありすぎる。心構え、反射的な攻撃、急所をつく技術。いくら力が同じでも、それらが違うだけで天と地ほどの差になるからな」

「自衛隊と軍人に差があるのは当然だ。自衛隊でも人を殺すことがあるかもしれないが、常用的に殺人が行える状況とそうでない状況での訓練はまた違ったものがあるしな」

「そういうことだ。お前はどうするんだ? 一緒に空を飛ぶか?」

「縁の訓練は見て来たが、自分でできるかどうかはわからない。それに俺はパットと同じく道具を扱うのは苦手でな。この身一つでできることをしよう」

「オーケーオーケー。白兵戦はアンタに任せるよ。じゃあな」

「ああ、壮健でな」

「その言い方はどうなんだよ。元気だよ、俺は」


 誰とでもするような会話をした。シンドラは外へ、イクサードはハンガーへ。シンドラの後ろ姿を見て、やはり昔と変わらないなと、イクサードはそんなことを考えていた。身長は同じくらいだが、妙な自信と力強さがにじみ出ていた。


 ハンガーへとつき、すぐさまデスベットへと乗り込んだ。


 OSを起動させて設定を済ませていく。その中であることを考えていた。


 自分はどうしてここにいるのか、どうしてパトリオット側についているのかということ。それは先ほどのシンドラとの会話で、もう一度自分を見つめなおした方がいいのではないかと考えたからだ。


 師であるシンドラはもういない。別に守りたいものがあるわけでもない。数年前のパトリオットと接点があるわけでもない。それではなぜ、ライオネル政権を阻止しようとするのか。


「決まってる、よな」


 理由なんて必要あるのだろうかと、再度自分に問いただした。


 正義とは、自分が正しいと思った事柄でいいのだ。自分が正しいと思った道をただひたすら突き進むことに理由など必要あるのだろうか。そう思ったのなら、きっとそこが終着点なのだ。


『ユーハブコントロール』


 オペレーターの女性の声がスピーカーから聞こえてきた。


「アイハブコントロール」

『レディトゥランチ。ご武運を』

「武運なんて必要ないさ。イクサード、敵を蹂躙する」


 急加速から重圧を感じ、思わず口が笑っていた。


 乗り物は嫌いじゃない。機械であっても動物であっても、なにかを操縦するということ、それまでの習得過程、個々の乗り物にある不安定さ。それらが無性に愛おしく感じる時がある。


『敵の位置はここより南西に百キロ先です』

「了解」


 大空へと飛び出せば、遠くの方に黒い群れが見えた。


「おいお前ら下がってろよ! 最前線は俺のフィールドだ!」


 右肩にあるロングレンジレーザーライフルを前方へと向ける。折りたたみ式のそれは、ガチャガチャと無駄が多そうな機械音をさせて組み上がった。


 コクピット内にもライフルのための標準が右目の前に現れた。


「新装備だ、心して味わえよ」


 両手持ちタイプだが、左手のトリガーを引くと魔法力のチャージを開始。チャージ状況は標準の右端に見えるため、約八十パーセント程度のところで右手のトリガーを引いた。


 ためらいなどはない。


 アーマードギアは本来人殺しの道具ではない。各大陸は友好関係にあるが、それがいつ崩れてもいいようにと、自衛目的で作られた兵器というのが、このファーランガルでは共通認識だ。

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