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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ホープピーシーズ編】 クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ
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七話

「人質を開放するための布石だ。が、お前にはわからんか」


 わざわざ鼻で笑ってやった。すると、マーケンはわかりやすく額に血管を浮かせる。


「短気でいいことなんて一つもないぞ? もっと落ち着いたらどうだ? それとも、なんだかんだ言って一番余裕がないのはお前じゃないのか? 口も脳みそも大したことないな。お前にあるのは親の七光りだけで、お前自体はなにも持ってない」


 小刻みに震え始めたがヤツのことはもうどうでもいい。住民が再度捕まらないように、大男全員をここで組み伏せるのが次の目的だ。


 問題があるとすれば、今までのように祠徒頼みの戦法が使えないということ。かといって魔術が得意じゃない俺は、複雑な術式を駆使した戦い方もできない。


 もしも縁ならばインベステックアッシュを使ってもっといろんなことができたかもしれないが、俺はアイツほど器用ではないのだ。


 エルファは大男二人を引きつけてくれている。それでも、彼女よりも弱い俺が三人を相手にするというこの状況は好ましくない。彼女が二人しか相手にしないのは、体格のせいでそれ以上引きつけられないからだろう。


 大男がそこまで魔術に精通していないというのが救いだ。


 迫り来る三つの巨体。毎回同じように時間差で突っ込んでくるため非常にやりやすい。この時間差攻撃は仕込まれたものだとわかるが、間隔や速度が同じなので避けるのも受けるのも容易い。最初は少し面食らったが、何度も見ていれば慣れるというものだ。


 巨体の群れへと突っ込み先頭の大男を避ける。その際に足を引っ掛けておいた。


 二番目のヤツを攻撃する振りをして、これもまた横に避けた。


 そして、速度を更に上げて三番目の大男へと攻撃を仕掛ける。腕を伸ばしているため、まずその腕を下から下からかち上げる。腕がやたらと太いため、俺の左拳が軽くめり込んだ。


 アッパーのような体勢から身体を旋回させ、ヤツの顔面に回し蹴りを見舞う。若干上方へと打ち上がった体躯。最後に右ストレートを腹部にぶち込んでやれば、後方数メートル先へと吹き飛んだ。


 家屋は倒壊してしまったが、動いてくる素振りはないのでまあよしとしよう。


 背後を振り向くと、最初に避けた二人が地面に突っ伏していた。一番目の大男を減速させることで、二番目の大男と衝突するように仕向けた。ただしこれだけではダメージにならない。


 脚部を最大まで強化して疾駆する。そして、起き上がろうとする大男の顔面を蹴り飛ばした。これもまた派手に吹き飛んで動かなくなった。なんというか、住民には少々申し訳なく思う。家屋の方は後でモゾリスにでも言って直させればいいか。


 最後に一人だけ残った。今の攻撃で少し離れてしまったがなんとかなるだろう。


 が、そこで力が抜け始めていることに気付いた。この契術、十分や二十分しか保たないのか。発動した状態での実践が初めてだったというのが問題だろう。


 それでもあと何度かは行動できるはずだ。


 と、思った時だった。


 大男の近くには、さっき助けたはずの少女がへたり込んでいる。


「んなバカな」


 と、思わずつぶやいてしまった。


 貧困街に暮らしていても、まだ年端もいかない少女だということに配慮がいかなかった。少女が逃げたのを確認してから戦うべきだったのだ。


「そいつを人質にとれ!」


 マーケンの声に反応し、大男の手が少女に伸びる。


 小さく息を吸い込み、できる限るの魔力を収縮させて走った。


「これならいける」と思った。けれど少女に到達する直前で契術が切れるのを感じた。


 手を伸ばし、今度は俺が使える魔力を放出する。縁の身体を体現する契術は解けたが、まだ動けないわけじゃない。


 少女に手が触れた。


 腕を掴み、心の中で「脱臼か骨折くらいは覚悟しろ」と思いながらぶん投げた。


 直後に襲い来る強烈な衝撃。と、思ったが予想していたような出来事は起きなかった。


「弱いくせに、その身を呈してでも自分より弱い奴を守るか」


 どこから出てきたのか、イクサードが大男の腕を片手で止めていた。


「お前、なんで」

「様子を見に来ただけのつもりだったんだが、どうやらそうもいかないらしくてな」


 一瞬、ヤツの姿が消えた。かと思えば同じ場所に戻り、代わりに大男が膝から崩れる。


「お前は王に向かない。が、お前みたいな王も悪く無いと思う気持ちもある」


 そんなことを言いながら、俺ではなくマーケンの方を見た。


「おい、ルフルスの小倅。マーケンつったか、お前の権力はこっちで制限させてもらう。次なんかやらかしたら、ルフルスの当主に言いつけて絶縁させてやるから覚悟しとけよ」

「お、お前にそんな権限はないだろう! それに貧民狩りなんて、ある程度身分があれば誰だってやることじゃないか!」

「うるせーよクソ野郎。元々貧民狩りは犯罪だ。なぜか容認されてきただけでな。今度からコイツが全部取り締まるだろうよ。」


 なんて言いながら、イクサードは俺を見て笑った。


「くっ……! 三嶽神だからっていい気になるなよ!」


 マーケンは近くにいた大男を無理矢理起こし、そそくさとその場から立ち去った。


「パトリオット様!」


 エルファが駆け寄ってきて、俺の身体を触診し始める。腕や足、身体や顔をひとしきり触ると大きなため息をつく。


「お怪我がないようでなによりですが、私がもっとしっかりしなかったばかりに……」

「お前だって万能じゃないだろ。気にするな」


 目を伏せるエルファにそう言ったが、彼女はなんだか納得していないようだ。


 仕方ないと、少し強引に頭を撫でた。


「じゃあまた屋敷に帰ってから訓練に付き合え。一番の仕事はそれだ、俺の護衛じゃない」


 まだ不服そうではあるが、放っておけばなんとかなるだろう。


 ヤツがいなくなってすぐ、貧民街の住人たちがぞろぞろと姿を現す。


「あ、あの……!」


 かと思えば、先ほどぶん投げた少女が小走りで駆けてきた。


「腕は大丈夫そうだな。一応診てやってくれ」


 エルファに視線を向けると「わかりました」と従順に対処する。ここまで従ってくれるのだ、助けに来なかったからと叱咤できないだろ。


「パトリオット様、ありがとう」


 魔術で回復してもらいながらも、少女は震える唇でそう言った。


 ああ、まだ恐怖が残っているのだな、というのがよくわかる。


「礼を言えるのはいいことだな。真っ直ぐ育てよ」


 俺は少女の頭を撫でた。俺の胸よりも低い身長なので、非常に撫でやすい。


 くすぐったそうにしている少女を見て、自分がしたことの正しさを分析する。貧民狩りが行われているのはここだけではないのだ。連絡を受けたからと、この貧民街だけを助けただけではなにも前進しない。


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