五話
「そうだな、その時はよろしく頼む」
「は、はい」
やれやれと思いながらも歩みを進めた。
おこれから迎えるのは当然クオリアとエミリオだ。ナスハが来るかどうかは正直わからない。大我に別の仕事を言いつけられた可能性だってある。大我に直接聞けばいいのかもしれないが、あちらはあちらで忙しいらしく、通信を入れても反応がない時が多いのだ。
エントランスに到着するとすでに待ち人がいた。俺たちが待っていたはずなのに待ち人を待たせている。どちらが待ち人かわからないな、この状況は。
「待たせたようだな。しかし――」
たしかクオリアとエミリオが来る予定だったはずだが、スーべリアットからやってきたのはナスハ一人だった。
「申し訳ありまえん。本来ならばランゼルフ姉弟が来る予定だったのですが、スーべリアット側の戦力が不足しているというのが現状なのです。今はクオリア様の戦闘力が救いになっています」
「なるほどな、まあその辺はどうしようもない。結局のところ、クオリアたちを救ったのはスーべリアットだ。経緯はどうあれな」
「パトリオット様がそう言うのであれば」
ナスハは礼儀正しくお辞儀をした。こういうところが堅苦しいのだが、彼女のいいところでもあるんだよな。
「それじゃあ、防衛戦はカーミラとイクサードに任せる。俺たちはライスラー大陸に向かう」
「ライスラーにですか? いったいなにをするおつもりで?」
「なにをするもなにも、大陸を一つずつ取り戻すんだ。このエベット大陸に最も近いのはライスラー大陸だ。確証はないがライスラーからミュレストライア兵が来ると考えてもいい。逆に別の大陸から来るのだとすれば、それはそれで都合がいい。遠くなれば遠くなるほど帰還までに時間がかかるだろうしな」
「索敵を含めた防衛戦、と捉えてもよろしいのですね。私とエルファも同行してよろしいのでしょうか?」
「ああ頼む。いかんせん今の俺じゃ戦力としては心もとない。自分のことをこういうのもなんだが、戦士としてはお飾りだからな」
カーティスを倒したのは、倒すだけの時間があったからだ。普通の白兵戦となれば話は違ってくる。
つまるところ、ああいう動きが遅くてパワー任せのやつに対してなら戦えるということにも繋がる。
「ちょっと待ってもらおうか」
ハンガーへといこうとした時、背後から呼び止められた。
「お前、一緒に行かなかったんだな」
俺に声を掛けてきたのはシンドラだった。ミュレストライアにいた頃は齢七十近かったが、今は二十代前半といった見た目だ。見慣れていたはずなのに、記憶が戻るとこうも違和感になるなんて思わなかった。
「俺だけ残らせてもらった。お前に訊きたいことがあったんでな」
いつものような、少し高圧的な笑みはない。
「俺たちは忙しい。手短に済ませてもらえるか」
「ああ、もちろんだ。訊きたいのは俺の記憶についてだ」
「そうくると思ってたよ。で、なにが聞きたい?」
「俺は老人で、あの三嶽神だったというのは本当か?」
「本当だ。俺の祖父、前ミュレストライア王とも親交が深かった。その縁あって、俺の戦闘術はお前から学んだものでもある。おそらくイクサードもな」
「俺は彼女を救ったのか?」
ナスハを一瞥してシンドラが言う。
「ああ、そうだ。だがナスハだけじゃない。俺を救おうとしたナスハを救ったんだ、俺の命だってお前に救われたようなもんだ。本当ならミュレストライアに連れていって記憶を取り戻してやりたいところだが、おそらくお前は本来死んでいる。ミュレストライアに帰ろうとしても、戻る場所がなくて消えてしまうのが関の山だろうな」
「いや、それだけわかればそれでいい。あとは自分で調べるさ」
気が済んだのか、背を向けて歩き出してしまった。ひらひらと手を振っている。
「お前もここに残るなら、少しくらい手伝ってもらうぞ」
「問題ない。言われなくてもやってやるさ」
その一言で充分だった。
【問題ない。言われなくてもやってやるさ】
ゲートに落とされた俺を見て、ナスハもゲートに飛び込んできた。そして次にシンドラが入ってきたんだ。ナスハは気を失ってしまったが、俺はそこで縁に召喚された。最後に「ナスハを救って」と、俺はシンドラに言った。そんな俺に対してシンドラが「問題ない、言われなくてもやってやるさ」と笑顔で言ったんだ。
「根は変わっていないな。行くぞ、エルファ、ナスハ」
「「はい」」
ハンガーには、エンジンに火が入ったモービルギアが用意されていた。収容人数はパイロットを入れて四人。これくらい小型でなくては隠密行動はできないだろう。
「しかしどうするか、パイロットのことまでは考えてなかった」
「操縦は私がしますよ? これでもパトリオット様よりも長くここに滞在しているのです。モービルギアの一つくらい操縦できますよ」
エルファは力こぶを作るように腕を上げる。ウィンクをして、こういうところで可愛さアピールはいらないのだが。
「おーい、大将ー」
そこへイクサードがやってきた。
「どうした。お前は連れていかないぞ」
「そうじゃねーよ。俺に対しての指示はねーのか?」
「指示なんて出しても言うことを聞くつもりがなければ意味がない。好きに暴れまわって構わん。そうだな、唯一指示を出すとすれば、できるだけ死傷者は減らせ。お前の腕ならできるだろ?」
「それくらいなら問題ないぞ。できるだけ、でいいんだろ?」
にやりと、楽しそうに笑った。
「おいおい、だからって全員殺しましたじゃ済まされないからな。と、まあお前ならそんなことをしないだろうがな」
「任せろよ。一応これでも大将の右腕だと思ってるからな、言われた通り、いやそれ以上の成果はあげてやるよ」
「期待してるぞ、右腕」
軽口を叩ける仲というのはありがたい。エルファもナスハも結局主従関係でしかない、というのが彼女たちの考え方だろう。
俺が右拳を出せば、イクサードは右拳をぶつけてきた。
もう言葉はいらない。
俺たちはエルファとナスハを連れてモービルギアに乗り込んだ。
深く腰掛けてみるが乗り心地は悪くない。シートベルトを締め、コクピットのエルファを見た。手際よく操作をし、オペレーターとのやりとりも妙に慣れた感じだ。
しばらくするとモービルギアが動きだし重圧感がやってきた。瞬く間にハンガーを抜け、大空へと飛び出した。
ハーナム大陸の方は縁がなんとかしてくれるだろう。アイツは少々メンタルが弱い部分もあるが、正義感が強く信頼に足る人物だ。それは俺がよく知っている。
エベット大陸はイクサードたちがなんとかしてくれる。ヘリウムみたいに軽い頭のようでいて実はそうではない。あれでも自分なりに考え、最善手を打ってくれる。
あとはライスラーを俺たちがなんとかする。ポルトスに関してはこれから考えるとしか言いようがない。が、きっとなんとかなるだろう。
重く考え過ぎてはいけない。
「そういえば、パトリオット様はアーマードギアを扱わないので?」
「そういうナスハはどうなんだ?」
「私は訓練を受けていません。ファーランガルについて間もなく、基本的な情報しか有していませんから」
「ははっ、俺も同じだ。それに俺は戦士じゃない。そうだろ?」
俺がそう言えば、ナスハは口に手を当ててくすくすと笑う。
「ええ、そうですね。貴方はキングですからね」
彼女の笑顔はあの頃と変わらず、俺の心を潤してくれる。幼い頃、父に兄にと虐げられていた俺を救ってくれたこの笑顔が近くにあるということ。それが、今はなによりも嬉しかった。




