三話
この世界ではあまり導術が発達していないらしく、導術に対しての抵抗を高める装甲はあっても、パイロットが直接導術を発動することはできないようだ。
「エニシはどのような戦闘が得意なのかな」
と、シューベルさんはそう言った。
正直なところ、導術が使えなければ僕の戦闘力はそこまで頼れるものではない。
「導術が使えるような機体はないんですよね?」
「使えないことはない。しかし、これだけ大きなものがぶつかり合うんだ。魔法力の消費もバカにならない」
「使えることは使えるんですね、わかりました。個人的には接近戦の方が得意ですね。武器は剣とかで充分です。一応程度の銃でもあれば下手なりに使いますが」
「防御と回避はどっちがメインになる?」
「どちらも頻度は同じくらいなんですよね。装甲と機動力の両立が望ましい。盾なんかをつけてもらえるとありがたいかな、とは思います」
「なるほどなるほど」
シューベルさんはタブレットPCらしきものにペンを立て、僕の発言をメモしているようだった。
「ミスエルアートはどうする。どんな戦い方が好みかね」
「私? 私は回避重視。装甲は薄っぺらくても、感度が良くて機動力に優れた機体がいいわ。武器はこんな感じのロングハンマーでお願いしたいわ」
自分が持っていたハンマーを見せると、シューベルさんは「うんうん」と頷き、またメモをとっていた。
「今あるアーマードギアを改修し、キミらに合った機体を作ろう。機体が出来上がるまでは、ここに泊まり込んでバトルシミュレーターや演習機を使って訓練してもらう。時間がないというのを忘れんようにな」
「わかりました。案内をお願いします」
「やる気は充分か、若いというのはいいのう」
そう言いながら笑うシューベルさんの後ろを歩き、僕とエルアートはある場所に連れていかれた。
格納庫の端の方、ドアの上には【バトルシミュレーター】と書いてあった。おそらくだが、コクピットだけが用意さ、ゲームのような感覚で操作を体験する場所だろう。
ドアの中に入ると、予想通りいくつものコクピットが用意されていた。
一応マニュアルは読んだ。あとは感覚を覚えることに努めよう。
コクピットの一つに乗り込み、コクピットのドアを閉めた。暗闇の中でプシューっという排気音がして、内部に光が灯る。上下左右にモニターが設置され、パイロットのバイタル値なども表示してくれるようだ。
『聞こえるか、二人共』
「ええ、大丈夫です」
シューベルさんの問いかけにそう返す。
『今から住宅街での戦闘を体験してもらう。レベルはビギナーだから難しくはないじゃろう。ここで基本操作を身につけてくれ』
「わかりました」
内部に緑色の光の線が無数に走った。その瞬間、コクピット内部の壁が全てモニターのように景色を映す。
アーマードギアは前方だけでなく、360度すべての景色が見渡せる。アシストを使いつつ、目視でも状況判断がしやすい。
一応全てのアシストを入れたまま、最初のミッションが始まった。
目の前にある二つの球体。右手と左手に分けて手を乗せた。球体は少しばかりの弾力があり、各指に力を込めると別々の動作を行う。
親指だけ動かすと右腕が上がる。親指と人差し指を同時に沈めると武器を持つ。
手のひらを押せば前進し、五本の指に力を入れると後退する。
球体を回すと左右に旋回、両手で行うと速度は倍になるようだ。
「これは慣れるまでに時間がかかりそうだ……」
プラスアルファとして、機敏に動いて攻撃をしなければいけないのだ。それに手だけでなく脚も動かす必要がある。
六つのペダルが足元にあり、右足で三つ、左足で三つ担当する。一番内側のペダルは脚部、真ん中は背中、外側は腕のブースターを動かす。
基本的にはこれらを全て使って機体を操作するのだが、空中での挙動は想像できないので身体に染み込ませるしかないだろう。
一番低いレベルで基本操作を学び、動かせるようになったら武器を使う。動かない的に銃弾を当てたり、接近して切りつけてみたりと、ひと通りの動きは理解した。
しかし、これを一日でできるようになるというのは到底不可能だった。不可能に近いのではない。完全に不可能なのだ。
アーマードギアを何年も乗っている兵士でさえ、咄嗟の判断が非常に難しいのだとシューベルさんは言った。そのためにアシストがつき、操作にのみ集中できるようになっているのだとも言っていた。
三時間ほど経ってから、僕たち二人はシミュレーターを出た。
「お疲れさん」
と、シューベルさんにタオルとドリンクを渡された。こんなに汗をかいていたのかと思うほど、タオルはあっという間にひたひただ。
それはエルアも同じだったようで、彼女の顔はすでに満身創痍といった感じだった。
幸いにも、彼女は非常に物覚えがいい。実に器用で繊細だ。言われたことは忠実に守り、それがキチンとこなせてから次のステップへと移行する。生真面目だが、器用だからこそ折れずに順調に成長できる。
心の底から、いいパートナーだなと思える。
壁際のベンチに腰掛けると、エルアが隣に座ってきた。大きなため息をつきながら寄りかかってくるが、こんなに汗をかいているのに暑くないんだろうかと考えてしまった。




