四話〈クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ〉
防衛戦を張って戦闘に備える。が、ライオネルが有するのは三大陸。俺と共闘関係にあるのはニ大陸。戦力的にもそうだが、大陸そのものが人質のような扱いということになっている。
残っているのはポルトス大陸、ライスラー大陸、ハーナム大陸だ。俺たちがいるエベット大陸、縁が戻っていったバド大陸よりも面積は小さい。それでもかなりの数の民衆がいる。それらを放っておいて戦闘を仕掛けるというのは理に反する。
ではどうするか。
とまあ作戦などは考えついていないわけだが。
そこで客室のドアがノックされた。
「どうぞ」と俺が言えば、「お待たせしました」と言いながらエルファが入ってきた。どうしてこうなったのかはわからないが、俺とエルファは一緒の客室で寝泊まりすることになっていた。そこそこに広く、ベッドも二つあるので俺としては問題ないが。
「ご報告します。ポルトス大陸の使者と接触、領主であるガイナン様との通信が可能となっています。あとはライスラーのカイ様との通信も可能にしてまいりました」
「よくやった。さすがは俺の侍女だ」
「所有物扱いされるとそれはそれで否定したくなりますね」
「うむ、正直すまなかった。まあいい、座って茶でも飲め」
「ありがとうございます」
淑やかな動作で座り、俺が入れたお茶を一口飲んだ。
俺がエルファに頼んだのは、ポルトス大陸とライスラー大陸へと赴き、連絡手段を確保することだった。実際、俺は昨日ファーランガルについたが、エルファは数日前に到着していた。その間はナスハに護衛を頼み、エミリオとクオリアは一足先にスーべリアットに帰らせた。俺がファーランガルに来るのと同時に、ナスハは一度スーべリアットに帰っていった。一応今の主は大我だしな。
各大陸の領主はミュレストライア兵によって幽閉状態にある。が、抜け道がないわけじゃない。特に他の大陸にいるミュレストライア兵の中にも俺の思想に賛同する者も少なくないのだ。
「さて、それじゃあこれからの行動について考えるとするか」
「本当になにも考えていないのですね……」
「まあそうだな、有無を問われると難しい。はっきり言ってしまえば、ライオネルに気付かれないようにすればいいだけだからな。気付かれないように他の大陸と連携を図り、内部から一気に崩す」
「考えているではありませんか。それでは不満なのですか?」
「作戦や戦略などという崇高なものじゃない。球技で言えばボールをゴールに入れるくらいなものだ。チェスだとチェックする感じか。漠然的な指標でしかない。幸いなのはルールがないってとこくらいだな」
「でもそうやって考えているということが重要なんじゃないですか? パトリオット様は不遜な態度なくせに慢心しませんよね。それに自分より格下だと思っても手を抜かない、侮らない、気を抜かない。あくまで自分は上であると見せておいて、それが態度でしかないというのが本質です。そういうスタンスだからこそ、逆に見ていて安心できる」
「よく見てるな、お前ら姉妹は。この前ナスハにも同じようなことを言われた」
「私と離れていた時ですね。なんかちょっと悔しいです」
「悔しがることなんてないだろ。実の姉じゃないか」
「姉だからこそ悔しいんじゃないですか。近しい存在だからこそ、とってもとっっっっても悔しいんです」
頬を膨らませてそっぽ向いてしまった。なにが悔しいのかはわからないが、これ以上聞いても実りがなさそうだ。むしろ藪から竜が出てきてしまうくらいには、突っついてはいけない気がした。蛇くらいならなんとかなるが、竜となれば俺でもかなり苦しい。
「それよりもいいのか? せっかく何年ぶりかに再会したんだろ? 必要ならば時間を取るぞ?」
「姉さまと落ち着いて話しをしろ、ってことでしょうか」
「そういうことだな。俺だって鬼じゃないんだ、時間くらい工面するぞ」
「うーん、確かにお話はしたいです。今までなにをしていたのかとか、スーべリアットの暮らしはどうだったのかとかは聞きたいですよ。姉さまとパトリオット様を待っている間、私がどんな気持ちだったのかとかも聞いて欲しいです。でも、それは今することじゃないと思うから」
「俺に遠慮しているのか?」
「そういうわけではありません」
ふるふると、エルファは首を横に振った。
「じゃあなんだ? 俺たちは戦場にいるんだ、いつ死んだっておかしくないんだ。今のうちにできることはしておいた方がいいぞ?」
「私たちが落ち着いて話をするのは、この戦いが終わってからです。そして、私は貴方が玉座に就くまでは死ねません。だから大丈夫なんです。私も、姉さまも、貴方がこの戦いに勝つことを信じているから」
「そうやってプレッシャーをかけるのも、なんというかお前らしい部分なのかもしれんな」
「プレッシャーなんてかけてませんよ? 私たちにとって貴方は希望です。本当に、心から信頼してるんです。貴方には「なんて都合のいいことを言っているんだ」と言われても仕方ないと思います。だって、私たちは貴方の友人でも親族でもないのですから。それでも貴方は絶対に拒否しないとわかっているから、私たちは貴方に縋っている。とても卑怯で、とても醜いと思いますよ、自分でも」
「まあそうだな。俺はずっと寝ていたわけだし、起きていきなり世界を救えと言われても困る。が、別にお前たちが気負う必要はない。誰が言わなくても俺はやっただろうしな」
「そういうところが素敵なんですよ。確かにライオネル様のようなカリスマ性はないかもしれません。でも、貴方は直接心に語りかけるという力がある。忌術とか魔術とか、そういう外的要員ではない。安心してついていかれる将であり、信じて傅ける王です。そばに居て、心が休まる」
「そう言ってもらえるとありがたいね。こちらとしてもやりやすい」
壁にかけてある時計を見れば、そろそろアイツらが来る時間だ。
ティーカップの中身を飲み干せば、それを見たエルファも同じように飲み干した。
「行きますか?」
「ああ、迎えにくらい出てやるさ」
部屋から出れば、当然のように彼女がついてきた。
「もう少し休んでてもいいぞ。仕事が終わったばかりだろう」
「そういうわけにも行きません。ミュレストライアのパトリオット派の中で、私はパトリオット様を任された存在なのです。できる限りお伴させてもらいます」
「おいおい、もしも俺に女ができたらどうするつもりだ?」
「そんなことはございません。貴方はそういう人間ではないと断言できます。それに、もしも必要ならば、その、私がお相手致します……」
先ほどまでは目を見て話していたはずなのに急にしおらしくなってしまった。羞恥で顔を赤らめるのならば言わなければいいのに。と、思う反面、そういう一面を見せてくれるのは素直に嬉しい。




