十一話〈ビューポイント:エルアート=ファランド〉
一人で基地に帰ったエルアートは、クラレールから下りてシューベルと対峙した。
「エニシは、どうした?」
「捕虜になったわ」
「二体のアーマードギアが帰ってきたときは安心したが、まさかこんなことになろうとは……」
頭を抱えるシューベルだが、その姿を見てもエルアートの態度は一向に変わらなかった。
それは、縁とイクサードの会話に違和感を感じていたからだ。
エルアートはあの会話を聞きながら、なでイクサードがここまで縁に執着するのかをずっと考えていた。
彼ほどの腕があるのなら、コクピット部分だけを切り取って持ち帰ることもできるのではないか。自分を野放しにして帰るなど、本当にありえるのだろうか。
もしも自分ならば、脅威になるならないに関係なく、完璧に世界を征服するための道を選択し、出会った敵兵は殲滅するだろう。性格がどうあれ、ミュレストライアの目的からすればそれが正しいのだ。
「きっと縁は戻ってくる。それまでにディオレットを直しておいて欲しい。クラレールの強化も一緒に」
「そんなことをしてなにになる。もう、終わりじゃろう……!」
周囲の整備士もまた、視線を地面に落としていた。怒りの矛先を定められない者、ただただ落胆する者、虚空を見つめて脱力している者。彼らを見て胸を締め付けられたが、まだ諦めて欲しい気持ちの方が大きかった。
「少しだけやりとりとしてから縁は捕虜になった。なにか、敵にも縁にも思惑があるんだと思う。あのまま戦っていたら両方とも死んでいたかもしれない。それを考えれば、私と縁が生きているというこの状況はまだ救いがある」
「こちらが全力で作った機体の上をいき、しかもパイロットまで優秀ときてる。向こうは人海戦術で無理矢理突破してくる可能性だってあるんじゃ」
「とりあえず十日間は大丈夫よ。十日間はバド大陸に手出しをしない、という交換条件を呑ませた。逆に有利な状況で本当に実行するかは謎だけど、もしも実行したのなら敵がなにを考えているのか少しわかると思う」
「その言葉を信じていいのかどうか、ワシには判断できん」
「じゃあ辞めたらいい。私は勝ち目があるその一瞬のために自分を磨くわ」
エルアートはシューベルに背を向けたかと思えば、整備士たちをかきわけ、シミュレーションルームへと歩いていく。
「本気で信じてるのか? 大群の中で捕虜にされたエニシが戻ってくるなど、万に一つもあり得ない」
「普通なら、ね。彼は普通じゃないし、今の状況だって普通じゃない。きっとあるのよ、大きな風穴にするための小さな綻びがね」
「小さな、綻び……?」
「その綻びを大きくするのが私の役目だわ。逆に風穴を空けられなければ縁も助からないとも思ってる。だからやるの。これはきっと私にしかできない」
静かな空間でエルアートの足音だけが響いた。
異世界でただ独り。知らない土地で知人を失った。けれど、動き出さなければその知人さえ救えないのだと知っているから。
これ以上協力してくれなくても、クラレールさえ貸してもらえるのならばという考えがあった。
かつての自分では考えられない、他人のために自分を磨くという行為。それがなんだか誇らしく、緩みかけた頬を無理矢理引き締めるのだった。




