表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
天才術師の存在証明《イグジステンス》  作者: 絢野悠
【ファーランガル編】
69/162

最終話〈リターン:安瀬神縁〉

 疲労が溜まり、思わず両膝と両手を地面についてしまった。四つん這いになると汗がポタポタと地面に落ちていく。額から、頬から、鼻先から。これでもかといほど、体中の水分が抜けていくようだ。


「もう終わりか? 世界を救うのがお前の目標なんだろ? こんなところでへばってどうすんだよ」


 こんな状態だというのに、イクサードは躊躇なく蹴りをいれてくる。両腕に力を込めて右へと飛ぶが、あの角度から蹴られたら、間違いなく鳩尾に直撃していただろう。


「捕虜に対しての容赦がないな」

「捕虜なんて奴隷と一緒だろうが」


 数日前までは「予想外だ」なんて言っていた。が、予想外の場所、予想外の距離、予想外の攻撃法なんかにはもう慣れた。そりゃそうだ、一日何時間も殴られて蹴られて、当然身体だってボロボロになった。


 擦り傷切り傷なんて当たり前。骨にヒビが入るどころか、腕がポッキリいくことだってあった。過度の運動と疲労により、胃がひっくり返りそうになったこともあった。当然吐いて、のたうち回った。でもその度に「弱すぎる」と言って更に追い打ちをかけてくるのだ。


 最初は拷問だと思ったし、このまま十日を待たずに死ぬのだろうかとも思った。けれど、僕が傷を追う度に治癒力を強化する治療施設へと入れたりと、妙に親切な部分があった。弱った僕に対しての攻撃も、普通に組み手をしている時よりもずっと弱い。


 そのうちに目が慣れて、身体が反応するようになり、思考が追いつくようになっていた。完全に対応できてないにしろ、僕は間違いなく強くなっている。


 強くなることで彼を倒すことができない、というのがまた歯がゆい話ではあるが。


 拳撃を手刀で撃ち落とそうとするが、力が足りずに肩部を殴られてしまった。身体を逸らしたが回避まではいかない。


 地面を転がって膝立ちになった。先ほどの一撃で外れた肩を直す。こういう細かい芸もできるようになってしまった。


「わかってると思うが今日でタイムリミットだ」

「もう十日か。毎日毎日吐き出して、骨を折られて、時間を気にしている余裕はなかったからね」

「そういう割には余裕じゃないか。十日待ってくれと言ったのはお前だろ? その間に味方がなんとかしてくれると思ったんじゃないのか?」

「味方が来てくれるとは思ってないよ。十日っていうのも、できるだけ時間を伸ばしたかっただけだから」

「なにも考えてなかったのかよ、お前って意外にバカなんだな」

「考えてなかったわけじゃないけど、元々人間一人が世界を救うことなんて不可能なんだ。もしもなにかが起きたとしたら、それは奇跡に等しいなにかがあるんだと思う。でもきっと、奇跡に至るまでの軌跡は人が作ったんだ」

「面白いなお前は。最初に会った時から思ってたけど、大将が言ってた通りだわ」

「大将? 大将って――」

「また好き勝手やってるようじゃないか」


 僕がイクサードに聞き返している最中だった。


 聞き覚えのある声が訓練場を切り裂いた。


 出入り口から一人の男性が入ってくる。軽やかというよりも少し重めの足取りは、様々な物事に対して面倒臭いと思っている。そんな足取り、態度、表情。


「お前、なんでここにいるんだ……」


 靴音が場内に広がっていく。


 近づいて来きたその人物は、目測五メートルのところで歩みを止めた。


「なんでと言われても困る。本来あった場所に戻り、本来やらなければいけない仕事をしているだけに過ぎないからな」


 あの姿からは想像ができないほどに高貴で貫禄がある佇まい。鋭い眼光はなんだか心を見透かされているみたいだが、こうやって向き合ってみると悪い気はしなかった。


「ここに来た理由を、わかりやすく説明してくれよ」


 僕がそう言うと、彼は鼻で笑って見せた。


「ミュレストライア第二皇子、パトリオット=エルド=アルメイシュ。ミュレストライアで最高王になるため、兄を出しぬいて世界を覆さなければいけない。そのためには、ミュレストライア以外の世界が必要なんだ」


 間違いなかった。


 今、僕の目の前にいるのは、スーべリアットからミュレストライアに強制送還させられたパットだ。


 思い出話も罵倒も後回しだ。僕は彼に訊かなきゃならないことがたくさんあるのだから。


「話してくれるんだろう」

「そうだな、お前の態度次第だ」


 口ではそう言っているが、パットはアゴで「行くぞ」と僕に指示を出す。


 やれやれと思いながら、パットとイクサードと共に訓練場をあとにした。


 どんな話が聞けるのかとワクワクする反面、敵に回したという気持ちで胸元がチクチクと痛んだ。


 彼の背中を見て、自分がどうするべきなのかを改めて模索していた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ