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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ホープピーシーズ編】 クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ
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六話

 停車を確認してビークルを飛び出せば、様々な悲鳴が耳に飛び込んできた。

「行くぞ」と俺が言えば「お任せします」とエルファが言う。


 指輪に魔力を込めて〈巣食う魔を掬う者〉を発動、そのまま教えられた通りに契術を編んでいく。指輪からは何本もの光の線が伸びて俺を包む。契術の完成を知らせるかのように、その光の線は俺の身体に溶けて消えた。


「大丈夫そうですか?」


 拳を開いて閉じ、開いて閉じを何度か繰り返す。


「ああ、懐かしい感覚だ」


 なんというか、今まであった脆さのようなものがなくなった。しっかりと作られた桿体、靭やかな筋肉、体調もよくなったように感じる。


 この状態になっても顔などが変わるわけじゃない。若干筋力や骨格は変わるが、俺の身体が耐えられるギリギリでしかない。あとはこの契術がカバーしてくれるというわけだ。つまるところ、縁の体格になるのではなく、俺が縁の身体を使っていた時の感覚で動ける、というかなり間接的な契術なのだ。


 まあ、モゾリスたちが俺のために作ってくれたというのだ、文句を言うのも筋違いだろう。


 ボロボロになった土造りの家屋。茶色がむき出しの地面。外に干されている洗濯物はかなり使い古されているのか、あと一回身につければ破れてしまうのではと思うような布切ればかり。


 この貧困街はまだいい方かもしれない。中には雨風をしのげるような場所すらなく、気候や土壌の関係で田畑さえもまともに作れない土地だってある。


 汚れたマントを身にまとう人々を横目に、貧困街の中を駆け抜けていく。マントから覗く手足は細く、貧困街こそがこの国、この世界の凄惨さを体現しているのではとさえ思った。


 直進を続けるとひらけた場所に出る。そこでは、小太りの貴族が、半裸にズボンに仮面という風貌の超大柄な男を従えていた。なぜその小太りが貴族だとわかったのかと言えば、もう身なりがいかにもだったからだ。超大柄な男は、身長が俺の数倍くらいあり、少女を片腕で掴みあげている。このまま放っておいたら握りつぶされてしまう。目と口のところに穴が空いたあの仮面は一体なんなのか。捕まえたあとにでも問いただしてやろう。


 周囲には大きなランドビークル。ビークルの後ろには大きな檻が繋がっており、何人もの人間が詰め込まれていた。おそらくはここの貧困街で暮らしている住民だろう。若い女ばかりを集めているようだが、女たちがどのように扱われるかは想像したくないな。


 ビークルの周囲には私兵と思われる兵士が何人もいる。面倒だなと、正直そう思った。


「そこまでだ。その少女を下ろし、収容した住民を開放しろ」


 悲鳴の中であっても俺の声が届いたのか、小太りの貴族がこちらに視線を向けた。


「なんですか、貴方は」

「パトリオット=エルド=アルメイシュだ。というか、人に名前を訊く前に自分から名乗れよ」


 俺の名前を聞き、小太りの貴族は一気に青ざめたようだ。


「パトリオット様、彼は王宮都市に住むマーケン=ルフルスです。ルフルス家は高級貴族であり、評議会への献金もかなり多く行っています。ここで問題を大きくするのは適切とは言えないでしょう」


 エルファが小声で話しかけてくるがどうでもいい。


「おい、聞こえてるんだろ。今すぐに住民を――」


 野太い風切音がして、咄嗟に左へとステップした。


 なにかが墜落したみたいな音がして、今まで俺がいた場所には土埃が上がっていた。


 土煙の中には大男。少女を掴みあげている大男と同じような格好をしている。


「これはこれは失礼、パトリオット様でしたか。私の名前はマーケン=ルフルスです。王子の言うことは聞いておきたいのですが、私にも商売というものがりますので」


 上空から岩石が一つ、二つ、三つ。その全てを避け、近くの壁を蹴って家屋の屋根へと跳躍した。


 新しく三つの土煙が上がり、その中で三人の大男が立ち上がる。


「いやー、こんな世の中にも正義を背負う者はいるんですね。でもですよ王子、その正義は必要ないのですよ。世界は変わったのです。いや、初めから変わってなどいないのかもしれませんね。弱肉強食は世の常ですから」


 自分はなにも悪いと思っているのだろう。上から目線の態度とあの口調、全てを見下すような視線。嫌悪感しか抱けず、こんなヤツが人の上に立っているのが許せない。


「お前はこんな世の中が楽しいか?」

「楽しいですよ? 私は貴族ですからね。でも貴族が王族に逆らったとあればいろいろと問題でしょう。なので、貴方を殺して、王族に逆らったという事実を消去させてもらいます。貴方を殺せば、ライオネル様の足元にも近づけるでしょうし」


 マーケンは右手を前に出し「やれ」と言った。


 五つの巨体が俺に向かって飛んで来る。一斉にではなく、一人ずつ時間差で攻撃を仕掛けてくるらしい。少女を掴んでいたヤツも、その少女を地面に投げ捨ててこちらに向かってきた。


 一人目を避けて別の家屋の屋根へと飛び移った。そうするとまた別の大男が突撃してくる。縁の身体を体現するのにも限界があるだろうし、早めになんとかしなければ八方塞がりになりそうだ。


 エルファも大男の相手をしているが、命令は絶対と言わんばかりに俺だけを執拗に狙ってくる。大男たちは身体が大きいだけでなく、移動速度も尋常ではないほどに速い。小さなエルファ一人ではカバーしきれないだろう。


「仕方ない、無理矢理こじ開けるか」


 一度地面に下りて方向変換。襲いかかる大男の脇をすり抜けた。


 向かう先は住民が捉えられている檻だ。


 右手に魔力を集中し、すれ違いざまに檻をぶち壊す。地面に倒れていた少女を回収し、家屋の陰に下ろした。


 すぐさま、もう一度檻へと走りこむ。大男が、逃げようとしている住民たちを攻撃しようとしていたからだ。


 腹部への強打で吹き飛んだ大男だが、住民はおどおどするばかりで逃げようとしない。


「さっさと逃げろ。巻き込まれるぞ」


 俺に言葉でようやく状況を飲み込んだのか、住民たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。


「なるほど、さすがはライオネル様の弟君。ずっと寝ていたと聞いていましたが、それを感じさせない。でも先ほど逃げまわっていたということは、戦う自信がないのではありませんか?」


 大男五人を背後に従え、マーケンは楽しそうに言った。


 どう戦おうか考えていただけであって、別に大男に恐れをなしたわけじゃない。家はすでにいくつか壊されてしまったが、とりあえず人に被害がいかなければいい。


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