一話
スーベリアットを経由せず、マクランディから直接ファーランガルへとやってきた。マクランディの時のように、森の中などに降り立つものだと思っていた。
「森……なのだろうか……」
人の気配はないが、草木は機械と同化し、地面も銀色でやたらと硬い。一応土もあることはあるが、鉄板の上に土が乗っているという感じだ。つまり金属が根底にあるという、スーベリアットでは考えられない構造をしている。
「これがこの世界の森なんでしょうね」
今回は召喚する必要がなくエルアが一緒にいる。彼女は数ある中で一本の木に近付き、その表面を何度か撫でた。僕も同じようにして樹木の表面を撫でるが、その感触はつるつるとしていて妙に無機質だ。
木々も地面も鈍色。しかし同色ではなく継ぎ接ぎだらけで、複数の鉄板を何枚も繋いでいるような感じだ。科学や機械が発達しているんだかしていないんだか、なんだかちくはぐでどう受け止めていいのかわからない。
まだ日は高く空は青い。雲があるところもスーベリアットと変わらない。ただ、空を飛ぶたくさんの飛行船やロボットらしき物が目立つ。
父さんからの事前情報だと、様々なものが機械と融合した世界だ。生物、機械、科学、魔法といろいろなものが合体しているが、魔法を使った機械工学が一番発展しているらしい。
今回はエルアートと二人で移動することにした。マクランディでシンドラを隠していたことが、あそこまで有効に働くとは思わなかった。なにかがあった時のために、祠徒たちは出さないことにした。
森を抜けると、今度は土すらもなくなった。しかし、目の前には大きな門があり、門からは左右に高い壁が伸びている。全てが鈍色でなんだか目が痛くなる。
「安瀬神縁様とエルアート=ファランド様でしょうか?」
こちらに気付いた門番らしき人物が声をかけてきた。額には厚めのゴーグル。胸当てというよりもプロテクターという言葉が似合う装備。右側の腰に下げた銃は、レーザーでも出るのかというくらいにゴテゴテとしている。左側の腰には太く短い棒を下げているが、これは光の剣でも出すのだろうなと推測した。
「はい、スーベリアットから来ました」
「お待ちしておりました。こちらへ」
門の横にある台座に門番が手を触れると、門がゆっくりと横にスライドした。門というよりも大きなドアという方が正しいのかもしれない。
大きなドアの中は、なんだか不思議な光景が広がっていた。
僕はこの世界についた時、スーベリアットが発展した先にある近未来を想像していたのだ。
しかし、今目の前にあるのは少し違う。
地面は相変わらず鈍色の鉄板が張られている。が、妙に油臭く、工場のような大きな建物がたくさん立ち並んでいた。天へと上る黒い煙、耳をつんざく甲高い金属音。科学の発展が遅く、機械だけが先行して発達してしまったからだと思われる。
門番に連れていかれた先は、この集落の中央にあたるであろう背の高いビルだった。第八支部の半分くらいで、しかも壁面はこれもまた金属製。この世界の人間はどこまで金属が好きなのかと妙な勘ぐりをしてしまうほどだ。
そのビルに行く間も、鉄板で作られた民家や工場ばかりだった。たまにスーパーらしき店なんかも見られたが、食料を売るような場所とは思えなかった。
ビルの中に入ると、ツナギを着た老人がエントランスの中央に立っていた。
「おお、キミがミスタータイガの息男か。ワシはシューベル=エインズ、二人の話は聞いておるよ」
ふさふさの髪と髭は白一色。身長は僕よりもずっと低く、エルアと同じくらいなんじゃないかと思う。色黒の肌とツナギがマッチしていて、偉い人だとは考えられないくらいだ。
「こんな格好ですまんな。とりあえずこっちに来てくれ」
と、シューベルさんは白い歯を見せて笑った。堅苦しいよりも喋りやすいかと自分を納得させた。
彼についていくと応接室に案内された。高価そうなソファーに座り、現在のファーランガルの様子を聞くことになった。
「この世界を見て、いろいろとおかしいところがあると気付いたろう。それも無理はない。我々は機械に頼り、全てを機械化するなどという暴挙に出て失敗した。機械の腕や脚、こちらではオートソマティックと呼ぶが、人体の機械化だけにはとどまらなかった。動物や植物のDNAに細工をし、金属を有したまま生命を誕生させた」
「なにか問題でもあるんですか?」
「そうか、そういえばスーベリアットでは動物は希少価値が高いんじゃったな。人工肉などを食べているという話をタイガから聞いたことがある。そうだのぅ、ファーランガルでは動物や植物を食べるという習慣がある。もちろん狩猟や採取をしてな。動物などが金属を含有すると食事として摂取できなくなる。それに寿命やカダラの作りの個体差が大きくなり、一種類の動物が長く存在できなくなったりしたのだ。機械を使った事業は発展し、技術力だけは日夜向上している。その実、食事は制限され自然はどんどんと少なくなった。まあ、これがファーランガルの実情じゃよ」
「それぞれの世界に、各々の問題を抱えてるんですね」
「加えてミュレストライアからの脅威。正直頭が痛いわい」
「シューベルさんはファーランガルではどういう立ち位置なんですか?」
「ああ、すまんすまん。一応ファーランガルには五人のトップがいるんじゃが、そのうちの一人だと思ってくれていい。五人は同じくらいの権限を持つが、ミュレストライアに対しての軍事運用を任されているのがワシというわけじゃ」
「なるほど。では、ミュレストライア兵の侵攻がどこまで進んでいるかを教えてもらえますか?」
「そうじゃな」
シューベルさんが指を鳴らすと、僕の右側、シューベルさんの左側に透明のモニターが現れた。世界地図が表示され、この世界の勢力図が映し出される。
「大陸が五つ、それらをトップに立つ五人が統べている。そして、そのうちの三つの大陸がミュレストライアの手に落ちた。このバド大陸はまだ無傷だが、もう一つのハーナム大陸は半分を侵略された。じきにこの大陸も侵略されるだろう」
「それをさせないために僕が来たんです。なんとかしてみせますよ」




