九話
バド大陸から出て別の大陸へ移動。ミュレストライアの軍勢が基地にしているであろう場所で降ろされて、すぐに目隠しをされた。
強固な手錠をされ、歩かされ、その目隠しが取られたのは牢屋の中だった。牢屋とは言っても、壁は白く電球も白い。トイレや洗面台は無造作に設置されているものの、ベッドメイキングもされていて非常に清潔感があった。
「よう、スーべリアットの英雄」
鉄格子の向こうからイクサードが話しかけてきた。
「この施設内は魔法力が少なく、導術なんかはほとんど使えない。わざわざそういう構造にしたんだろうな」
「これからどうするつもりだ? ずっとここに閉じ込めておくのか?」
「寝床はここだが、お前はこれから一日中俺に付き合うことになる」
そう言って彼は鍵をあけ、鉄格子をスライドさせた。
「出ろ」
アゴで指図され、渋々部屋を出た。彼について歩き、真っ白な牢屋の通路を進んでいく。
「どこへ行くのか聞いてもいいか?」
コツコツと、二人の靴音が木霊する。牢屋など入ったことがないため、こんなに静かなものなのかと驚きを隠せない。
「訓練場って言えばわかりやすいか。お前は俺を楽しませるために強くなるんだ。毎日手合わせしてやるからな」
「もしも僕がお前を倒してしまうほどに成長したら?」
「あり得ん。忌術を使ったりすればわからんが、単純な体術で俺に勝てるわけがない」
「勝てるわけがない。つまり成長してもお前には到達できないってことだ。そんな人間を鍛えて、お前に利があるとは思えない」
「俺の思考をすべて知ろうとは思うな。人の思考を掌握できるとでも思ったか? それは傲慢だ」
「それもそうだな。今はお前に従っておこう」
「正解にたどり着いたみたいだな」
鼻を鳴らし、彼はそれ以上口を開かなかった。
しばらく歩き、牢屋の群れを抜け、階段を上った。白い通路を直進した先にある部屋のドアを開けば、学校の体育館ほどの広さがある場所に出た。
手錠を外され、一応自由の身になる。
「構えろ。これから地獄を見せてやる」
「僕だって、ただでやられるわけにはいかないな」
と言っても、僕はパットと違って体術は得意じゃない。苦手ではないが、飛び抜けて強いかと言われると、素直に頷くことはできないだろう。
十日間という短い時間。
この基地は魔法力が薄いだけであって、祠徒が活動できないというわけではない。それがわかった以上、こちらにもまだ勝ち目は残っている。
ここで強くなれるのならば、その勝ち目は更に大きくなる。
そんなことを考えながら拳を握りしめ、地面を蹴った。




