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天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ホープピーシーズ編】 クロスオーバー:パトリオット=エルド=アルメイシュ
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五話

「パトリオット様、無理はよくないですぞ」

 どこから現れたのか、モゾリスが目の前で贅肉を揺らしていた。ハンカチで顔を拭き、なにがそんなに暑いのかと言いたくなる。


「どうしたんだ。今日は評議会の会議じゃなかったのか?」

「ええ、一応私も評議会の一員なのでちゃんと出席してきましたよ。そうでなければ、すぐにでもライオネル様が王になられるでしょうし。と、そうではありません。今日はある方を紹介するために来たのです」


 モゾリスの背後にいる人物が一歩前に出た。黒い髪の毛、妙に目付きが悪くやんちゃそうだなというのが第一印象だった。


「俺の名前はイクサード。イクサード=ナンバライズだ。三嶽神、黒の銘を受け継ぎし胎動。お前は俺に感謝する義務があるんだ、これから丁重に扱ってくれよ?」


 口元に笑みを浮かべながらそう言うイクサード。なるほど、コイツがこちら側についてるからライオネルが王になれないわけだ。


「三嶽神ってのは、どいつもこいつも態度がデカイな。口を開けば他人を見下すことばかりだ」

「当然だろ? 俺たちはミュレストライアの頂点に立つ戦神。王さえも縛れない存在なんだ。人を見下して文句を言われる筋合いはない」

「頂点に立つと自分で言ってるじゃないか。それならば相応の態度というものがある。お前の態度では民に尊敬されないだろうな」

「戦神だ、そんなことはないさ。俺の力にひれ伏し敬っている」

「さて、そう思ってるのは自分だけだったら面白いな」

「本当にそうだったら面白いな」


 そんなことを言いながら、ヤツは薄く笑った。


「面白くなる前に笑ってるようだが?」

「いやなに、安い挑発だと思ってな。そんなことをしても無駄だ。俺はそこまでプライドが高いわけじゃないし、例えば貧困街のガキどもにタメ口をきかれたって普通に接する。他人は見下すが地位に関係なく、俺の前では平等だ。それだけは覚えておけ」


 言葉に棘はあるが悪いヤツではなさそうだ。忠誠心や従順さには期待できないだろうが、もしかすれば戦友としてならばいい活躍をするかもしれない。


「モゾリス様、少々よろしいでしょうか」


 イクサードとのやり取りが終わった時、入り口から一人の兵士が入ってきてモゾリスに耳打ちをした。急ぎの用事なのか、その顔は少々険しい。


「なるほど、わかりました。貴方は別荘の警護に戻りなさい、あとはこちらでなんとかしましょう」


 兵士は一礼してから部屋を出ていった。


 モゾリスはまたハンカチで額を拭い、視線を右往左往させてから申し訳なさそうに口を開く。


「パトリオット様、通称〈狩り〉と呼ばれる行為をご存知でしょうか」

「わざわざ通称と言い換えるってことは、ただの狩猟じゃないんだろ?」

「はい。暇な貴族や軍人が貧困街へ赴き、貧民を攫っていく行為のことです。時には奴隷用として、時には愛玩用として、時には食用として。その用途は様々です」

「貧民は人じゃない、か。クソみたいな考え方だな」


 身体は痛いが、ここで立ち上がらなければいけない。俺が果たさなねばならない責務だと思うからだ。


 目眩がして身体が揺れ、そこをエルファに支えられた。


「どうするおつもりですか?」


 彼女は怪訝そうな顔でそう言った。


「どうするもこうするもない、貧困街へ行く。その〈狩り〉をやめさせる」

「そんな身体では無理です! もう少し普通の生活をしてからでないといろいろと支障が出てしまいます!」

「そんなことはわかってる。それでも俺が直接出向くべきだ。お前たちに行かせて、もしもお前たちじゃ対処できない相手だったらどうする。戦力にはならないだろうが、権力的には俺が一番上なんだろうが」


 そう、わかっている。筋力もそうだが、俺は何年もちゃんとした栄養を摂取していないのだ。栄養剤などは点滴や魔術で補強されていても、骨も弱く血の巡りが悪く心臓の鼓動もまだ若干弱い。運動をすることに身体が順応できないのだ。


「もしものことがあります!」

「お前も一緒に来るんだよ。それならいいだろ。モゾリス、どこの貧困街かわかるな」

「はい、Bー13地区でございます」

「わかった。俺とエルファ、それと運転手が一人。運転手への護衛を三人つけろ」

「承知いたしました」


 モゾリスはすぐにどこかへと連絡を入れた。かたや俺とエルファは別荘の出口に向かう。


 別荘から出ると目の前には車が止まっている。こちらの世界ではランドビークルと言うが、皆ビークルと訳すことが多い。まあ、スーべリアットにある車とそう大差ないので扱い方はわかる。


 助手席に乗ろうとしたが「パトリオット様は後部座席です」と言われた。結局、三人の一般兵士の一人が前へ、俺とエルファが後部席、その後ろにある最後部席に残りの二人の兵士が乗り込んだ。


 若干の浮遊感があり、ビークルは離陸する。そして地面数十センチ上空で停止し、高度を維持したまま発進した。


「先日お教えした魔術を覚えていますか?」

「あれか、俺の記憶の中にある縁を体現する魔術か」

「そうです。厳密には魔術ではなく、魔術とゲートを融合させた〈契術〉と呼ばれるものです。非常に小さなゲートを発生させる術式を使い、特定の魔術を強化することで契術として扱います。注意事項は覚えていますよね?」

「ああ、基礎となるゲートを生む魔術〈巣食う魔を掬う者(クローデッドセーバー)〉をちゃんと調整しないと、ゲートが大きくなりすぎてどうなるかわからないってやつだろ」

「そうです。この契術は、一般の兵士では使えません。先日お渡ししたその指輪があって初めて使うことができるのです。〈巣食う魔を掬う者〉という魔術は、特定の魔導器〈インベステックアッシュ〉がなくては発生させられません」

「大丈夫だ。何度か練習もしたし、なんとかなるだろう」


 成功率は半分以下だが、それは言わないでおこう。


 俺が教えられたのは、頭の中にあるイメージを具現化させるというもの。例えばこういう物が欲しいという物質を想像しても出現させることはできない。これは「俺が持つ安瀬神縁という人物を、自分の身体を媒介にして顕現させる」という契術だ。逆に言えば、アイツの身体を何年も使っていたからこそできるのであって、他の人間を表現しようと思っても俺には不可能。言ってしまえば、扱ったことがある他人の身体を無理矢理使えるようにするという契術であるため、汎用性はかなり低いと言える。


 エルファが俺に対して注意勧告をしている間、ビークルはものすごい速度で移動を続け、ものの数分でとある貧困街へと到着した。

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