三話
「先に行くよ」
『ええ、こっちは援護射撃しながら接近するわ』
アルクノスは三つのエンジンを積んでいる。一つ一つはディオレットのものに比べれば小さいが、用途に応じて主体となるエンジンが切り替わるという特殊な機構になっている。高速航行、旋回、上昇下降などである。そしてそれらをスムーズに切り替えるのが補助モーターだ。
どんな過酷な状況でも、コイツならば応えてくれると思った。
ちょっと気を抜いただけで敵を通りすぎてしまいそうなほどの速度。その中で、オートで敵を捕捉してくれるのはありがたい。
突貫から敵を数十体、一瞬のうちに切り刻む。少しスピードを落とし、上下左右へと方向を変えて蹴散らしていく。が、やはりただの実剣では限界がある。
空気中の魔法力を集めながら攻撃を繰り返し、ある程度まで貯蓄されたのを見計らってから剣に光をまとわせた。本来はよりも大きくなった剣は、ディオレットの数倍はあるだろう大きさまでになった。
切り伏せ、吹き飛ばしていく。エルアの援護攻撃もあり、僕の周囲にいた敵は瞬く間にいなくなった。が、それでは駄目なんだ。
『ちょっと! 撃ち漏らしが多すぎるわよ!』
剣の攻撃範囲は広がった。剣からの衝撃波で遠くの敵まで攻撃できるようになった。しかし、それでも僕ら二人では限界がある。特に相手は五千という軍勢だ。元々前衛で殴り合いを想定して造られた機体だ。大衆戦闘向きのミサイルや遠距離射撃用のビームガンなどが装備されていないのだ。アルクノスには装備されているのだが、敵の気を惹きつけながら遠距離武器を使うなんていう戦術は、今の僕には到底できることではない。
「あまりやりたくなかったが、どうやらこうするしかなさそうだな」
アルクノスのコクピットに少しだけ意識を向ける。
「頼むぞ、クラリット」
コクピット内にクラリットを召喚。これで前線の戦力が一人増えた。
『これはまた無理難題を押し付けますね』
「悪いな。でもキミならできるだろ? ずっと僕の側で、僕の訓練を見て、僕の操作を見てきたキミなら」
『見ただけでできるなら苦労はしませんよ? それに、この機体は縁でないと動かせないのでは?』
「登録したのは僕の魔法力だ。つまり、僕の祠徒であるキミならば扱えるはずだよ。さあ行こうか、戦力を削ぎとってやるんだ」
『わかりました。できるだけ、やってみましょう』
二対の機体を分離。僕はその場に残り、クラリットだけが飛び出していった。
剣からビームガンに持ち替え、クラリットの前方に攻撃。すぐに剣に切り替えて再度迎撃体勢に入った。
僕が最前線で大立ち回りをすれば、味方の中衛と後衛からの支援もかなり活きる。なによりも驚いたのはエルアの援護能力だ。注視しているだけの時間はないが、目端に捉えただけでもかなり戦えてるように見える。援護能力だけじゃなく、接近戦闘も軽快に、危なげなくこなしている。敵の攻撃をギリギリで避けるのではなく、まず相手のテリトリーに入らない。入ってもすぐに出て攻撃の空振りを誘うような戦い方が印象的だ。
負けてはいられないなと、僕は兜の緒を締めた。
こちらの戦力は一割も減っていない。けれど相手は半数近くを失った。ここで後退してくれればいいのだが、彼らもそういうわけにもいかないんだろう。
幾度と無く攻撃を繰り返し、敵の数が減ったことで後衛に位置する大将の姿がようやく見えた。指揮官と思われる機体は、他の機体よりも豪華な装飾だったのですぐにわかった。
「頭を取りにいく! 援護を頼む!」
僕がそう言うと『了解』という冷静なクラリットの声と『また勝手に!』というエルアの罵声が聞こえてきた。
なかば無視するように、一般兵を薙ぎ払いながら直進した。
切りつけながら指揮官に迫るが相手だってバカじゃない。僕を待っていたかのようにしっかりと攻撃を合わせてくる。しかもカウンターまで準備しているではないか。
上段から斬りつけた僕の攻撃を、槍の柄で捌き、下段から切り上げてきた。
「だが、甘い!」
指揮官との戦闘であっても、この大衆の中では後ろから攻撃されかねない。全てを一撃必殺のつもりで当てにいかなければいけないのだ。
相手の方が獲物が長い。ここで退いたら、無駄な読み合いをして接近しなきゃならないんだ。
それならばと、逆に前進して切り上げを右手の剣で止める。そして、左手の剣で頭をふっとばす。これでメインモニターが使えなくなったはずだ。
槍を弾き、左で横一閃。右で頭から股までを真っ二つにした。
爆風に巻き込まれないように即離脱。再度一般兵の掃討へと戻った。
しかし、兵士たちの動きが少しずつおかしくなり始めていた。指揮系統が統一されすぎるというのも問題なのかもしれないな。
「一気に叩く! アームジョイント:アルクノス!」
高速飛行をしながら変形し、アスクノスは巨大な大砲のようになった。
腕や肩を包むような形になったそれを飛行しながら連結すると、移動の反動で機体がもってかれそうになった。
脚部、腕部のブースターを限界まで噴出して耐える。
『エンゲージ完了、プラグイン。魔法力の集約を確認』
「いくぞクラリット! 魔法力全開!」
『ブラスターモードの使用を許可します』
「敵兵力捕捉。味方兵力との識別完了」
戦闘機の状態からあまり変化はないが、先頭が銃筒になっている。そして、その銃筒へと魔法力が集中してビームソードになった。長い長いそれは、ビーム砲と言われてもおかしくないほどの長さだった。
あとはビームソードを振るうだけ。ただ長いだけの兵器と違う点は、敵と味方を識別して攻撃対象を勝手に認識してくれることだろう。剣よりも鞭に近く、振るった剣の先が味方だった場合は曲がって避ける。逆に、当たっていなくても敵の近くを通れば曲がって当たる。かなり画期的なビーム兵器だと素直に感心してしまった。
ただしデメリットもある。
魔法力の消費が大きいため、最初かた使うこともできないし、できたところでエネルギーの残量がかなり減ってしまうのだ。ここぞという時にしか使えないだろう。
何度か剣を振るえば、敵兵力は十分の一程度まで減少していた。逃げようとする兵士を追ってまでは攻撃をしようと思わなかった。すでに戦意喪失状態であるならその限りではない。
『ご苦労じゃった。ワシらの勝利じゃ』
「ええ、なんとかなりましたね。すぐに帰投します」
『帰ったらすぐにハーナム大陸に向かうんじゃろ?』
「そればパットのシナリオらしいので。できれば休みたいという気持ちはありますけど」
『一時間ほど寝ると良い。救急ポッドなら、一時間でもだいぶ違うと思うぞ』
「お言葉に甘えてそうさせてもらいますよ」
そう言ってから通信を終わらせた。
基地へと戻る際に、敵兵士が逃げていった方向を振り向いた。
この基地を襲撃するために五千という兵力をつぎ込んできたということ。それがなにを意味しているのかを、僕たちは深く考えなきゃいけない。相手は強大で、それ以上の戦力を有しているのだということを、配慮した上で行動しなければいけないのだと思った。
これからどうなるかはわからないが、とにかく今はハーナム大陸に向かうことを優先する。
犠牲は最小限に留めたいと切に願う。同時に、この願いは僕だけでは叶えられないことに胸を痛めた。




